「異世界テロリスト」という、地球各国が異世界を植民地にするという興味深い背景の作品を見かけて、読んでみたら前作があるのに気づいてここにたどり着きました。
絶望的な劣悪な環境の異世界を描く作品はたくさんありますが、ここまで誰も幸せになれない、希望が見えない世界はあまり見ないような気がします。こうなってしまった経緯と背景を丁寧に構築したし、政治と軍事に対する深い理解もあって、極端な背景設定なのにリアリティがすごく高いです。神々の代理戦争で荒廃した環境。考えなしに異世界転生を乱発する女神。そして考えなしに兵器の技術を異世界に導入する転生者。蔓延する人種差別とジェノサイド……主人公があんな妄執的な狂気に取り憑かれるのも少しわかるような気がします。
作中にすごく興味深い観点が提示されたので、最後はネタバレしない程度にそれについて考察したいんです。アフガニスタンのような環境に自動小銃が大量流入したら手が付けられない無政府状態を作り出すだけ。そしてそれは異世界でも同じ。転生者の考えなしの行動を批判する言葉ですね。近世の転換期で兵器の発達によって戦争の出費が高まり中央集権化というのは歴史の授業でも学んだが、工業の進歩によって兵器のコストダウンが進むとまた誰でも簡単に武力を持てる末法の世に戻ります。人道主義が常識な進歩な社会ならまだ自制が効くが、そんな概念がまだないところでどうなるかは言うまでもありませんね。銃社会の(中世ヨーロッパ風)異世界、これほど恐ろしいものはなかなかないと思います。