第9話 二人の未来
在り来たりだが彼女とは、よくカラオケに行った。
私は歌を歌うことにストレス発散を感じていたし、そして何よりもS子の歌声を聞くことに幸せを感じていた。
彼女は18歳だったが、私が知らないオールディーズな曲も歌ってくれた。
『あー!懐かしいこの曲!!!私、大好き♪』
そう言って曲を選択しながら喜ぶ彼女がいた。
彼女が歌った曲の中でも私が印象的だったのは竹内まりやの『駅』だった。
切ない男女の再会を表現した歌詞がとても印象的だ。
しかし、愛する心なんて他人には分からないだろし、私がどれ程S子を愛してるかなんて彼女には伝わらないのだろう。
その歌詞を聞きながら少し冷めた自分もいたのだ!
『じゃあ俺はいつもの尾崎豊ねー!』
彼女から教えてもらった尾崎豊が、私の定番曲だった。
S子と過ごす時間は本当に楽しかった。
それは彼女の真っ直ぐな感情表現と、影日向の無い性格のお陰だと実感した。
彼女は私に毎日こう言ってくれた。
『TETSUOのことが大好きだよ♪』
そして彼女はこうも言った。
『TETSUOとの愛の証しが私は欲しいの!』
彼女の未来には私と言う旦那が隣に居て、そして私との間に子供が欲しいと望んでいたのだ。
それは私も揺ぎ無く同感する望みだった。
そして、この感情が永遠だと疑わない二人がそこには居たんだ。
『S子とは永遠に一緒だよ』
言葉で言うのは簡単だが、やはり有言実行だと心の中でそのことを決意した。
S子は高校を卒業すると、ある会社の事務員になる予定だった。
彼女がその会社へ面接に行く前日、私は彼女とデートの約束をした。
待ち合わせの場所で車を停めると、すぐに彼女が車に乗り込んで来たのだが…
胸元まであった長い髪を切り、肩までのショートヘアーに変身していたのだ!
『どうしたの?その髪?』
『髪は女の命』であろうが、高校卒業の条件を学校側から出された彼女。
生活態度や身なりを正さないと留年だと担任の先生から言われたのだ。
だから、彼女は高校を卒業して社会人になるべく自分の感情を押し殺して、大切な髪をバッサリ切って明日の面接を受けようとしたのである。
『ごめんね…こんな私で』
彼女は多くを語らず、私の腕の中で悲しんでいた。
私は彼女がどんな身なりになろうと、彼女への想いは変わらない。
もし彼女が尼さんになって、スキンヘッドになったとしてもだ!
『ショートのS子も好きだよ(笑)』
私は思ったことをストレートに言葉にした。
『私はTETSUOが居れば、他に何も要らないよ!』
この瞬間に私の心は大きく動いた!
ずっと閉ざされた私の心の扉が開放されて、そして私の心は全てS子で埋め尽くされた。
『S子のことを一生大切にする…と』
そのことだけが私の全てになった。
でも、その想いが強くなったことが
『二人の未来』を変えていくのであるとも知らずに・・・
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