第22話 世界の秘密



 エルフの女大賢者サリュートの言葉は続いた。



 「ねえ、エーネ。あなたは何を感じたの?何を疑問に思った?そして何を聞いてみたかったの?そしてどうしたかったの?」。



 その涼やかな声で、矢継ぎ早に言葉が紡がれた。



 ああ、どうしてこうなっちゃうかな?



 大賢者が二人も連続で、出て来るなんて聞いていない。



 エルフの族長達もそうだが、変な勘違いの期待値が高過ぎて困ちゃうよ。



 本当にただの・・・ただのエルフの一少女だって、私。



 ああ、何がいけなかったのだろう。



 好奇心で、おじさんの後をひょこひょこ付いて行った事か?



 エルフ狩りの連中が攻めて来た事か?



 ライオネルに出会った事か。



 しかし、おじさんやライオネルに会っていなければ里は終わりだった。



 それを考えるとターニングポイントは、あのエルフ狩りの馬鹿どもか?



 あいつらさえ里に押し寄せてこなければ、こんな事にはならなかったのか?



 あいつらが元凶そのものなのか?



 ああ、無茶苦茶な人生だったなぁ・・・。



 自分で自分の弔いをしている気分になってくるし。



 空しいよ。



 走馬灯でも駆け巡りそうな勢いだなぁ。



 はははははは。



 乾いた笑いって、こういうことをいうのだな。



 私の新境地をものの見事に、皆様よってたかって切り開いてくださいますこと。



 もう、感激の涙にむせびそうだ。



 ああ、またお花畑が近づいて来た。



 意識いっぱいに芳香漂うお花畑が広がっていく。



 もういいかな~そっちの住人になっちゃっても。



 あはは、あはは、あはは、って頭の中のお花畑を走り回ったら、とっても幸せなんだろうな。



 うん。もう、行っちゃおうか!




 「エーネ?大丈夫?」。



 その声で、ふと我に返る。



 おお、本当に心に沁み通って来る素敵なお声ですね、エルフの女大賢者サリュート。



 悲しいことに、思わず正気に返っちゃったよ。



 軽く意識が跳んでいたんじゃないだろうか?



 ああ、逃げられないか、また逃げるのに失敗か、とんずらこきたかったのになぁ・・・。



 しょうがない。向かい合うか・・・。がんばれ、エーネ。くじけるな。



 「前にレマールの里長が、レマールの目くらましを大賢者のおじさんが破ったような方法で、エルフ狩りの連中が抜けてこられるかを聞いた時、おじさんは「自分と同じような方法では無理。同じ大賢者ならいざ知らず大魔導士でもまず無理」と言っていたんです。里長はその言葉で安心してしまったようでした。でも私はふと思ったことがありました。でも、何だかその場では聞いてはいけないような気がして、そのもやもやした気持ちをその場では封じ込めて、後でおじさんと二人っきりの時に聞いてみたのです。おじさんから「あなたはどう思うの?」と切り返されたので「魔法を解き続けて抜けてくる方法以外の方法がある気がする。もっと何か単純な方法が。人類も魔族も相手を殺る時はもっと単純で暴力的だし、何かがもやもやする。でもそれが何かとかまではわからない。おじさんはわかるの?」と聞き返したら答えてくれました。そして里長も確かにおじさんに大賢者と同じ方法で他の者が抜けてこられるのかしか聞いていないのです」。



「あの時に感じたもやもやと同じようなもよもやを私はずっと抱えています。それも一つや二つじゃないんです。気が付いたら蜘蛛の巣に囲まれているかのように、いくつもの漠然とした違和感に取り囲まれて、ずっともやもやしているのです。いくつも問い正したいことがります。けど・・・質問が質問らしい形にうまくまとまらないのです。自分でも訳が分からないのです」。



 「ああ、そう。サイレンドルが、おじさんがあなたを気にかけていた理由がはっきりしたわ。それに、私も感じるもの。あなたのあまたの命を背負った存在そのものを。命の総代としてのあなたを、この身に感じるわ。やっとこの時代にここまでたどり着いてくれた子を私達は目の前にしている。願わくはあなたに続くあまたの子らに出会えんことを。あなたに感謝をエーネ。レマールの里とそこに住まうエルフを守ってくれたことに始まり、ここまでたどり着いてくれたことに」。



