第280話 見透かされているようで
珀豪と神社の見回りをした初日以降、時間が空けば果泉を連れて神木のあった位置を確認し、ついでに神木になり得そうな木を探して歩いた。
果泉は人の子らしい姿を取れるようになり、服も優希のお下がりを着ている。そんな果泉と仕事用のスタイルの高耶が手を繋いで散歩するように歩き回る。
もちろん、認識を薄くする術はかけているが、神社内に入る時は、失礼にならないようにと術を解くため、たまたま参拝に訪れた老人たちには声をかけられている。
ここでも年配の女性に声をかけられた。
「おやまあ、可愛らしい。娘さん?」
「こんにちは。この子は義妹です」
《こんにちは〜》
三人に一人は、
「こんにちは。娘さんと言ってもおかしくないわねえ」
「さすがに年齢的に無理がありますよ。それに、父母が拗ねますから」
「あらあら。仲が良いのねえ」
高耶は果泉を優希に置き換えて説明することにしている。
実際、樹と美咲は果泉を優希の妹のように思っているので、全く嘘というわけでもない。
父母が拗ねるというのも間違っていなかった。
高耶が話していると、果泉が裾を少し引っ張って、大きな木に目を向ける。それを確認して、女性に尋ねてみる。
「あの木は立派ですねえ。昔からあるんでしょうか」
「ああ、あの木? そうねえ。私の小さい頃からあるわ」
懐かしそうに見つめながら、女性は続けた。
「恋人同士で手を繋いで、あの木の前からお祈りすると、仲のいい夫婦になれるって言われてるのよ」
「なるほど……ナギの木ですしね」
堅そうなしっかりした葉は濃い緑だ。神社にはよくある木で、神木として大事にされていたりする。
「何か良い木なの?」
「ああ……」
高耶が説明しようとすると、代わりに果泉が答える。
《あのね〜。えんむすびにいいのっ。はっぱがねえ、さけにくいから〜》
「さけにくい……ああ、割けにくいのね? そうだったのねえ。知らなかったわ。ありがとう、教えてくれて」
《うんっ。いまはねえ、ちいさいのも、おはなやさんでうってるんだよ?》
鉢植えの小さなものも売っていたりする。果泉も先日欲しがり、買ってあげたばかりだ。
「そうなの? ちょっと見てみようかしら……」
《うん。きっといいことあるよ》
「ありがとう。ふふっ。それじゃあ、失礼するわね」
「はい。お気をつけて」
《ばいば〜い》
手を振って帰っていく女性を見送る。
完全にその姿が見えなくなってから、高耶は果泉の頭を撫でた。
「何か見えたのか?」
《うん。おじいさん、わらうようになるよ。ちょっとからだもよくなる》
「……そうか」
挨拶された時、女性は、少し疲れているのを誤魔化しているような顔をしていた。年齢的に夫の介護をしているのかもしれない。ここにはそうしたこともあってお参りに来たのだろう。
「太いつ繋がりの糸だったな」
《まいにち、きてるみたい》
「そうか……」
少なくなっても、心の拠り所になっている場所だ。正しく力が巡るように、早急にどうにかしなければならない。
「神木はあの木だな」
《うん。まちがいないっ》
「よし。なら次だ」
神木をチェックして、次に向かう。
まだまだ確認しなくてはならない場所は多い。
《そういえばねっ。メノウちゃん、そろそろおそとにだせるよ?》
「……瑪瑙を……? ひと月前は、まだ力加減が難しそうだったが……」
天使と悪魔、両方の力を宿した瑪瑙。姿は三歳児くらいなので、果泉は弟だとしている。
瑪瑙は、魅了の力が強く、今のままでは誰彼構わず隷属並みの力で魅了してしまうので、その力が制御できるまで、瑠璃と玻璃が天界か霊界の方に連れて行って、面倒を見ている。
たまに召喚しても、瑠璃と玻璃、それと魅了が効かない果泉にしか会わせていなかった。
《こどものせいちょうは、はやいよ?》
「……そ、そうか……すまん」
子どもに諭されてしまった。
《それでね? メノウちゃん、じょうかのおうたじょうずなのっ》
「……じょうかのおうた……浄化の歌!?」
《うん。じょうずなのっ。しってた?》
「知らなかった……教えてくれてありがとう」
《うんっ。とちのかみさまに、きいてもらうといいの〜》
「そのようだな……」
果泉には敵わないというのを、日々実感する。
「……今度学校に行く時、連れて行くか……」
《果泉もいくー》
「……」
少し不安に思いながらも、了承するしかないなと諦める高耶だった。
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