第198話 似てますね……
二日後。
優希が学校に行くのを見送り、しばらくしてから高耶は駅に向かった。二日空けたのは、瀬良が母親を説得するためだ。
今日は瀬良がその母親と問題の弟を連れてくることになっている。
待ち合わせ場所に着くと、俊哉が当然のように待っていた。
「なんで居る?」
「そりゃあ、高耶が瀬良のやつにいじめられないようにするためだ」
「……」
「あと、源龍さんの代わり」
「は?」
俊哉から源龍の名前が出てきたことに不思議に思う。すると、俊哉はさも当然のように答えた。
「俺、メル友」
「……」
源龍にメル友が結びつかない。それも相手が俊哉というのが違和感がある。
「あの若作りなおっさんと源龍さんって合わないんだろ? だから、俺ならいいじゃん」
「……まあ、良いが……」
源龍は蓮次郎が苦手だ。蓮次郎も、高耶以外とは行動したくないと思っているようなので、今回も源龍は来ない。
「で? どこに行くんだ?」
「連盟で管理している屋敷。小さい会合とかでも使う所だ。守りが万全だからな」
「妖系に?」
「ああ。神子や巫女を一時的に匿うことも出来る場所だ」
「へえ」
そうして数分待っていると、瀬良がやって来た。しかし、予定と違い母親と弟だけでなく、父親と大和いづきもいた。
「大和さんまで……」
「ああ。高耶くん。智世に聞いてね……この頑固者が迷惑をかけそうで」
「っ……」
「ちょっと、お父さん。やめてよ? この事には口を出さないって約束だからねっ」
「分かっている……」
これは少し予想外だ。イメージ的に瀬良は父親には逆らえないと思っていた。妖系を信じない家庭は、頑固者が多い。
だから、亭主関白な家だろうと思っていた。父親であるいづきと瀬良の父親は仲が悪いとも聞いていたから特に。
「親父さん、もっと頑固親父だと思ってたわ。子どもに心が弱いからとか言う父親って、こっちの話なんて絶対聞かないイメージだし」
「俊哉……」
「っ……」
俊哉に遠慮はない。それを聞いた親父さんは、怒るよりとても気まずそうだ。答えをくれたのはいづきだった。
「いやいや。恥ずかしながらそのイメージ通りでな。この二日、私と智世を相手に大喧嘩して負かしてやったのよ」
「あ、躾けたん? 良かったなあ高耶。あのおっさんの所に頑固親父連れて行ってたら、勝手に滅びろとか言い兼ねないんじゃね?」
高耶は俊哉に素直に感心した。蓮次郎のことをよく分かっている。ほんの数時間の内に、よく理解したものだ。
ついでに自分も伝えておく。
「……悪い……俺もやるかもしれん……」
「え、高耶も?」
「お狐様系は本当に……面倒なんだよ……できれば関わり合いになりたくない」
「そんなにか……」
とりあえずはと、高耶は蓮次郎が先に行って待っているはずの屋敷へ案内した。
そこは立派な門のある屋敷だった。
「門からしてすげえ屋敷。土地も広そうだな」
大きな門の前で立ち止まると、すぐに隣の小さな門が開いた。
「お待ちしておりました。秘伝の御当主様。お客様もどうぞこちらへ」
出てきた着物を着た上品な老婆に案内され、屋敷の中へ入る。通り抜けた庭も美しく、高耶以外は圧倒されていた。
「こちらで橘の御当主がお待ちでございます」
「ありがとう」
高耶が礼を言えば、嬉しそうに微笑んで老婆は頭を下げた。
中には蓮次郎と秘書。そして、もう一人優しげな顔の男性が居た。部屋はテーブルと椅子が使えるように板の間になっており、奥に蓮次郎が座っていた。
「お待たせして申し訳ありません」
「いいよ、いいよ。高耶くんを待つのは嫌いじゃないんだ」
嫌じゃないという言葉が嘘ではないのだろう。寧ろ珍しく機嫌が良さそうだった。
「おや。大和さんも来られたのですね」
「はい。息子がついて来ると申しまして……ご迷惑をおかけしないよう、見張りに参りました」
「そうでしたか。では、あちらのテーブルに子ども達を。君はまた付き添いですか?」
俊哉を見つけた蓮次郎はクスリと笑った。
「ちわっす。まあ、お目付役ってやつ? けど、多分役に立つっすよ」
「なるほど。良いでしょう。その姉弟と一緒にそちらに座りなさい」
「は~い。ほれ、瀬良。こっち」
俊哉と智世と弟が少し離れた小さめのテーブルにつくことになる。他は蓮次郎のいるテーブルだ。
「う、うん……マコ、あれ? 目開いてる?」
「……開いてる」
それまで口を開かず、呆っとしていた智世の弟は目覚めたように目を瞬かせていた。
「うそ……マコがこんなはっきり目を開けてるなんて……」
「
母親も驚いていた。
「へえ……で、この子、視えてるの?」
蓮次郎が高耶に問いかける。
「素質は感じます。ただ、影響を受け過ぎていますね。もう、まともに意識が浮上するのも稀なんでしょう。意識的に鈍くしている……というのもあるかもしれませんが」
「……」
誠と呼ばれた智世の弟へ高耶だけでなく、蓮次郎も注意深く目を向ける。
そうして、蓮次郎は秘書ではない男性へ視線を向けた。すると、その男性が式を肩に召喚する。小さく美しい小鳥だ。赤、橙、黄色といったカラフルな色を纏うその小鳥は、羽ばたいて誠の前に舞い降りた。
智世や俊哉、大和達には視えないはずのその小鳥を、誠は息を止めて見惚れていた。
「……視えてるね」
「ッ……こ、これっ……視えないやつ……なの?」
誠は怯えたように立ち上がる。小鳥から距離を取りたいのだろう。腕を組んで身を縮こませ、少し震える誠に高耶が歩み寄る。
「落ち着いて。それは妖じゃない」
「っ……」
そっと肩に触れて落ち着かせるように体温を分ける。
「あの人の式神だ」
「っ、式……神……っ、て、あの式神? 陰陽師の」
「ああ。朱雀だ」
「朱雀……本当に?」
目を丸くして、未だ術者と誠にしか視えない小鳥を見つめる。震えは止まっていた。今は逆に興奮しているようだ。
式を召喚した男性がふっと笑うのが見えた。すると、その小鳥は少し大きくなり、雄鶏くらいの大きさとなる。そして、それは唐突に瀬良達の目にも映るようになった。
「わっ!」
「うおっ」
目の前のテーブルの上に鳥が唐突に現れたら驚くだろう。智世と俊哉が仰け反った。いづき達も驚いて思わず椅子から立ち上がっている。
「ふははっ」
それを見て、愉快そうに男性は笑った。
「これ、からかいすぎだよ」
「ふふっ。父上だって、昔よくやっていたでしょう」
「まあね」
「私はまだ優しいでしょう? 父上は白虎に飛び掛からせていたじゃないですか」
「そうだっかな~」
「……」
呑気な会話から、男性が蓮次郎の息子だと分かってしまった。
「……もう下げていただいて結構なのですが……」
「ああ。うん」
朱雀はふわりと光を纏って消えた。
「……消えた……の?」
「送還したんだ」
「そう……」
落ち着いたようなので、誠を椅子に座らせる。智世も俊哉も少しテーブルから離れているのが、先ほどの驚きを処理しきれていないことを物語っている。
「さて、その子が視えることは証明できたね。では、話をしようか」
大和達は不安そうな表情を蓮次郎に向ける。
これは脅したようなものだなと、高耶だけは内心ため息を吐いていた。
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