第33話 青きレギオン・3


 ずらっと並んだ総勢1000体のサポートサブユニット・・・もとい、人前では謎の魔法騎士団団員の皆さま。



 用意はよろしいでしょうか?



 もうすぐ「民族浄化」とか叫びながら突撃して来る世の中をなめ切った連中の「心の浄化」のお手伝いをして差し上げて下さいな。



 二度とそのような思い違いを抱かぬように、念入りにそのこびりついた歪んだ思いを「浄化」しておいてあげてね。



 と、言っても全部ライオネルなんだけどな。



 私の横に立つ、いつも組んでいるおなじみの等身大ライオネルに「そろそろ来るかな?」と聞いてみる(こいつ副団長扱いになるのか?)。



 『すでに陣形を組んでいます。号令一つで突撃して来るでしょう』とのこと。



 しばらくすると「うおー」とか「わー」とかの雄たけびが聞こえてくる。



 ドシャドシャと軍靴の靴音。



 はい、第一の升形の角を曲がりましたね、そろそろ第二の升形を通過。第三の升形へ、ええと、もうすぐだな。



 来た。もう殺る気満々でなだれ込んできて、前列ぎょっとして立ち止まる。



 後ろから突撃して来る兵士らに押されて、雪崩のように崩れ落ちて「積み重なる兵士達」。



 お前ら言っとくけど、もう少しで「罪み重なる兵士達」になる所だったんだからな。



 ある意味、救ってやっているんだからなこっち。



 まあ、そう思っちゃうこっちも傲慢って言えば傲慢だけどね。



 だけど今回、本当にいらだっているんだ私。



 今、お前達がもしわからなくてもやがてわかる日が来る。



 そんなことも自覚する日が来ないようなら、お前ら本当に終わっているからな。



 今日、嬉々として殺した誰か。



 難民相手だから、誰かの母親や幼い子供ももちろんいる。



 それが自分達の家族らと変わらない人々なのだと、自覚も出来ないようなら。



 今度は自分や家族らが、誰かから何かのスローガンを叫ばれて虐殺される日が来るだろう事をわからないのかな?



 やがて己の身を蝕むその悪意が、今度は誰かや何かに伝染し別の形をまとって今度は自分達を焼く。



 そういうものだということを自覚も出来ないのだろうか? 



 今更だが突っ込んできた連中「えっ、何でこんな所に魔法騎士団が、それもこんな数で・・・」というおびえた目。



 バンッ、バンッ、何人かが魔銃を撃ってきた。



 小型の魔弾が魔法陣を展開しながら魔法騎士もどき達の魔鋼の甲冑に当たる。



 青く光ってはじかれる。



 魔法障壁だ。当然だね。



 ザシャっと一糸乱れぬ動きで全員が鈍器を構えた。



 ザンザンザンザンと隊列を崩さず、900体の魔法騎士もどきがケルテラ国軍に迫る。



 残り100体は難民達に見つからぬようにして、難民防御のために隠して配備。



 まあ、あっちには一兵たりとも向かっていないらしいが、念のため。



 何かがあってからでは悔やんでも悔やみきれない。



 大混乱のケルテラ国軍の兵士達。



 連中の放つ魔銃の小型魔弾は全部、青く光る魔法障壁に阻まれる。



 おお、見たことがある「絶望」の顔色ですな。



 「死相」に近いですよ、突撃隊の皆さま。



 青きレギオン(千人隊)の方が逆に突撃。



 ドスッ、ガンッ、グワッ、キィン、バシュと多彩な音が響き渡る。



 同時に聞こえてくる「ぐえっ」「ぎゃっ」「げふっ」「うおっ」「あーっ」「嘘だっ」「助けて」「母さん」等々の悲鳴。



 様々な鈍器でタコ殴りの目に合うケルテラ国軍の兵士達。



 この鈍器、魔鋼で出来ている超ぜいたく品。一種の魔道具。



 さらにある意味、鈍器そのもので殴っているわけでも無い。



 展開した魔法をまといながら、その魔法効果越しに殴っている。



 なので、ショックアブソーバーやエアークッション付きで殴られているようなものなのだが、逆にこれが効く。



 破壊とかを目的にしていない。純粋な鈍痛目的の打撲兵器。



 痛みと被害が一致しない、ある意味でひどい代物。



 かなりのメッタ打ちにあっても傷も後遺症も残りにくいが、そのたびにボコボコにされて与えられる痛みは本物。



 視覚効果も重ねられて、まあ重装甲重装備の魔法騎士にドシュドシュ殴られまくるって、心が折れるものではあるよね。



 お前らが難民達相手に難癖付けてしようとした事よりは、はるかにましな事で返されているわけだが、ありがたみくらいは感じていただけているだろうか?



