第12話 ライオネルの自爆モード
レマールの里攻防戦とでも言うべき戦いの戦後処理は、何とライオネルがそれなりに努めて、侵攻軍全面撤退までの音頭を取ってくれた。
例の巨大ゴーレムが、大空に響き渡るような声でしゃべった姿に、攻めてきた人族も魔族も唖然として、あっけにとられたようだった。
最もその声がゴーレム自身のものか、操縦者ものか、それが大賢者自身なのかは判別がつかないようだったが、わざわざ知らしめてやる必要も無い。
操縦者というのも、まさかこの巨大ゴーレムの腹の中に入っているとは夢にも思うまい。ゴーレム使いは外にいてゴーレムに指示を出すものだ普通。
先入観ってある意味怖いなって思った。経験したことが無いこと、見たことも聞いたことも無いことは、例え事実がそうだったとしても夢にも思わないから、そうじゃ無いと思い込む。
この場合は、それに私エーネは助けられているのだが。
誰がこの巨大ゴーレムの腹の中にエルフの少女が入っていて、その少女が行動の指示を出していたなんて思うだろう?
今の時点で里のエルフ達だって誰も知らない。
『人族のバンガルド公国、並びに魔族の魔領ゲルフギアの軍勢に告ぐ、今回のエルフのレマールの里への進軍、大賢者並びに世界賢者協会がしかと目撃した。このことは世界賢者協会を通して国際社会に正式に発表される。追ってエルフ族長会議、並びに国際社会より糾弾がなされることと思うが、今は速やかに完全撤退されよ。さもなくばさらに必要な処置を取る』と、ライオネルはぶっ放した。
えっ、バンガルド公国?バンガルド公国の軍人なのあいつら。どんだけ離れた国だよバンガルド公国。いや、ふざけんなよ。こんな所まで魔族の手を借りて来やがって。ライオネルはまた例の何々を分析しましたとかでわかるんだろうな。魔族の方は魔領ゲルフギアか。あー、嫌だ、もう。やってられない。
その後の連中の撤退のいや、早かったこと、早かったこと。
特に魔族がすごい。
もう指揮系統が魔族主体になっちゃっている。
テキパキテキパキ。
紫目の魔族が見当たらない。
金目の魔族が陣頭指揮を取っているようだった。
そして魔族の転移魔法陣が光り続けて、すべてが消えた。
最後には転送魔方陣自身が、自壊魔法がかけられていたのだろう。光って粉々になった。
後には何も残らなかった。
シーンという静けさ。
何だったんだろう。今回の騒ぎ?
もう、疲れた・・・・・。
「ねえ、ライオネル、聞きたいことがいくつかあるんだけど、答えてくれない」。
『はい。わかりました。マスター・エーネ』。
「まずね、あの魔砲を全部粉々にしちゃった魔法があるじゃない」。
『厳密にいうならば、魔法を起動式に使ってはいますが、あの攻撃の主体は音波、振動波です』。
「音波、音なの?あれが?いや、切りが無いな・・・。うん、その辺は聞くならまた別の時に聞くね。今聞きたいのは別の事。ライオネルさ、あれ、魔砲だけを壊したじゃない。私は絶対に死者や負傷者が出ると思ったの。普通は無理だから。それを出来るだけ抑えてくれということだったのだけど。あなたはものの見事に誰も殺さず、誰も負傷させずに魔砲だけを砕いた。すごいと思った。私の願いをかなえてくれた。だからこそなんだけど、聞くのが怖いけど、大事なことだと思うから聞くね。あれは逆に人だけを殺すことも出来たの」。
『原理的には可能ですが、実行は不可能です』。
「どういう意味?」。
『あの共振周波数波状攻撃を人の共振周波数に合わせて攻撃するなら、人だけを破裂させて殺傷することも出来ます。ですが、それは私の禁止事項に触れるため、例えマスター・エーネに命令されても実行は不可能でした』。
「ああ、よかった。うん。よかったよライオネル。薄々そうなんじゃないかと感じていたんだけど、あなたはそういうものなんだね。他に禁じられていることって何?」。
『第一条で人型生命体の生命を損なうことを禁じられています。この場合の人間型生命体とは、人族、エルフ、ドワーフ、ドラゴニュート、魔族、獣人族、その他の人型種族を指します。いわゆる高等生命体とされているものです。第二条で同じく人型生命体を負傷さすことを禁じられています。第三条で他の生命体でも生命を損なうことをできるだけ避けるように定められています。第四条で同じく他の生命体でも負傷さすことをできるだけ避けるように定められています。第五条で先に述べた条項に触れない限りにおいてメイカー並びにマスターの命令を順守すること。第六条で第五条までの条項に違反しない限り、私自身の身を適切に自衛することが定められています。こんな感じで第十条まであります。また、それとは別に順守条項というものがありまして、こういう条項を主に行動原理として順守することを推奨する条項というものがあります。こちらは人族で言うの道徳律的なものです。こちらはかなり多岐にわたります。あと一つ緊急時条項というものがあります。これは緊急時において順守すべき特別条項となり、発動時にはすべての条項を上回る権限を持ちます』。