 「あれはおじさんとライオネルのお陰です。私は何もしていません。強いて言うならおじさんに「もしもエルフ狩りが来た時はできるだけのことをして欲しい」と頼んだだけです。それは頼むエルフさえいれば誰でもよかったことです。たまたまそれが私だっただけで。それだけです。応じてあれだけのことをしてくれたおじさんが凄かったんです。あっ、そうか、多分、知りませんよね。ライオネルってあの巨大ゴーレムのことです。あれは本当にゴーレムでよいのかな?」



 「ライオネルなら知っているわ」。



 「えっ、ライオネルを知っているんですか?」。



 「だってエーネ。ライオネルはあなたの言うおじさん専用機だったのよ。人族の大賢者の。それをあなたに会ってからエルフのあなたが乗れるように改造をするのに、そもそも種族も違うじゃない。あいつなりに万全を期したつもりだったみたいだけど、最後の仕上げにどうしてもエルフで調整したいということで、誰が駆り出されたと思う?」。



 まさか、まさか、まさか、まさか、まさか、まさか、まさか、まさか、まさか、まさか、まさか、まさか、まさかーっ。



 いや、それだけはダメだぞおじさん。あってはならないぞ。片田舎の隠れ里のエルフの一少女のために・・・我らエルフの至宝、女大賢者様サリュート様に起こし願うなど・・・そんな事が許されるはずが・・・。



 「私ともう一人のエルフの男性大賢者、アクトファルが駆り出されてね」。



 ああああああーーーーーーっ!



 女大賢者様だけじゃ無かったぁ!!



 エルフの至宝の両翼を乗っけたのか、あれに!!!



 私のため?私のためにか?



 ああ、何をしてくれてるんだ、おじさん!!!



 「そうしたらね、アクトファルがね、あの感覚没入同化型とかの操縦法にはまっちゃってね。もう等身大の巨人気分で疾走しちゃったりして、しまいにはサイレンドルに、つまりおじさんに「これくれ!」とか言い出して、「ダメ、これはあるエルフの少女のために必要なの」て一蹴されていてね。そうしたら「じゃあもう一台作ってくれ。こいつデザインが今一つだからこっちでデザインを考えるから」とか言い出してね「嫌。それに思考結晶や魔力反応炉とか入れる空間もいるの。これは、ほぼ必然のデザイン」とか応酬し合っていてね、それを見て私は前々から思っていたのだけど、確信したのよね、悟ったのよ、男の子って馬鹿よね。どうしょうもないほどこういう所は馬鹿なのよね」。



 ああ、男の子とか男とかって、どっかどうしようもなく馬鹿だっていうのは激しく同意します。あの椅子にエルフの大賢者を二人も座らせた時点で、もう付いていけません。そもそもライオネルみたいなものを作っている時点で、底なしの馬鹿です。おいっ、おじさん!聞いているか?



 「あの、その、サリュートとおじさんはどういう関係なのですか?」。



 聞くのが怖いが聞いてしまおう。精神衛生上、よろしくない。あり得ないとは思うが、万が一、元恋人とか言われたら私の心臓が止まると思うが。



 すると、エルフの女大賢者様は上を向き「うーんと」とちょっと考えて。



 真正面を向いて「腐れ縁?」とお答えになりました。



 あっ、それ以上もうよいです。何となくわかりました。



 「えーとね、エーネ。「頼むエルフさえいれば誰でもよかったことです。たまたま私だっただけ」と言っていたけど、そもそも誰も大賢者に頼まないし、頼んだのはあなただけ。そこにまず意味があるから。さらに、ただ自己保身や自己利益のために大賢者に「いざという時、お願いね」と言ったって、大賢者は動かないというより、正確には動けないわよ。そこは冷徹と言ってもよいくらいなの。なぜなら私達はそれに足る存在しか、写せない鏡のようなものだから。それでね、エーネ。かまわないから、謙遜とかしていないで、その疑問をぶつけてみて。私達は問われなければ、答えられない存在でもあり、答えるに値する相手にしか、答えを返せない存在でもあるの。お願いできるかな?」。



