第7話 レッドドラゴンVS超ド級ゴーレム





 右下の画面にフードを被った者達が顔が見えるほどの近さで映っていた。



 おそらくあれが魔族だ。5人いる。



 3人が走り出した。どうやら転移魔方陣に向かっているようだ。逃げるのか?



 ブワンと変な音がして、転移魔方陣が光り始めた。



 そしてせり上がって来たものは・・・。



 「ああ、嘘でしょ。なんでドラゴンが・・・嘘でしょ、嘘でしょ!!」。



 絶望が形をまとって現れ出たようだった。



 おそらく魔領とつながっていたであろう転移魔方陣からは、真っ赤なドラゴンが浮かび上がってきた。おそらく何らかの魔法的な呪縛で使役されているのだろう。



 レッドドラゴンだ。



 魔獣の中の魔獣。



 あまりにけた違い過ぎて、ドラゴンは魔獣の最高位に位置しながら、魔獣と呼ばれることはまず無い。



 まさに魔獣を超えた別格として扱われてしまうから。



 しかも・・・レッドドラゴン。



 ドラゴンにも種類がある。



 その中でもレッドドラゴンは上意種、さらにドラゴンの中でもかなり攻撃に特化した種だ。



 そして各種の魔法を駆使して生きているドラゴンの最大の武器がドラゴンブレス。



 幾重もの魔法式で構成されているもはや呪いの中の呪い。



 使用魔力量もけた違い。でも、ドラゴンはそれをまかなってしまう。



 いわばドラゴンは半分この世ならざる生き物。魔力という異次元の海を漂って生きているかのような存在。



 魔力の申し子のような怪物。



 しかもレッドドラゴンの吐く幾種類ものブレスの内、最大攻撃力のブレス、カースブレスは、まさにこの世に地獄を出現させたかのような結果を生む。



 幾重にも編み込まれた魔法式が次々と展開していくのだ。



 その魔法式の連続展開は相乗効果に次ぐ相乗効果を生み、人族、魔族、エルフ、ドワーフ、その他のどの種族でも出来ない規模と効果の崩壊の呪いの炎を吹き荒れさす。



 それはあの人族の使った魔砲なんかの比じゃ無い。人族の魔砲の魔弾の数百倍の威力を軽く持つ。



 あんなものを吐かれたら、終わりだ・・・すべてが終わってしまう。



 おそらく魔族はライオネルを排すべき強敵と定めた。何が何でもライオネルを破壊すると決めたのだろう。魔族らしく最大戦力最大火力で一気にこの巨大ゴーレムを完璧に葬ると。



 同時にもうエルフ狩りは諦めて、すべてを破壊し皆殺しにして、すべての証拠を隠滅してしまおうという決断をした。



 多分、自然に生息しているドラゴンが暴れた災害風に装うはずだ。レッドドラゴンが大森林地帯にいるはず無いし、万が一いたとしてもそれにふさわしい必要性が無いかぎりドラゴンはドラゴンブレスなんて吐かない。ましてカースブレスなど吐くはずも無いのに。



 国際社会に疑念を持たれるのは必須だが、死人に口無しでしらばっくれるつもりだろう。



 ああ、なんてこと。なんておぞましいことを。自分達に都合が悪くなったら消す。



 私達は物じゃない。それぞれの命と生とを背負った尊厳ある存在だ。



 何族だろうが、誰だろうがそうだ。



 何で、何でそんなことすらわからない。



 何でそんな大事なことを忘れてしまうんだ・・・。



 当たり前のこと。それがどれだけ大事なことなのか。



 なぜ、一番大事なことが、一番くだらないことになってしまうのだ。あなた達は! 



