第7話 ニーチェの言葉

ニーチェの言葉に、こんな詩がある。


『愛されたいという要求は、自惚れの最たるものである』

極論を言えば愛なんて自惚れでしかないってことなんだと。


レディーに対しては優しい言葉を贈ることも大切だが、贈り物をするとレディーがもっと喜ぶことは理解していた。

彼女と出会って半年が経った頃から、月末になると花屋さんへ足を運んでは花束を購入するように私はなった。


『はい!この花束はS子をイメージして貰ったよ』


それは黄色を基調とした明るい花束だった。


『ありがとう!綺麗な花が咲いてるね🎵』


何の記念日でもないけれど、彼女へ花を贈ると凄く嬉しそうな笑顔をしてくれた彼女。

彼女の笑顔を見つめる自分も好きだったんだろうね!

まさにこれが『自惚れの最たるもの』なんだろうか?


『その黄色の花は、S子によく似合うよ‼️』


『花は心の食べ物』だって先輩はよく言っていた。

その先輩は結婚してからも奥さんの誕生日には、必ず花を贈っていることを教えてもらった。


『うん!素敵な香りがするね❤️』


自分もそんな先輩の真似をして、彼女へ花を贈るようになったんだ!

彼女はまだ学生だったから、小遣いの範囲で私にも贈り物をしてくれた。

私の誕生日には手作りのケーキとクッキーを贈ってくれたこともあった。


『私の下手くそな手作りだからゴメンね!』


彼女からの贈り物に形なんてどうでもよかった。

彼女の手作りと言うスペシャルプレゼントと思うだけで嬉しいのだ。


『このクッキー甘くて美味しいよ(笑)』


私はそう言って彼女の手作りを味わった。

そんな彼女の精一杯の優しさが私の心に沁み渡った。




彼女と知り合って初めて迎えた彼女のある誕生日。

名古屋港にある海の見えるレストランで、夕日を見ながら彼女と食事をした。


『海に沈む夕日って素敵だねー』


私は彼女の背中を軽く抱いてそう言った。

そして夜の海を二人で眺めながらお喋りも楽しんだ!


『ライトに照らされたブリッジが凄く綺麗⭐️』


その夜は彼女の笑顔が絶えることが無かった。

そして駐車場に戻ると、私が彼女へあるお願いをした。


『車のトランクに荷物があるから取ってくれない?』


実は彼女の誕生日祝いに真っ赤なバラの花束と、彼女の趣味は分からなかったけどティファニーのオープンハートネックレスを、手紙と一緒にトランクへ忍ばせておいたんだ!


『え?それを私に頼むの?』


そのことを知らない彼女は少し面倒な顔をして、私の言われるがままトランクを開けた。

そして車中へ戻ってきた彼女に、私は飛び付かれた。


『嬉しいー♪ 嬉しいー♪ 最高の誕生日をありがとう♫』


なんとかサプライズは成功って感じだった(笑)

そんな彼女のために出来ることが正に『自惚れ』なんだと思った。


『愛が恐れているのは愛の破滅よりも、むしろ愛の変化である』


ニーチェの言葉を引用するならば、自分をよく見せようと無理に背伸びをすると、彼女の愛が変化するなんて知る由もなかった。


『今夜は楽しかったね!』

私は彼女にそう笑顔で言った。


いつも全力で『愛』という高山を登っていると、息切れもするし全てに限界が訪れるものなのだ!


『素敵な夜をありがとう🎵』

そう言うと私の左腕を、彼女は両手で抱きしめた。


そして彼女の為にと自惚れがエスカレートする度に、私の心と身体は限界に達してしまうんだ。

ニーチェの言葉はこうも語った。


『人は常に前へだけは進めない、引き潮あり差し潮がある』


だが、何があっても前にしか進もうとしなかった私がそこには居たんだ。

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