第199話 次から次に
蓮次郎はテーブルに両肘を突き、そこに顎を乗せる。
「さてと。では、まずお狐様について説明しようか。その間に、高耶くんは……」
「場所の特定をしておきます」
「ふふ。頼むよ」
「はい」
高耶は部屋の隅にある別のテーブルに向かう。
鞄に入れてきたタブレットを取り出し、地図を表示する。
蓮次郎達が気にならないように、そちらには背を向け、集中しながらその場所を特定していく。
これが実は地味に面倒くさい。
力を辿れても距離感は分かりにくいし、それを地図上で特定するのは困難を極める。
そこで役に立つのが鳥型の式だ。
「【常盤】」
《はい》
「場所の特定だ。頼む」
《承知しました》
常盤は丁寧に頭を下げると、姿を鳥に変える。光の属性を持つ常盤の本来の姿は、神獣の
淡く光る小鳥となった常盤は、窓から飛び出していく。
それを見送り、意識を繋げる。
「東へ」
『《はい》』
常盤の目を借りながら、
地図で場所を確認しながら進み、二十分ほど経っただろうか。そこに辿り着いた。
「間違いないな」
『《……》』
「どうした?」
常盤が応えを返さないのは珍しい。
しばらく待っていると、常盤が答えた。
『《……おかしな気配があります》』
「おかしな気配……」
これも珍しい。明確ではない回答というのを、常盤はあまりしない。恐らく、何とかしてその気配が何なのか探ろうとしていたのだろう。それでも答えが出なかったということだ。
「鬼ではないんだな?」
『《はい。それと、近くに小さいですが、霊穴が開いているようです。怨霊が多くなっています》』
「霊穴が? 分かった。浄化は無しだ。戻って良い」
『《っ、そちらへ戻ります》』
そのまま送還が嫌らしい。
「なら、召喚し直す」
『《はい!》』
大変嬉しそうな返事だった。地図にチェックを入れてから、常盤を再び召喚した。
「【常盤】報告に付き合ってもらうぞ」
《承知しました》
蓮次郎の方の話は大方終わっていたようだ。立ち上がった高耶に気付いて声をかけてきた。
「もしかして、もう特定できたの?」
「はい。常盤は、地図をもらって来てくれ。霊穴の場所を記したものを」
《はい》
常盤は人化しており、素早く身を翻すと部屋を出て行く。
「霊穴が関係あったの?」
「近くにあるようでしたので、確認を」
「うわあ……やっぱりやめる?」
「……放っておいたらもっと面倒なことになりますよ……」
「それはありそう……やだな~」
高耶も、出来れば関わりたくないのだ。一度でも人と関わりを持ったお狐様の相手など、百害あって一利なしなのだから。
《お待たせいたしました》
常盤が地図を抱えて戻ってきた。大きな一枚の地図だ。それを、蓮次郎の前のテーブルに広げた。
「御神体があるのはここです」
高耶は山の中の一点を指差した。
「すっごい山奥なんだけど」
「……お狐様系はだいたい山奥でしょう……」
「そうだけどっ。周りに人家がないのは有り難いけどっ」
どうしても文句が言いたいらしい。これはもう放っておく。
「それで、常盤。霊穴の位置はどこだ?」
「あ、あれ? そういえば近くに霊穴があるって……もしかして、記録にない新しい所……?」
そのようだ。常盤に持って来てもらったのは、この夏最新版の『霊穴情報地図』なのだから。
《この辺りになります。怨霊の数から推測すると、半年は経っているかと》
「えぇ~、完全に漏れてるし……前の件でも、記録から漏れてたんだよね……他にも小さいのがあったみたいだし、これは、調査のやり直しの検討もしないとダメかな……」
ここひと月。いくつかの除霊依頼の折に、近くに霊穴を発見するということがあった。またかと思って流していたが、いよいよもって怪しくなってきた。
「やるなら、早めにやりましょう。冬になる前に、儀式まで終わらせなくてはいけませんし」
「そうだね……」
霊穴は山奥に多い。そうなると、冬は雪の問題があり、近くに扉も用意できないため、移動も問題が出るのだ。
「それで、こちらの話を進めますが、常盤がお狐様以外にも、おかしな気配があると」
「おかしな気配?」
「常盤。説明できるか?」
《はい》
瀬良達は常盤に見惚れている。だが、気にせず常盤は報告を始めた。
《霊穴が開いていることから、残念ながら特定は難しく、特殊な怨霊の気配かとも考えましたが、今思えば質が明らかに違いました》
常盤は答えに困っていた時とは違う確信を持っているようだった。その予想は外れていない。
《そちらの指輪……それから、そちらの少年が付けているピアスから感じるものと似ています》
いづきの着けている指輪と、誠の着けている黒いピアスを指定され、高耶は目を細める。
そして、感じたものから推測した。
「なるほど……天使か悪魔か」
《はい。それと、霊穴からも微かに感じました》
「霊穴から? まさか……」
《……霊穴で異変が起きているかもしれません》
「……」
問題が山積みされたのが分かった。
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