第361話 笑われました

瑶迦の屋敷にある書庫で、将也がなってしまった『闘神』について調べようと思っていたのだが、着替えに思いの外時間がかかった。


今回も神へと伺いを立てる必要があるのだ。その時間を考えると、落ち着いて調べ物が出来る時間はなかった。


学校に着き、神の小さな社のある場所に、壁越しに立てば、今回は神の方から姿を見せた。金の鳥が高耶の肩に止まったのだ。


《神気の扱いが上手くなったようだな》

「はい……急激に、神気が増えたようで、きちんと制御できるようにと。この指輪をいただけて助かりました」


神気を抑えるという感覚が、この指輪をすることで理解しやすかったのだ。本来ならば、もっと制御する感覚を修得するのに時間がかかるはずだと瑶迦も驚いていたほどだ。


《うむ。役に立ったならば良い。それにしても……同窓会に行くと行っておったが、その間にかなりの神々と知己を得たようだの》

「……はい……必要に迫られまして……」


少し前、同窓会で集まるとのことは、この神にも話していたのだ。


《よくないことか?》

「そうですね……神具を盗む者達がおりまして、それらを捕まえられたのは良かったのですが、それぞれの場所にお返しする前に、神々が来られてしまったのです……」

《それは……なんとも賑やかであっただろう》

「納得いただくのに一晩かかりました」

《はははっ。とんだ集まりになったということか》

「はい……」


笑い事ではなかったが、話を聞くものからすれば面白いだろう。


「海の方の龍神様達の怒りを解くのに、かなり神経を使いました」

《達ということか何柱か居ったか。川のより海のは気性の荒いものが多かろう。それは災難であったな》

「ええ。二度とごめんだと思うほどには……」

《はっはっはっ》


この神も、随分と回復した。表情や感情が出ているのは力が戻って来ている証拠だ。余裕も出て来たのだろう。


「そこで、更に神気が出るようになってしまったので、調整の為に少々修行しました」

《うむ。良く制御できておる》

「ありがとうございます。それでなのですが……新たな式を喚び出したところ……神気を込めてしまったらしく、おそらくその者の適性もあり……闘神になってしまったらしく……」

《……また奇異なことを……なるほど、許可か》

「はい……」

《構わぬ。おぬしの眷属として扱うゆえ、問題ない》

「っ、ありがとうございます!」


既に、高耶自身が神格を得ているようなものなのだ。それを招き入れているのだからそう変わらないという判断だろう。


《よい。数日後の祭りを楽しみにしておる》

「はい」


嬉しそうな目を向けたあと、神はふっとその姿を消した。


許可ももらえて一安心というところで、霧矢きりやしゅうが歩いてやって来た。高耶の姿を認めて手を振る。


「高耶くんっ」

「こんにちは。修さん。ずっと任せきりで申し訳ありません」

「いやいや。高耶くんは、ただでさえ忙しいのに、学生さんだしね。構わないよ」


そんな話をしていると、音楽教師の杉が迎えに来てくれたらしい。


「あっ。高耶さんっ」


杉と会うのも久し振りだった。


「こんにちは」

「こんにちはっ。わあっ、子ども達喜びますよっ。あれからお兄さん先生は? って、聞かれることが多くてっ」

「私も聞かれたねえ。多分、かなり上達したから、成果を見せたかったんだろうね」

「そうだと思います! びっくりするくらい、練習してきてくれて、元の楽譜で弾けるように練習したいって言って来た子も何人か居るんですよ。あっ、どうぞ、入ってくださいっ」


門を開けてもらい、中に滑り込む。そうして、いかに子ども達が高耶に会いたがっていたのかという話をしながら、体育館へ向かった。


「今日は、リハーサルをするんです。順番に学年ごとに。来ていただけて良かったです!」

「それは本当に良かったです……今日を逃していたら、優希に何て言われたか……」


これに、修が苦笑して頷いた。彼も優希のことはわかってきている。


「あ〜、優希ちゃんって、俊哉君曰く、『強い系女子』だもんね」

「はい……」

「ぷふっ。強い系女子っ。なんですかその言葉っ。ふふっ。なんとなく分かりますっ。ふふふっ。良いですよねっ、強い女? あっ、女子っですね。あははっ」


杉にウケた。


「ふふっ、失礼しました。えっと、この後十分後に、一年生から順番に枠を設定してありまして、一学年毎に軽く流す感じですので、素早くいきます。今日は観ているだけになりますから、ゆっくりしていってください」


今日は他の学年は見ることが出来ないらしい。


「分かりました。先生達は……」

「舞台転換とかの最終チェックがあるので、バタバタしますが、お気になさらず」

「大変そうだけど、手伝うわけにもいかないしね」

「はい。お気持ちだけで」


何が問題になるのかを確認できる場だ。部外者が動き回るのは邪魔になるだろう。


「では、修さんと曲の最終チェックをしておきます。修さん。最後に練習しておくこととかがあればそこをメモっておきましょう」

「そうだね。気を付ける場所とか分かった方がいいよね」


そうして、リハーサルが始まる。








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読んでくださりありがとうございます◎




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