 ケルテラ国軍、虐殺突撃隊、もはや全面敗走。



 我先にと逃げ出す。



 軍人としてはどうなのかね?と思わなくも無いが、まあ、逃げたきゃ逃げろ。



 逃がさないけどな。



 追う「青きレギオン(千人隊)」。まあ、正確には900体だが。



 地に伏せた死屍累々のケルテラ国軍の皆様は戦闘続行不可能、まあ、最初から戦争になっていないけど。



 一方的な虐殺目的で突撃してきたら、一方的な蹂躙で迎撃された感じ。



 さらに追撃戦に入られた。



 今、自分達のいる升形から敗走するケルテラ国軍と、追う「青きレギオン(千人隊)」。



 地に伏せ「うんうん」うなっている連中をしり目に、私と護衛魔法騎士ライオネルは「青きレギオン(千人隊)」を追う。



 あっちこっちにボロ雑巾のようにボロボロになった雑兵が打ち捨てられている。



 スタスタ歩いていくと、ターンダヴァン城址の正門跡を踏み超える。



 決戦の場は、正門前から真正面にそこそこ離れた距離で設けられたケルテラ軍の本営へ。



 500人程、まだ無傷で本営に詰めている。



 敗走するケルテラ国軍は、本陣に逃げ込もうとしている。やられまくってもう数百人という所か。



 一度、あの魔法騎士もどきらに捕まったら最後、メッタ打ちになって「地面とお友達になる」以外の結末は一切用意されていない。



 ケルテラ国軍虐殺部隊、総勢約4000人、突撃して来たのが約3500人、難民約7000人の代わりに待ち受けていたのが、魔法騎士もどきの「青きレギオン(千人隊)」900体、一方的な蹂躙戦の果て、狩りに狩られてケルテラ国軍側は本陣の無傷の兵も合わせて残兵800人も残っているかどうか。突撃して来た奴らの十分の一位くらいまでしかここまで逃げられてはいない。



 まあ、見せしめもあるんだ。無傷の本陣の連中に中から敗走兵が出てこないと事態もはっきり認識しにくいだろうし。



 本陣から撃って来た。魔銃の小型魔弾が雨あられ。



 全部魔法障壁で受け止める「青きレギオン(千人隊)」。青い輝きが煌めいて、無傷もよい所。



 恐慌状態のケルテラ国軍の残兵の皆様。



 魔砲がギリギリと音をたてて砲身を回し照準を構え。



 虎の子の魔導士たちが、魔法を展開して魔道具を手に攻撃態勢。



 それぞれが撃って来た。



 バン、グワン、ギン、ブンっと全部魔法障壁ではじき返す「青きレギオン(千人隊)」。



 魔砲を撃っているヤツなんて酷いな。



 味方がゴロゴロ転がっている中、巻き添えが当たり前で砲撃して来る。



 この軍隊、結構えげつないな。



 ブンっと「青きレギオン(千人隊)」の一人が空を跳ぶ。そのまま魔砲に向けて落下。



 手には巨大な戦槌(ハンマー)型の魔道具。大きく振りかぶって着地ざまに魔砲をぶっ叩いた。



 ゴーンという音がして、魔砲が崩壊。



 バラバラに部品ごとに砕け散る。



 あっ、これあれだ、エルフ狩りに来たバンガルド公国の自走式魔砲を全部一斉に打ち砕いたのと同種の攻撃だ。



 砲手は魔法騎士が跳んできた時点で、悲鳴をあげながら跳び退って逃げたので負傷者無し。



 飛び散った部品に巻き込まれたら、それなりに重症でも負いかねない。



 あっちこっちで魔砲は無力化されていた。



 魔臼砲は、全部一番最初に潰されている。



 この放物線を描いて飛ぶ魔弾を放つこいつが一番、難民に当たりかねない砲撃を行える兵器なので、最速でつぶさせてもらった。



 もっとも撃って来たらきたで、伏兵として配置して来た「青きレギオン(千人隊)」の内の100体が魔法障壁等で何とかしたと思うが。



 魔導士達も手にした魔道具で、様々な効果的そうな攻撃魔法を放ってくるが、まあ、何の役にも立たないのが現状。



 全部軽くあしらわれている。ご愁傷様。こいつらやろうと思えば本当は一体だけでもこの虐殺軍4000人を制圧できる代物なので。



 魔導士まで魔法騎士もどきに囲まれて、ボカスカ鈍器でメッタ打ちに合い、ボロ切れのように、地に付していく。



 ああ、皆さんも大地とお友達になれましたか?



 しっかり味わって下さいね。



 自分達が本当は何をしようとしたのかを・・・。



 今回ものすごく穏当な手段で返しているんですよ、私達。



 思い違いは「浄化」されましたか?



 心はちゃんと「浄化」されましたか?



 青の暴力が一通り吹き荒れた後。



 さあ、敗戦処理だ。今回の裏側も聞きださなきゃな・・・ふぅ。






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