第28話 おじさんの回想
隠れ砦にて大賢者サイレンドル、エルフの少女エーネの言うおじさんである私は、ライオネルとドレッドノートを格納してある格納庫へ向かって歩いていた。
あの日、「あのね、おじさん。エルフ狩りがレマールの目くらましを超えて襲ってくる方法ってあるの?」と聞いてきたエルフの少女。
初対面から不思議な子だった。大賢者の後をついてまわり、あまつさえ色々とちょっかいをかけて来る子供というのもまずいないだろう。
それにエーネはじっとこちらを観察していた気配があった。
もちろん無意識にやっている事だったけれども、時折発せられる言葉から、その洞察力の鋭さ正確さには目を引くものがあった。
「魔法を解き続けて抜けてくる方法以外の方法がある気がするのよ。もっと何か単純な方法が。人類も魔族も相手を殺る時はもっと単純で暴力的よ。何かがもやもやするの。でもそれが何かとかまではわからないの。おじさんはわかるの?」とって来たエーネ。
その時、確信した。このレマールの里はエルフ狩りに襲われると。
エーネはそれを予見し、予知していた。
自分ではおそらくまったく気が付かないだろう。
逆なのだ。
あの子が不幸にも騒動に巻き込まれているのでも無く、あの子が行くところにわざわざ騒動が起きるのでも無い。
あの子は予見し、予知をしてしまっている。
あの子は騒動が起きる所に、わざわざ自分から出かけて行ってしまうのだ。
おそらくあの子に一生誰も告げてはくれない真実になるだろうが・・・。
間違いなく、ユートピア(理想郷)側が用意した切り札の一人。
運命の子の一人。
「生きたい」「皆同じ命じゃないか」というあまたの命達の願いが結集して生み出したユートピア(理想郷)側の体現者。
レーヌはおそらくその生涯の途中で、意識の共振現象を経て特異点を突破してユートピア(理想郷)側の体現者となったけど、おそらくエーネは生まれながらの体現者にして使者。対ディストピア(死の理想郷)戦の最前線に立つ者。
その身に流れるレーヌの血の記憶でさえ、あの子を駆り立て、あの子に力を与え続けるだろう。
あの子は何と言った?
「私が言っているのは尊厳の問題なの。生きとし生けるものの尊厳。そしてエルフとしての尊厳。おじさんに人が人であるための尊厳があるように。私は大賢者の答えが聞きたいの。見たいの。触れたいの。知りたいの。大賢者ということを抜きにしたって、せめて、私の知るおじさんが私達に何を思ってくれたのか。そのおじさんなりの答えを」。
どれだけ詰め込み、どれだけ全ての項目をクリアして、私に突き付けたか、自覚はあるのだろうか?きっと無いのだろう。
大賢者としての助力を望み、一人の人族の人としての助力を望み、サイレンドルという個人としての助力をも望んだ。それも、生きとし生けるものの尊厳をかけて。
震えた。
「ああ、こんな子らを待っていたのだ。ついに私達大賢者を鏡映しに映し出すのにふさわしき子らが、集い始めたのか」。
エーネ一人だけでは無いだろう。
そんな気配を感じる。
多分、これからディストピア(死の理想郷)の嵐が吹き荒れるだろうこの世界に。
この子の周りにユートピア(理想郷)側が用意した使者たちが集い始めるのを感じる。
中心核はこの子になるはずだ。
さすがレーヌの子孫にして、調和をつかさどりしエルフ。調和の担い手の申し子にして愛おし子。
私は何故ライオネルを作っていたのかに気が付いた。
この子に渡すため。
誰も殺さない。誰も負傷させない。地上最強の単体戦力を、そのか弱きエルフの身にまとう鎧や盾として。
手渡すためにライオネルを作った。
対ディストピア(死の理想郷)戦の最前線に立つその身への武装として。
用意していたのだ。
そして、ドレッドノートを作った意味も。
エーネ、もし本当にどうしようも無くなったら私を呼ぶとよい。
大賢者として出来ることには限界がある。
極めた果てが故の制限とでもいうものが私達にはかかる。
でも、一人の人としての助力を望み、サイレンドルという個人としての助力をも望んでくれたおかげで出来ることもある。
もしもの時は一人の老騎士として、ドレッドノートを駆って、君の元へ駆けつけよう。
ライオネルとドレッドノートの格納庫にたどり着き、格納庫の扉の前に立つと、自動で扉が左右に開いた。
ライオネルがいない。
本体のあの巨体のライオネルの格納場所が空になっている。
「ドレッドノート」。
『はい』。
「ライオネルは今、どこで何をしている?」。
『マスター・エーネに呼ばれて、ジャスタ山脈にトンネルを掘っている所です』。
お前達二人、早速、一体全体、何をしているのだ?
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