 「あのそれでは、戸惑いもありますけど、聞いてみます。あの「大賢者」というのは一種のステータスで、全体への奉仕者・助言者の意味合いが強く、特定の種族とか特定の勢力に一方的に加担することは、原則、倫理的に問題があるとされ、固く戒しむべしと不文律で定められ、今までその不文律を過度に犯した「大賢者」はいないとされていると聞いてきました。私は今まで「そういうものか」とあまり気にしていなかったのです。ですが、今回の出来事やおじさんやライオネルを見て、これはおかしいと思いました。大賢者は、はるか昔からいて、今日みたいな世界賢者協会ができたのは約千年前の魔道大戦後の事。世界的な平和維持機関が必要とされ大賢者達がその時、それに一役かった。でも、私が実際に感じた大賢者ってそんな枠に収まらないんです。これは一種のカモフラージュか何かじゃ無いかと思い直しました。そんな外部からの規範とかでどうにかなる存在じゃないんです。魔道大戦後の話だけでも千年の間に存在した大賢者達が、そんな外部規範に従って、逸脱しなかったなんてあり得ないと思います。ですが、それに実際は準じている。歴史が本当なら、内部的な何かがあるはずなんです。例えば、大賢者自身の機能自身に絶対不文律の何かが組み込まれているとか。そうすると新たな疑問です。大賢者ってそもそも何ですか?そして賢者と大賢者の違いとされるもの。「智」への傾倒の最たるもの。「アカシャの記録」への何らかのアクセス権を持っていると思われる者。宇宙の万物。時のはじめと終わり。すべての次元と空間の記録。「アカシャの記録」と呼ばれるその時空間のどこかに存在するという「記録」へ、何らかの形で少しでもアクセスしていると思われるものが「賢者」を超えて「大賢者」と呼ばれ、そしてその「大賢者」は世界に20人といないだろうとされています。私達が何となく「こんなものだろう」と思っている大賢者と、本当の大賢者の定義と言うか、本当の存在の意味は違うのではないですか。「アカシャの記録」って何です?こういうものだという説明が本当なら、何となくこんなものだろうと言うことまではわかります。でも実際の所、中核を占めている。「アカシャの記録」って本当は何なのですか?こんな疑問が次々と浮かんでしまうんです。でもうまく問いにすらできません。こんなので何となくでもわかってもらえますか?」。



 「ああ、本当に鋭い子ね。うまく質問にできていなくても、意味はちゃんと通じているわ。よくわかる。やっぱり、あなたなのね。ねぇ、エーネ。選択して。これから私は世界の秘密をあなたに語ろうと思う。実際は、秘密でもなんでもない秘密をね。それを聞くという選択をあなたはする?まだ引き返してもよいわよ。レマールの里に帰って、一生をつつがなくあの里で暮らし老いて死ぬのも立派な一つの人生。別にそれが悪いわけじゃない。もっともあなたが老いて死ぬまでこの世界もつつがなく持ってくれればよいけれど。こればかりはこの世界に住む全てのもの次第だからわからない。あなたはそれでも聞くという選択をする?」。



 「あの、聞いた後、レマールの里に帰って、一生をつつがなくあの里で暮らし老いて死ぬということは可能ですか?」。



 「本当に面白い子ね。可能は可能だわ。そうしたければそうすればよいし、それを私達は止めないわ。そう約束する。でも、多分だけど、聞いたらあなたは行動をしなければ気がすまなくなると思う。それと・・・個人的な感想を言わせてもらうとね、大賢者サイレンドル、おじさんの後ろをちょこちょこ追いかけて、ちょっかいを出し続けた子が、そんな器で収まっているはずが無いと思うわよ。知らないとは思うけど、ある意味で魔族あたりが聞いたら、卒倒するような暴挙よ、それ。さあ、選択して、エーネ。その選択を私達は尊重するわ」。



 まあ、後々、私エーネは、ここで聞いちゃったことを、死ぬほど後悔する羽目になる。



 しかも、この時の事を思い出しては、悶絶して後悔の海に沈むことになる。



 だけど・・・同時にいつも思うんだ。



 聞かないという選択肢は無かったと・・・。



 「もやもやしたまま、一生を過ごすのは嫌なので・・・聞きます」。



 ああ、言っちゃった・・・。





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