第074話 責任転嫁と言われても

思わず差し出された刀の入った箱を受け取った克守は、呆然としながらそれと高耶を見比べる。


先程から、怖いくらい固定された視線が三対、突き刺さっているが気にしない。自分の依頼人は克守なのだから。


重い空気を感じて、常盤ときわがそれを変えるように声をかけてくる。相変わらず空気の読めるやつだ。


《主様、私はこれで失礼いたします》

「ああ。悪かったな」

《いえ、いつでも御呼びください。他の式同様、常にお側に在りたいと願っておりますので》


これは遠回しに珀豪はくごう達が羨ましいと言っているのだろう。現在も珀豪達四神は、自宅で優希と楽しく過ごしているはずだ。だが、常盤はこの真面目一辺倒いっぺんとう気性きしょうだ。何より、日本の家にキラキラした勇者か騎士のような彼が居るというのは強い違和感がある。


「……すまん。わかった。また喚ぶよ」

《はっ、心待ちにしております》


そう言って常盤は姿を消した。


「清晶ももういいぞ?」

《帰れってこと? やだよ。なんか失礼な奴がいるみたいだし、たまには一緒にいてもいいでしょ》


清晶には珍しく素直に甘えている様子も見せた。それならばそれで構わない。清晶が高耶をしたっていることはよく分かっているし、他の式がいない今、意地を張る必要もない。こんな時もあって良いだろう。


「そうだな。帰りにどっか寄るか」

《……うん……っ》


恥ずかしそうにそっぽを向いたが、嬉しそうだったので良しとしよう。


そこで、再び前に目を向ける。だが、相変わらず克守は混乱したままだ。ならば、ここは俊哉の出番だろう。


小さく頷いて俊哉へ目を向ける。目が合ったと同時に彼は再起動した。


「なっ、なぁ、高耶っ。吸血鬼ってどういうこと!?」


時間が止まっていたようだ。そこかと目を瞬かせた後、苦笑して説明を始めた。


「吸血鬼は吸血鬼だ。日本には少ないけど、大陸の方にはそれなりに居て、普通に暮らしてる。彼女も向こうの大陸に住んでいるんだが、あっちの陰陽師……エクソシストに手を出したらしくてな。弱っていたところを霊体になって回復のためにあの刀に取り憑いたんだ」


人に害意を向けない限り、更にはその存在が明るみに出て混乱を招かない限り、エクソシストは彼らを攻撃したりしない。


中には目の敵のようにして一方的に退治しようとするエクソシストもいるのだが、今の時代は比較的平穏を保っていた。


「吸血鬼ってぐらいだから……やっぱ血を吸うのか?」

「いや、あれは緊急の場合だ。彼らは必要とする魔力が多いんだが、自然の中から吸収すれば問題ない。ただ、一番魔力を内包していて、摂取しやすいのが血ってだけだ。特殊な力を使うとそれだけ消費が激しい。それを補うのに昔は人から血をもらうこともあったらしい」


彼らの力は強大だ。そして、人とは違う長い寿命を持っている。それが異端いたんの者としてエクソシスト達の標的ひょうてきとなった。


追い詰められ、戦う中で魔力を補うために人を襲った。彼らも生きることに必死だったのだ。


「刀とか剣は命を取るものだ。だから、魔力が溜まりやすい。その上に呪いっていう高濃度の魔力が集まっていたから、彼女はエネルギー充填のために目を付けたんだろう。まぁ、彼女が弱り過ぎていて呪いに勝てなかったようだがな」


呪いも力が結集されたものだ。彼女達にはご馳走ちそうのようなもの。だが、今回は失敗だった。吸収するにはその力に逆に取り込まれないようにしなくてはならないのだから。その対策ができないほど自身が弱っていると気付かなかったのだろう。


「まだ生身なら大丈夫だったんだろうけどな」

「あ、ああ……透けてたもんな……」

「あいつは特殊なんだ。普通はいくら吸血鬼でも霊体になって動き回ることなんてできない」


いつか戻れなくなるぞと忠告してはいるが、もうくせになっているらしくて中々難しいようだ。


「そ、そうか……で? さっきのダイナマイトボティの姉さんは一体誰なんだ!?」

「ダイ……黒艶の事か? あれは俺の式神だ」

「お、おうっ、名前はコクエンさんって言うんだなっ。羨ましい!!」

「……いや、式神だっつったろ? なんていうか、俺的にはいざという時に頼りになる姐さんって感じなんだが……」


何を思ったのかわかった。本気で羨ましいと思っているらしく、相当力の入った『羨ましい!!』だったのだ。これには苦笑しか出ない。


「なら、なんであの人だけ初めっから人の姿だったんだよっ。それを望んでってことじゃないのか?」

「黒艶の本来の姿は……この道場に入らんからな……喚んだら人化してくれって頼んであるんだ。俺の趣味じゃない……」


確かに、清晶にしろ常盤にしろ、本来の式としての姿を一度見せて顕現した。特別だと思われても仕方がない。


「入らないって……大きいのか?」

「ああ……ドラゴンだからな……」

「……は?」

「いや、その……本来の姿はドラゴンなんだ。黒いカッコイイやつな。人化した姿は、それぞれの個性に合ったものだから、俺がどうこう思った訳じゃない。ドラゴンなのは……俺が悪いんだが……」


こればっかりは言い訳する気はない。何より、高耶も黒艶の人化した姿には最初驚いたのだ。予想では、がたいのある粗野そやな武人といった姿になると思いきや、現れたのが女性。それも、妖艶ようえんを絵に描いたような女王様だったのだから。


「ってか、お前も半分くらい関わってんだぞ?」

「は? どゆこと?」

「あいつと契約した何日か前、お前と映画に行ったんだよ。そこで『マジでドラゴンかっけぇっ』って盛り上がったんだ。それが影響したんだよ」

「……マジか……」


責任転嫁せきにんてんかだとしても、間違いなく俊哉も悪い。


「因みに、清晶がユニコーンなのも、常盤が鳳なのも、その他の式神が他の陰陽師達の式の姿とかけ離れてるのもお前の影響あるから。あの頃、幻獣とかゲームとか俺に教えたのお前だからな」

「ええぇぇ……」


昔から言いたかった文句をこの際にと言えて高耶はすっきりした。目の前の俊哉はそんな理不尽なと困惑しながらも落ち着いたらしく、結果オーライだと満足気に息を吐く高耶だった。


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