第34話 青きレギオン・4
何かもうおなじみとなった敗残兵の皆様。
このケルテラ国の事実上の虐殺執行軍の司令官や副官に参謀等の上官に当たるやつら30人程、今、一くくりにされて地面の上に座らされている。
「世間知らずの司令官さん、それじゃあ吐いてもらいましょうか。今回の件の内幕を」。
「話すと思うのかね?それよりこんな数の魔法騎士なんかどこから。見た所、どこの国の魔法騎士とも違う。国際賢者協会は武力保持組織でも、武力執行組織でも無いぞ。それゆえに国際社会に受けいられているというのに。国際問題になることはもはや避けられないが、それをわかっているのか」。
ああ、そう来ましたか。まあ、そうですな。こういう相手の弱点になりそうな所をわざわざ攻める。軍人や外交官も時に行う常套手段ですな。
だけど、まあ、今回は色々事情が違う上に、ディストピアの影が色濃く見え始めた昨今、世界賢者協会も非常事態内部宣言を全協会員に発令済みなのだよ。
お前らが辺境の小国過ぎて、情報を集めきれていないだけ。大国の諜報部門はそのほとんどがこの情報を入手済み。ディストピアのことまでは知らんけどな。
世界中が何故かきな臭くなって来ているのは、各種族、各勢力、各国が肌で感じている所。それに伴うそれぞれの変化は、残念ながら平和へと向かう努力よりは戦争準備等に費やされているのが悲しい実態。
もう、うかうかしてられないんだよ。こちらもな。
「ああ、まだそんな事を言っているんですか?ご自分達がしようとしたこともわきまえずに。あなた方が「許されざる罪」を犯そうとしていたのを止めて差し上げたのですよ。それなのにその事に感謝も示さず脅しに来るとは。身の程知らずはどちらなのでしょうね。ああ、そう言えば司令官?あなたはこの廃墟であるターンダヴァン城址をターンダヴァン城と呼んでいましたね。難民を反旗をかかげて一斉蜂起した暴徒扱いで。ただの廃城跡と戦争難民に対してのこの仕打ち。ちょっと直にその目で見学して来てください。上官の皆様もご一緒に。ライオネル、見学ツアーにご案内差し上げて」。
『了解しました、エーネ』と私の真後ろに直立不動で立っていた護衛魔法騎士ライオネルは答え、この場の30人程はザッと前に出て来た「青のレギオン(千人隊)」の魔法騎士もどき達に肩車をされて鎧甲冑の兜より上にかかげられ、そのままにものすごい勢いで走り、ジャンプし、廃城ツアーへと駆り出された。
「うわーっ」とか「ぎゃーっ」とか色々な悲鳴が聞こえるが知らん。
廃城じゃん、廃墟じゃん、こんな城跡。何をぬかしているのだ。
難民じゃん、戦争難民じゃん、何が反旗を振りかざした暴徒の一斉蜂起だ。
寝言は寝てから言え。
その嘘や偽りを持って、自分達の欲得を満たそうと言うのなら。
それも大虐殺の結果で自分達の何かしらの利益を得ようと言うのなら。
それこそ「現実」ってやつを知り、「身の程」ってものを知ってもらおうか。
高くそびえ立つ城壁の上を、いとも事なげに風のごとく疾走する「青きレギオン(千人隊)」の姿。
肩車されたケルテラ国虐殺執行軍の司令官はじめ上官の皆様方が風になびく旗のようにバサバサと後ろに揺らめきながら「あーーーーっ」とか「ぐぎゃーーーっ」とかの悲鳴ごと駆け抜けて行く。
城壁から見張り塔跡まで、肩車したまま大ジャンプ。
また大きな悲鳴。
しっかり目を見開いて見て下さいよ。
この廃城が、現役の城なのかどうか。
城壁眼下に見えるあの難民の群れが、蜂起した暴徒がなのかどうか。
「嘘」や「偽り」を持って、何を得ようとしているのか知らないけれども。
馬鹿も休み休み言え。
戻ってきて地面に放り出され、ヘロヘロになって地面にへばりついた上官の皆様。
開口一番、司令官は私にこう言いました。
「この悪魔め」。
ああん、言うに事欠いてそれか?
