第6話 アイシャ、修行を始める。

「疲れた。面倒だし、俺は寝る」

「ちゃんと布団あるからね。まァ、ボロいけど……」

 道場についたのは夜だった。アイシャは疲れていたのか、道場に着くなりその場で雑魚寝しようとしたのだが、ケイが止める。

「いや別に……」

「遠慮なんてしないしない」

 京はえらくノリノリで収納から布団を出した。

「さ、寝ましょ」

「あーあー、わかった! わかったよ! 大人しく寝ればいいんだろ……」

 二人は布団をかぶって寝る事にする。

「おやすみ~」

「……」

 アイシャは顔をそむけたが、京はニヤニヤしながら布団に入る。 


「……」

 目が覚めたアイシャの耳に聞こえたのは、鍋が煮立った音だ。

 囲炉裏に薪をくべて火を起こしていた。

「おはよー。丁度、粥が煮立ったところよ」

 粥の材料は米、街でもらったネギなどの野菜に卵だ、いい匂いがし食欲が沸く。

「……」

 アイシャは最初は苦い顔をしていたのだが、腹の虫が鳴る。

「ほらお腹減ってんじゃない。腹の中に何か入れないとキツいわよ?」

「わかったわかった」

 と、京から粥の入ったお椀を受け取り、食べる。ネギの辛み

「うめェ……」

「ばあちゃんのお勧め粥よ」

 ばあちゃん――麓の街にいる街長まちおさの得意な料理のようだ。

「時間があったら麓の街に遊びに行こうね」

「いや、いい」

 京の提案にアイシャは心底嫌な顔を向ける。

「俺、お尋ね者だろ? 捕まるんじゃないのか?」

「昨日も言ったけど、軍や役人に顔が効くからそこは大丈夫」

 アイシャに安心しろと京はフッと笑う。


「ただまたアイシャが追い剥ぎするようなら。……私も打ち首だろうけどね」


 京が声の調子を落とし真顔で恐ろしいことを言う。街の者たちの大きな信用を裏切れば当然、報いが待っている。覚悟の上で弟子にするといったのだ。

「……」

 どうやらアイシャにもそれは伝わったようだ。京がアイシャを弟子にするというのは嘘偽りがないことだと。 

「……わかったよ、努力してみる」

「大丈夫。根っこはいい子なのはわかってるから」

 ポンポンと頭を撫でるのだが、アイシャは、怒ると思いきや――、

「あー……もう、わかった。頭に触る前に、触るって言ってくれ」

「おっと、ごめん」

 アイシャに言われ、手を放す。

 ――何かトラウマがあるのかな……?

 触られることを特に嫌がっている事から相当荒んでいたのだとわかった。

「それじゃ、朝ご飯を食べたら。走って山頂まで――」

「え……?」

 アイシャの顔が青くなる。さすがに走って山頂に行くというのは想像すらしていなかったようだ。

「いったでしょ、まずは身体を作るって、これも修行よ。大丈夫、アイシャは習い始めた私より体力があるから」

「お、おう……! 俺はババアより体力あるからな」

 しかしアイシャは単純で、褒めたらいっきに調子付いたようだ。

「よーし、それじゃ道着に着替えて。山頂に着いたら組み手稽古しましょ」

「へッ、ババアを倒して見せるぜ、見てろ」

 アイシャが啖呵を切る。気合は十分なようだ、気合いだけは――であるが。

「よっしゃ、その意気よ。私についてらっしゃい。当然、最初は無理はさせないけどね」

 さすがに京とて鬼ではない、基礎体力を付ける事が目的なのだから、脱落させては意味がないのだ。

 

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