第11話 アイシャ、紅《あか》き絡繰と激闘す

「敵負傷、追撃に――」

「させねェよ、このポンコツ野郎ッ! 熊猫拳シュンマオチュアン!」

 紅い絡繰兵からくりへいを威圧するようにアイシャが勇ましく躍り出て、熊猫拳による重い一撃を加える。

「こっちにきやがれェェェッ!」

 ――縮地脚スォディジャオ

 京と違い、あえて相手を竹林に誘い込むように縮地で動く。

 アイシャとて京が技を繰り出していたのを見ている。いまこそ修行の成果を見せる時だ。

「脅威と判断、排除を優先する――」

 ――読み通りッ!

 アイシャは口の端を吊り上げる。どうもこの絡繰兵、妙な人間臭さがある。強者との戦いを好んでいるようなところが垣間見えた。

「障害物を排除――」

 相も変わらず感情を感じさせない声だが、青龍刀を乱雑に振り回す姿は逃げ回るアイシャに苛立っているように感じる。

「射撃開始」

「そういや、変形させるんだったよなッ!」

 またボウガンかとアイシャが気を張るのだが、

「砲撃による殲滅を開始」

 砲のような形に変えてきた、腰だめにして構え、撃ってきた。

「おい!?」

 弾は当たりこそしなかったが、背後で小規模な爆発が起こった。アイシャの額に冷や汗が流れる。

 ――皆を殺したのはこんな危険な連中だったのか……?

 アイシャは再び恐怖に震えてしまいそうになるが、首を横に振って恐怖を振り払う。

 ――師範せんせいを守るんだ!

 再び決意を固めた。ここでアイシャが戦意を喪失すれば、おそらく負傷している京に向かうだろう。

 こちらの戦意がこの絡繰兵が標的を定める基準なのは間違いない。機械あるはずの絡繰兵がどうやって相手の戦意を計測しているかは知らないが。

「その薄気味悪い面、カチ割ってやるぜ!」

 アイシャは飛翔――。

「――!?」

 赤い絡繰兵は視界から消えた事に困惑させられているようだ、どうにも本当に人間臭さを感じさせる。

 だが、戸惑ったのは一瞬だ。赤い絡繰兵は砲を青龍刀に変形させ、落下するアイシャを待ち構える。

「!」

 アイシャと赤い絡繰兵、どちらが早いか。

「……」

 ――間に合って……!

 負傷していた京は起き上がり、戦いを祈るような気持ちで見ていた。そして――。

「!?!?!?」

 赤い絡繰兵の頭は真っ二つに裂かれ、まるで血管のような配線がむき出しにする

 そして――。

 ――決まったッ!

 赤い絡繰兵が青龍刀で斬るより早く、アイシャの踵落としが直撃したのだ。技の名前は決めていなかったが、その一撃はすさまじく重い。

 アイシャの勝ち、紅い絡繰兵はその場に倒れた。

「敗北を確認、消滅開始」

 いつものように消滅するのだが、

 ――卑怯な奴じゃなかったんだな……。

 見境はないが、ある程度の矜持は持っていたのだろうとアイシャは感じていた。

「大丈夫か……って!?」

 アイシャが京を気遣う。背中の傷は青龍刀で斬られたはずであるのにある程度は塞がっている。

「まァ、年食ってるのにこんな姿だし。普通の人とは違うってわかってたでしょ?」

「ババア、無理すんな……」

 立ち上がる、体力までは回復しきっていない。アイシャが肩を貸す。

「……ありがと。そうね、軍の詰所で話しましょうか、報告しなきゃいけないし。それに私が一体何者なのか聞きたいでしょ? いい加減話さないとって思ってたし」

「わかった、わかった。だから、無理すんな」

「すぐに回復するから、大丈夫だと思う」

 まず二人は、麓の街へと向かおうとするのだが、


「立場逆転かァ。今度は私が負ぶられるのね」


 三か月前の事に言及する京は意地の悪い笑みを見せた。

「バカなこといってんじゃねェよ……。ババアはホント、ババアだな。ホント、しょうもねェなァ……」

 それを聞いたアイシャは呆れて溜息をついていたが


 ――ホント、師範せんせいが無事でよかった……。

 

 内心では京の無事を喜んでいた。



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