第281話 二人の天使?

劇の練習は始まっているが、歌の方はピアノの伴奏がある程度弾けるようになってからになる。


伴奏をやる生徒は、伴奏だけか短いセリフのある役になるため、劇の練習の時間に、音楽教師である杉と修、高耶でピアノの練習に付き合っていた。


劇の練習の時間ということで、学校に行くのは昼間だ。よって、高耶だけは大学の授業がない日のみの参加になっている。


週末の金曜日。


この日は一限のみになったため、午後から一時間ごとに一年生と三年生、六年生のピアノを見られることになった。


「優希と可奈ちゃん、美由ちゃんは、あとは歌と合わせられるようにするだけだな。ソラくんは、これから、一緒に体育館にあるピアノで練習しよう」

「……はい……」


少し元気がない。あまり思うように練習出来なかったのだろう。今の子ども達は、毎日習い事で忙しいし、夜遅くに練習することも、近所迷惑になるからと避けられる。十分に時間が取れないのだろう。


「この後沢山弾けるから、大丈夫だよ」

「うん……」


優希達は、夜でも朝でも周りを気にせずピアノを弾ける環境がある。練習も三人で楽しくやっていたので問題ない。お陰で、ソラ君一人に時間を割ける。


ただ、ここに残す優希達へも課題を用意していくことにする。


「その前に、聞いてもらおうか。杉先生、歌はまだやってないんですよね?」

「あっ、は、はい! 私の拙い伴奏で……更に弾き語りなんて高等技術は無理でして……努力が足りず申し訳ありませんっ!」

「いや、全学年の伴奏を弾けるように練習されていましたし、努力が足りないとは言いませんよ」


弾きやすくした楽譜ではあったが、彼女は苦手な伴奏を全部一通り弾けるようにしていた。教師という忙しい仕事の中、よく努力したと思う。そこは評価したい。


「今日は俺が弾きますね。それで……修さん。二人を入れてください。果泉、瑪瑙めのう


隣の部屋で待機させていた二人を呼んだ。


《はーい》

《こ、こんにちは……っ》

「かっ、カワイイ!! はっ、す、すみません!」

「可愛いですよね〜」


修もメロメロだ。準備室の方で、二人と待っている間、色々話しもしたようだ。まるで孫のように、目元を和ませて頭を撫でている。


「こ、この子たちは一体……」


杉が二人の可愛さに、我を忘れそうになっていた。


見た目の年齢は小学生には見えない。まだ幼い幼児だ。未就学生として誤魔化せる。


「優希の従姉妹ということでお願いします」

「えっと……なるほど。実は天使だったりするんですね。分かりました!」


杉は高耶が神と話をしたりしていたのを見ているため、そういうことも有りだと納得した。


《果泉はキのせいれいだけどねっ》

《メノウは、てんしとあくまのこですっ》

「んん? はっ、なるほどっ。幸花さんの従姉妹ということで納得しました!」


思考放棄を選んだらしい。最初に戻ったが、予定通りなので問題ない。


「そういうことで大丈夫です。じゃあ、この子たちが歌ってくれるので聞いててくれ」


そうして、劇の曲の歌を、果泉と瑪瑙で上手に歌ってくれた。音程も正しく、瑪瑙の見た目からしたら天才的な歌唱力だった。


「っ、なんて尊いっ……破壊力がっ……っ」

「大丈夫ですか? 顔が真っ赤です。水分を取った方がいいかと……」


修が今にものぼせ上がって鼻血でも吹きそうになっている杉を介抱する。それは放っておいて、子ども達の反応だ。


「どうだ? どういう歌か分かったか?」

「うん! こんどは、ユウキたちでひいてみればいい?」

「ああ。交代でな。待ってる二人は、一緒に歌って、どうやって弾いたら歌いやすいか考えてごらん。果泉、瑪瑙、ここは頼むな」


実は、ここ一週間で、密かに二人に全学年の歌を歌えるように教えていたのだ。


二人は歌が好きで、正確には肉体ではないため、声帯疲労もない。いくら歌っても声が涸れることがなく、飽きるまで可能ということだ。


そして、二人の歌は、土地神に力も与えられていた。


「修さん、杉先生とここをお願いします。俺はソラ君と体育館のピアノで練習して来ますので」

「うん。任せてよ」

「録音……っ、録音してもいいですか!?」

「……どうぞ……」

「ありがとうございます!!」


杉がおかしなテンションになっているが、修に任せることにした。


「じゃあ、ソラ君。行こうか」

「っ、はい……」


自信なさげな彼をどれだけ伸ばせるか、それが重要だ。優希達との差を見せつけられた形なのだ。伴奏が決まった当初は、自信がありそうだった所を見ると、余計にショックだったのだろう。


今からならば、三十分は見てあげられる。一レッスン分として、この時間で意欲を取り戻せるかが鍵だ。


土地神も楽しみにしている以上、諦めてはほしくなかった。


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読んでくださりありがとうございます◎

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