 レッドドラゴンの口元が赤く光る。



 見たことの無い赤い光で魔法が展開されていく。



 渦巻くけた違いの魔力でわかる。これはカースブレスだ。



 ああ、魔法式展開が始まってしまった。



 もう万が一可能性があるなら今しか無い。



 ドラゴンが魔法式を展開し終わってブレスが吐き出されたら・・・終わりだ。



 皆、地獄の炎の中に沈んでしまう。



 でも、ドラゴンも馬鹿じゃない。



 もう魔法障壁も展開されているのだ。



 あの赤くチカチカと光って見えるドラゴンの身体はもう魔法障壁に覆われている。



 あの障壁を貫いて、ドラゴンを今殺し切れないのなら、ドラゴンブレス、それもレッドドラゴンの最大攻撃、カースブレスを食らってしまう。



 ドラゴンの障壁を敗れるのは、それこそ伝説の中の魔法具や神器くらいだ。



 そんなものはここには無い。



 いくらライオネルの規格外の魔法障壁でも最上位魔法生物レッドドラゴンの最大攻撃カースブレスを防ぎ切れるとは思わない。



 それに・・・万が一、それこそ万が一、ライオネルの魔法障壁でわが身を守りきれたとしても、あの呪いの爆炎は広がって爆散して後ろのレマールの里を焼く。



 一人も・・・生き残らないだろう。



 魔法障壁で、あのカースブレスの爆散は止められない。



 そういう仕組みの魔法式を展開しているのだドラゴンは。



 耐えられるか、耐えられないかをしのいだとしても、里は全滅だ。



 この森も草木も生えない焦土と化す。



 あと100年は命は芽吹かないだろう。



 本当に呪われるから。



 カースブレスとはそういうブレスなのだ。



 ああ、こんなことになるのならエルフ狩りを行わせればよかったのか。



 奴隷や実験体でも、何人かのエルフは生き残れたかも知れないのに。



 それともそんな境遇よりは、死んだ方がまだましなのだろうか。



 何と残酷なことなのだろう。



 エルフは狩られて思い通りに利用されるか、絶滅されるしか、価値が無いというのか。



 ちくしょう。ひどい。ひどすぎる。



 何なんだよ、お前ら。



 「ライオネル・・・」それ以上声が出ない。



 ああ、死に至る絶望というものを目の前にすると、こんなに動けなくなるものなんだ。



 今しか、無理にでも今しか、万に一つのチャンスがあるとすれば、カースブレスの吐かれる寸前の今しか無いのに。



 私はライオネルに指示を出し切れなかった・・・。



 ああでも、もう里が呪いの炎で焼かれるのが必然なら。



 私も一緒に死にたい。



 私だけのうのうと一人で生き残りたく無い。



 ごめん、皆、守り切れなかった。



 きっと、おごっていたんだと思う。



 ライオネルのあまりにもの規格外っぷりに、夢を見ちゃったんだと思う。



 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。



 私は・・・心の中で謝り続けることしかできなかった。



 赤い光が今度は収束する。



 そして・・・レッドドラゴンの最大攻撃、カースブレスが放たれた。



 眼前に迫る魔法式が展開され広がっていく爆炎。



 その地獄の爆炎が、ライオネルに当たった瞬間だった。



 ジュッって。



 松明の炎を水に漬けたら、ジュッって炎が一瞬で消えてしまうように。



 カースブレスがすべて一瞬で跡形も無く消えた。



 まるで最初からそんなものは存在しなかったかのように。




 世界は、また静寂に包まれた。



 シーンと耳が痛くなるほど、一切の音の無い静寂に。




 「ラ、ライオネル?」。



 『レッドドラゴンのカースブレスを確認。魔法式を解析。32重の魔法式にて構成された魔法式展開を確認。このまま当機の魔法障壁で受け止めるだけでは、レマールの里への被爆を予測。同じく逆位相で構成した32重の魔法式を当機の魔法障壁面で緊急展開、カースブレスを侵食分解。中和を完了。当該攻撃を完全無力化しました』。



 ライオネルの声が報告をする。



 何か・・・言葉も出ない。



 ライオネル。



 あなたは、あなたは、本当に夢を、私の皆を守りたいという夢を。



 レッドドラゴンのカースブレスからすら、皆を守り切るそんなことまでして。



 かなえてくれたんだ。



 私は・・・泣いていた。



 涙があふれて止まらなかった。



 ああ、こいつ、こいつ、こいつ。



 『奇跡の中の奇跡の巨人』なんだ。



 嘘みたいだけど。





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