第043話 特殊な四神なのです

次の日は宣言通りに昼までゆっくり眠った。とはいえ、いくら痛みに鈍感になっている高耶であっても、その傷を下にして眠る勇気はなく、何度も寝返りを打って、なんとか休んだという状態だ。


「……もういっそ、座って眠ればよかった……」


そう思ったのは、起きようとしていた時間になってからだった。


これを見て、天狐てんこの姿で控えていた天柳てんゆうが苦笑を浮かべる。


《主様は案外抜けている所がありますわね》


それに同意するようにこちらも人型からフェンリルの姿になっている珀豪はくごうが考察を口にする。


《うむ……常に色々と考えておられるから、余裕がないのだろうと我は思う。清晶はどう思う》

《自分の事を後回しにし過ぎ》


仔馬こうまサイズになり、座り込んでいるユニコーン姿の清晶せいしょうが冷めた様子で呟いた。


「……なんでみんなしているんだ……」


おかしな感じだ。思えば、こうして式神を出したままにしていることは今までなかった。


《あら、主様。みんなと言ってはいけませんわ。二神は仕方がないとしても、綺翔がおりませんもの》

「あ~……あいつ、ほとんど喋らんし、居るように感じてた……」

《居ても居なくても同じってことだ》

《これ、清晶。アレは傷付きやすいのだぞ》


珀豪が気にするように、もうひと柱の四神の綺翔きしょうという式神は、無口だが繊細だと思う。既にここに喚んでいないことで傷付いているだろう。


「しまったな……」


後悔を口にしながらも、先ずはでかけようと気持ちを切り替える。


「珀豪はすまないが、昨日に続いて優希を頼む」

《構わぬが……こちらの姿でいるのはなぁ……服を借りても構わぬか?》

「いいぞ。ああ、人型で迎えに行った方がいいな。その姿だと子ども達に怯えられる」

《うむ。それこそ綺翔のやつに頼む方が良いかもしれん。あれの小さくなった姿ならば、その辺の猫と変わりない》


大型犬が小学校の門の所に一匹でいたら、保健所だ何だと騒がれるだろう。今朝もその姿で優希を送って行ったらしいのだが、帰りが面倒だったという。途中で姿をくらましたので良かったが、危なかったようだ。


「そこまで考えてなかった……どんな姿でも珀豪だからな……ヤバい……感覚がおかしくなってる……」


家族に話したことで、公然のものとなったと勘違いしているようだ。それだけ、隠していたことは心苦しいものだった。


「はぁ……慣れていくしかないな」


こういうことも慣れだと自分を納得させ、高耶は珀豪に留守を任せると、昨晩、神楽かぐら部隊が寝泊まりした公民館へとドアを繋いだ。


「さてと、あの女は……」


公民館の中に入ると、部隊を束ねる男が気付いてやってきた。


「御当主。お加減は……」

「問題ありませんよ。それより、預かっていただいた女性の方はどうなりましたか?」

「それならば、つい先ほど連盟の方に引き渡しました」

「そう……ですか。少し話をしてみたかったのですが……いえ、お気になさらず」


あまりにも源龍げんりゅうに似た容貌の女。関係がないとは思えない。それとなく探りを入れてみようと思っていたのだが残念だ。とはいえ、連盟の方も気にするだろう。後で報告を聞くしかないなと諦めた。


「それより、神楽の方はどうなりましたか?」


昨晩は、正式ではないにしろ山神の本来の社で神楽を奉納した。とはいえ、急なことだったのだ。あれでは正式にとはいえない。


祭りは今週末と聞いている。そこでできるのかどうかは、彼に一任していた。


「はい。話し合いの結果、こちらに任せていただけることになりました。と言いましても、今朝方、先方の方が相談しに来られたのです。神楽を舞う予定でした二人の巫女みこが出られなくなったとのことで……」

「なるほど……良いのか悪いのか微妙ですね」


とても喜べないだろう。巫女の二人とは、当然、麻衣子と鬼と通じていた女のことだ。どうやら、麻衣子が宮司ぐうじに話したらしい。


そこで、信用をできるかは怪しいが、本来のこの地の神楽を奉納することができると先日話を持ってきた神楽部隊に、急遽きゅうきょ頼みに来たのだという。


「……清雅さんは、少々心のケアが必要でしょう。手を食べられたのだとお聞きしました」

「ええ。元に戻したとはいっても、感覚はおかしくなっているでしょうから」


手のひらをかじられ、鬼に食われたのだ。その感覚は忘れられないだろう。痛みも時に思い出すかもしれない。それだけ衝撃的なことだったのだから仕方がない。


「そういえば、御当主が充雪殿や神将しんしょうを置いてくださって助かりました。さすがに『深淵の風』を飼いならすような者を捕らえておくのは、生きた心地がしませんでしたよ」

「そこは本当、申し訳ありません。こちらに任せて、そういえばと思い出した時はヒヤリとしました。間に合って良かった」


昨晩は充雪に見張りを頼んでいたのだが、眠るという時になってハッとした。


彼女は、血を抜く能力や精神を喰らう『深淵の風』を使える。これでは預けた神楽部隊であってもただでは済まない。


そこで急遽、高耶は彼女を捕らえ、無力化するために、式神のうちの二柱を派遣した。


結果的に気付いた直後の本当に危機一髪といった時に、何とか対応が間に合ったというわけだ。


「それにしても、光と闇の式神とは……御当主には驚かされます」

「私は純粋な陰陽師ではありませんからね。色々と技も西洋、東洋と混ざっているのです」

「ははっ。確かにそうですなぁ。四神の姿ではない式神など、前代未聞です」

「……いや……契約した時に四神を知らなかっただけなんですが……」

「なるほどっ。道理で」


光と闇の式神はもとより、風、火、水、土の四元素を司る式神の、いわゆる四神は、陰陽師にとっては白虎びゃっこ朱雀すざく青龍せいりゅう玄武げんぶであるというのが常識だ。


しかし、高耶は契約の当初、まだ十に満たない頃で、それを知らなかった。後から分かったのは、式神は契約する術者の思い描いた姿を取るらしい。


本来の四神の姿が、それぞれの力をイメージするのにも助けとなるために、陰陽師が持つ四神はコレと決まっていた。


そんな中で、高耶は違った。その頃、ゲームや空想好きな友人の影響で、学校で幻獣図鑑なども見せてもらっていた。そこから、フェンリルやユニコーンといった西洋のものをイメージしてしまったのだ。


「いやぁ、貴重なものを見せていただきました」

「はは……あ~……では、神楽の件はよろしくお願いします。私は、呼ばれているようなので、山神に昨晩のお礼と挨拶をしてきます」

「わかりました。こちらは万事お任せください。私共は私共のやるべきことをいたしましょう」

「はい。お任せいたします」


高耶は公民館を後にし、山へと向かった。


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