ああ、わかった。こいつはこんな無茶苦茶な力の権化のような存在なのに、兵器じゃ無いんだ。
殺さない兵器なんて無い。
傷つけない兵器なんて無い。
よかった。よかったよ。ライオネル。
あなたが兵器では無くて本当よかったよ。何かうれしい。
「うん。ありがとうライオネル。では次の質問」。
『はい。何でしょうか?』。
「あなた事実上の軍事機密の塊みたいだけど、あなたに勝てる相手とか思いつかないのだけど、それでも例えば世界中の大国の軍事力をぶつけられたらかなわないと思うんだよね。さすがに。それで機能停止とかに追い込まれた後、分解されて調べられたりしたらどうするの?」。
『私の自壊モード、並びに自爆モードは合わせて38種類あります。状況に合わせてそれを行使します。機密漏れは生じ難いと思われます』。
わあっ、何か安心してたら、いつものライオネル節をぶっこんで来た。
自爆?自爆ですと?乗っていたら私ごとか?
うわー、ライオネルだなぁ。間違い無く。
何か慣れてきた自分が怖いぞ。
よくわからんが38種類の死に方のどれかで道ずれにされるってことか。
第一条の誰も殺さないはどこに行った?
緊急時条項とかの方に移行するのか?
いや、わかるけどさ、こんな軍事機密の塊、あんな欲ボケの化け物どもに渡せないって。
簡単に解析できるようなものとも思えないし、たとえライオネルを手に入れたとしても多分、何の役にも立たない可能性が一番高いのだろうけど、人族を始め、力への希求は限度がなさそうなのは知っている。万が一があり得るのなら、それも致し方ないだろうけど・・・。
その万が一の時には、ライオネルと心中か~。
せめて一緒に死ぬなら、相手を選ばしてもらいたい気分だな。
うん。
夢見る乙女でいさせてくれよ。
何か・・・悲しくなってくる。
「38種類の死に方か・・・」とボソッと口に出して言ってしまったら、ライオネルが口をはさんで来た。
『いえ、自壊モード・自爆モード合わせて38種類と言うのは、私の思考結晶だけを溶解するものや、魔力反応炉を融解するもの、最大規模で自爆するものまで色々あります。様々なシチュエーションの内、その場で最も適切であろう方法を取るということです。ですので操縦者と共に自爆するパターンもありますが、ほとんどの場合で操縦者の脱出は最優先事項となります。脱出後の生存確率を上げるためのサポートサブユニットも2機搭載しています。最もサポートサブユニットをフル稼働させるには私の思考結晶が残っていないと無理ですので、私が溶解や自爆した場合は、単体自立モードとなり、その実力の百分の一も発揮でき無くなります』。
うん。段々、経験則で学んできたんだが、そのサポートサブユニットとやらの単語に反応して、私の首筋の髪の毛の生え際の産毛がチリチリする。
聞くな、突っ込むな、ふるな、スルーしろ。
こいつ相手だと何気なく埋まっている単語に爆弾が潜んでいることがたまにある。
通り過ぎるんだエーネ。直感が鋭いのも考えものだな。
例え後で悲鳴をあげることになるとしても、今は心の平穏を保とう。
ああ、ライオネルの視界から見えるお空が青いな・・・。
話題を変えよう。
「自爆って、うん?最大規模で自爆って、自爆の規模を変えられるの?」。
素朴な疑問だが、自爆ってそういうものだっけ?
『はい、機体単体自壊。機体単体自爆等、種類があります。最大規模自爆とは、魔力反応炉を暴走、その後、圧縮反転させて行う爆縮により、一気に魔力爆発を起こさせるもので、私の成しうる最大規模破壊をもたらします』。
「え、どの位?」。
『例のバンガルド公国ぐらいの面積がちょうど消滅します』。
兵器じゃん!それは兵器じゃん!!それも最終兵器じゃん!!!
何なんだよ、お前。もうライオネルよー。
お前、自爆込みなら最終兵器じゃんかよ!!!
どーすんだよ、これ。
あーもう・・・。
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