第11話 心の距離

『別れなど見えなかった光で眩しくて』


今、思い返すと光を求めて暗闇の中をずっと彷徨っていた私。

S子との日々は永遠でもあり、非現実的な幻のようだったと今は思う。


『ずっと一緒に居れたらイイね♪』


そう言ったS子との付き合いは、すでに一年以上が経過していた。

そろそろ『二人だけの生活』が脳裏に思い浮かぶ。

昼間のサラリーマンだけでは収入が少なく、彼女と同棲生活をするには先ずは現金がどうしても必要だった!


『うん!俺も仕事頑張らなきゃ(笑)』


私は「昼間のサラリーマン」と「夜の仕事」の、ダブルワークを行うことを決意した。

でも、彼女と幸せな生活を過ごすために始めたダブルワークが、結果的に彼女と会う機会を減少させて、彼女を孤立させてしまったのだ。

そして私がダブルワークを始めた頃の彼女はこう言っていた。


『TETSUOがやりたいことだから、全面的に応援するよ♪』


そう言って私の仕事に理解を示してくれた彼女だった。

でもその三ヶ月後には、夜の職場まで彼女が来て自分の思いを爆発させた。


『私と仕事どっちが大切なの!?』


そのことが原因で彼女の苛立ちは限界に達するんだ。

実は、彼女へ同棲する資金を作っていることは内緒にしていた。

ちゃんと現実的にダブルワークが軌道に乗ったら報告するつもりだった。


『そんなのS子が一番大切に決まってるよ!』


夜の仕事は実績報酬だったから、結果が伴わなければ報酬を得ることが出来ないのである。

だから彼女へは心配を掛けまいと黙っていたのだ。


『じゃあ!もっと私との時間を作ってよ!!!』


実は彼女の前では「寡黙なタイプ」を装っていた私。

それは彼女の好みでもあって「物静かなTETSUOが好き」って言ってたからだ。

本当はよく喋るタイプであったが、彼女の理想に近づきたいと思っていた自分が居た。


『二人の時間はちゃんと作るから、もう少しだけ待ってくれないかな?』


以前、ポニーテールが好きだって言っていた私のセリフ。

今度は私が彼女の「理想の男性」に近づきたくて、自分ではない不自然な自分が居ることに気付いてたんだ!


『もういい、TETSUOの好きにすればいいわ!』


彼女と同棲がしたいと思ったのは自分の意思だったが、そのことが原因で自分を精神的に追い込んだのは間違いない。

自分の思い通りにいかない現状に、知らない間に彼女へも冷たい態度を取っていたのかもしれないと。


それが全てでは無いけれど、少しずつ彼女との歯車が合わなくなった。


そして彼女との「心の距離」が出来てくるなんて思ってもみなかった!

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