第073話 浄化は完了です

そろそろ言葉も尽きてきたらしい。


清晶もゴスロリの女の子も、肩で息をするほどの舌戦ぜっせんを繰り広げた。


「そろそろ落ち着いたか?」

《タカヤっ、私のことどう思ってるの!?》

「ん?」


本来なら詰め寄りたいところを、清晶が留めているのと、弱ってきていることもあり、当初出現した場所から精一杯身を乗り出して聞いてくる。


《主様、こんなのに答える必要ないよ。さっさと消えろ》

《なんですって!?》


このままでは二回戦が始まってしまう。それは流石さすがに時間がもったいない。


ため息をついて高耶は少し考えながら答える。


「どうって、手の掛かる妹みたいな? というか、最初からそう言ってたろ? ほれ、もう帰る時間だぞ」

《うわぁぁん、子ども扱いぃぃっ、私の方が年上だもんっ》

「そうだな。なら姉さんと呼べるくらいの落ち着きを今後期待する。【黒艶】」


喚び出したのは人化した状態の黒艶こくえん。闇を司る式神だ。浅黒い肌に黒いタイトドレス。女性らしい曲線美きょくせんびをこれでもかと見せつける色気のあるエキゾチックな美女だ。


《ぐっ、こ、黒艶……っ》

《なんだ、また主を口説きに来たのか? うむ……その状態となると、あれか、口説いた男に返り討ちに合ったか。懲りんやつだ》

《むっ、むっ……っ》


少女は自分の体と黒艶の体を見比べながら唸っている。昔からこうだ。どうも黒艶には強く出られないらしい。色々負けていると感じるのだろう。


「黒艶、悪いが送って行ってくれ」

《承知した。ついでにこれの父に一言告げてこよう》

《ちょっ、そ、それはっ》

《行くぞ。これ以上、我が主に迷惑をかけるな》

《ひっ……》


こちらからは見えなかったが、威圧したらしい。彼女が威圧すると、赤黒い瞳が爬虫類はちゅうるいのそれに変わる。受けた者は、獲物と認識されたような気になるのだ。


《ではな、主》

「頼んだ」


完全に怯んで固まってしまった少女の首根っこを掴んで、黒艶は見惚れるほど美しい笑みで振り返るとそう言って姿を消した。


そこに残ったのは清晶と未だ少し黒い何かを放出している刀だけ。


「さて、仕上げるか」

「ちょっ、な、なぁ、高耶……あのゴスロリの子とさっきの美女は……っ」

「ああ、女の子の方は吸血鬼だ。その他の説明は後でな」

「お、おう……え? 吸血鬼!?」


色々あり過ぎて呆然としている男達を放置し、高耶は刀の方へ近付いていく。


じっくりと見つめた後、おもむろにそれを手に取る。同時に拘束していた光の帯が消えた。


鞘から抜こうとして、それが出来ないことに気づく。状態を確認すると、びているようだ。このまま引き抜けば傷めてしまうのは目に見えている。


《時戻しは?》

「そうだな……呪いが付いた時点までしか戻せんが……」

《そこまで戻れば抜けるんじゃない?》

「結構前だぞ……俺でも浄化する余力が残るか分からん」

《常盤にやらせれば良いじゃん》

「……なるほど【常盤】」


力が足りなくなるなら式神に頼れというのは、間違ってはいない。とはいえ、召喚するだけでも力はそれなりに使うのだが、高耶の場合はかなりの低コストだ。これは生れながらの素質だった。


本来の陰陽師ならば、式神を顕現させておくだけで力を相当使う。けれど、高耶と誓約している式神達は格が高いため、顕現するのに式神達自身で力を外界から供給することが可能だった。


よって、こうして召喚してしまえば、後は彼らの能力を使いたい放題というわけだ。他の陰陽師達が知ったら、間違いなく強い妬みを持たれるだろう。うらやましくも便利な関係だ。それなのに、高耶は彼らを便利に使うのが嫌で、自分の力でなんでもしようとする。


式神達にしてみれば、もっと頼れと言いたい。むしろ、毎回煩いほど言っているのに、こうして進言されない限り使わないのだ。


現れたのは光をまとったおおとり。けれど、すぐに人化して高耶の傍で片膝をついた。


《ご命令を》

「……それやめろって……これから時戻りの術でこれの刀身の状態を呪いが付く所まで戻す。清晶が清めるから、鞘から抜けた後、呪いを浄化してくれ」

《承知いたしました》


やめろと言われて立ち上がった常盤ときわは、胸に手を当てて高耶の指示に頷いた。


無駄にキラキラしい金の髪のイケメンは、真面目すぎて困る。


「始めるぞ」


時戻りの術は、ただ幻視するだけと違い、本来の世界のことわりを曲げるものだ。それだけ抵抗も強く、難しい。どれだけ優秀な術者であっても、これだけは無理だろう。


それでも高耶にはできてしまう。これも秘伝家当主のみが扱える秘技だった。とはいえ、歴代最高の力を持つ高耶だからこそ可能となる部分は大きい。


綺麗に洗われた刀身が引き抜かれる。鞘から出ると、一気に呪いの力が放出される。しかし、常盤はそれをまとめ、凄まじい威力で浄化した。


黒い呪いの力も、浄化の光も消えた後、高耶の手にあったのは美しく研ぎ澄まされた刀だった。


「これで完了です」


そう告げて刀を鞘に戻す。そうして、元のように箱に納めると、未だ呆然としていた克守へと差し出したのだ。


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