「約7千人の難民を民族浄化とやらの大義名分を掲げて虐殺しようとしたあなた方と、私達とどちらがでしょうか?」と、にっこり笑って言い返しました私。
「それともご自分達の方が、今からまだ浄化されたいのですか?」。
始めてこの司令官。怯えの色を目に浮かべました。
どうもこいつらの言語では「浄化」とはイコール「虐殺」のことらしい。
「今から死ぬ?」と本気で言われたと思ったらしい。
これはこれで逆にどう思っているんだ私らを。
世界賢者協会相手ということで、なめていたのも、甘えていたのも、あんたらの方だろうね。
少なくとも私はやる時はやるよ。非殺傷主義だけど。
吐きました。司令官ら。こいつら「力」とか「権力」に本当に弱いな。
今回の裏側は今、はやりの連合がらみだった。
人族の国家は今、連合ブームだ。
前々からある国とある国との条約とか、密約とか、それらは存在したが、今あるのは前例の無い巨大な連合条約機構。
今の現状で、主に二大勢力に分かれて争っている。
条約が最初に結ばれたそれぞれの都市名を持って、バシュナ条約機構とウェルダ条約機構と呼ばれている。
最初は5ヶ国同士と6ヶ国同士の大国同士のつながりで始まった連合条約機構は、今はそれぞれの勢力として25ヶ国以上を超えて従えていた。
この連合国家群。
統一国家では無いし、緩やかな連合というわけでも無い。
どちらかと言うと軍事規律に近い事を背景とした一大勢力権を構成する国家群となっており、やっぱり大国と小国家の違いはあり、また中央部と飲まれていく周辺部の違いはある。
この連合国家群の一員になることは、保護と分け前があった場合の利益を与えられることでもあるのだが、同時に軍役や勢力拡大の義務も背負う。そして飲まれることを拒否した国には、連合への利益提供のための供物となる運命をこの連合国家群は用意した。
要求は、飲まれて連合の一員となり、義務を背負い、やがて来る利益を期待するか。
あるいは拒否して連合より事実上の様々な手段を駆使した侵略を受けて、散々絞り取られた後、何らかの形で併合されるかだった。
やがてこの連合国家群の二大勢力が台頭。
お互いがお互いを敵視し、お互いがお互いを利益獲得のための供物と見なした。
もちろん連合に参加しない国々もあれば、他の勢力図を画策する向きもあったが、この二大条約機構が近年幅を利かせていた。
さて、この辺境の弱小国家群のカルナン国、セルダナ国、ケルテラ国の三国の地域にもこの条約機構への加盟を競う勢力圏の拡大が迫って来ていた。
両陣営からお誘いがあり、脅迫があり、懐柔があった。
この三国は考えた。
元より小競り合いがあった三国だが、文化圏はこの三国でかなり共通のものを持つ。
言葉一つでもこの地域では三国共通の公用語を持っていた。
ここで分れて、つぶし合いの先頭に立たされるのは、デメリットの方が大きいと見なされた。
そこでこの三国に取ってまだ有利な条件を示してくれたウェルダ条約機構に三国同時加盟を内密に打診した。
喜んだウェルダ条約機構はさらに条件を付けて来た。
参加したからには国際的な醜聞はごめんだ。参加国同士で戦争などもっての外。今後の勢力拡大の宣伝政策上、よろしくない。
なので、加盟条件に今後の小競り合いを含む国境紛争を三国同士で行うことを条約加盟中は禁じることを付け足して来た。
条約加盟中なんて言っているけど、もし「抜ける」と表明したら最後「潰される」という結末しか用意されてはいないだろうが。
ウェルダ条約機構は、ナルド民族の問題にも目を向けて来た。
今まで三国の国境限定戦という数年に一度のイベントで、ナルド民族の結束を事前に打ち砕き、勢力を削いできた側面もある。
ウェルダ条約機構側としては、どちらでもよかったのだが、ここに民族問題を根とした不安定要素があるのなら、その解決手段として、以下の二つを提案して来た。
270年前に国を失った三国にまたがる生息域のナルド民族に民族国家を再建させ、新たに四国でウェルダ条約機構に同時参加させて名目を保ち、ウェルダ条約機構勢力拡大の一つの象徴として使うという手段。
そして、ナルド民族そのものを何らかの手段でほぼ抹消し、根そのものを断って不安定要素を排除してから、三国の結びつきを強めた新たな三国の連合国家としての体裁を整え、その上でウェルダ条約機構へ加盟してもらう手段。
もはや後には引けない三国は、このウェルダ条約機構の提案に(提案という名のほぼ強制に)ナルド民族の抹消の方を躊躇なく決めた。
出来レースが組まれた。出来るだけナルド民族の戦争難民が発生する条件を整え、暴発する要素も作り出し、鎮圧目的でナルドの民をできうる限り駆逐する。
ここでナルド民族の暴徒による一斉蜂起の名目で、その集結の象徴としてのターンダヴァン城。
ここで難民約7千人をナルド民族の暴徒による蜂起の名目で虐殺し、ナルド民族には本当に暴徒化して蜂起してもらい、次々と鎮圧していく。
国際社会に対しては、ウェルダ条約機構が様々な手段で押さえると、密約があったと言う。
うわー、狂気の無能連中がいる。無能と言う言葉すら、もはや誉め言葉だな。
どこからどう突っ込んだらよいのかわからない程、穴だらけ。
いや、まず自分達がさらなる謀略の中の駒になっている可能性から考えた方が早くないか?
本気でこれを考えているならウェルダ条約機構も阿保の塊だぜ、ありとあらゆる意味で。
ああ、どう始末をつけるよ、これ。
連合条約機構って狂人達が回しているのか?
乗るこの三国の連中も連中だよ。
大体、国を持たざる民族に国をやろうか、絶滅してもらおうか。
欲得がらみで他人が決めるのが当たり前と思っているこの傲慢と言う言葉でも表現できない傲慢さ。
いつからお前ら全員、他人の命の生殺与奪権を持つ身になった?
自分達の物品だとでも思っているのか?
ああ、まあ、責任は取ってもらおうか。
ちょっと今回、本当に頭に来たぞ、私・・・。
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