第122話 いいこでおるすばん、できるかな?
不安定なアシュタロトと、継戦能力の低いベレトを残し、フェンリル、ベリアル、アスモデウスの3体が連邦から異世界へ情報収集に旅立った。
「あ……ぐわががァあ……!」
突如、頭を抱えて唸り始めたアシュタロト。
体格は、エストラーデだった時とさして変化はない。他の魔神と比較するに、竜の様な角と尻尾、全身を覆う鎧にも似た鱗と、爬虫類の様な目が特徴的だ。ともすれば、かつてのエストラーデの騎竜、カーリアスに似ている。
「どうどう」
ベレトが背中を撫でてやる。
「うゥがァあああ……!!メイ……ヴァーチル……!よくも……よくも、裏切ったな……メイヴァーチル……!」
5年越しの再会は怒りと絶望で彩られていた。アシュタロトは突然メイヴァーチルの方を向いて恨み言を吐き始めた、尋常な様子ではない。
メイヴァーチルは何のことやら、と涼しい顔をしている。
「どうどうどう、はーい深呼吸してー、貴女の名前はなんですかー?」
「私は……アシュタロト……絶望を……司る……悪魔……!」
アシュタロトは壁に頭を打ち付けたり、自分で発生させた蒼炎で自分を焼いたりと様々な奇行に及ぶ。ベレトがそれを制止する。
他の魔神達と比較して、まともな精神状態ではないのは明らかだ。
「あのー申し訳ないんですけど、続きは魔神帝国の方でやって貰えませんかね」
「ひどい。仮にも元女王に」
「俺が負傷除隊した時、軍の年金不支給とか喰らったんでね。金の切れ目が縁の切れ目って奴ですよ。女王がどうなろーと知ったこっちゃありません、ウチのボスは金払いだけは良いんで」
ローゼンベルグはきっぱり言い放った。言って見れば、彼は王国軍だったのは随分前の話。冒険者ギルドで働き、今は連邦の大総統府勤務でメイヴァーチルの補佐担当だ。随分出世したものである。
「ロズ、それはどういう意味かな?」
「い、いやあの……えーと、エルフ万歳!」
「うむ」
「がァ……ああァ!!うがあァああ!!」
アシュタロトはまたしても壁に頭を叩きつけ始めた。
「はいはい大丈夫ですからねーアシュタ……」
「うるさいよ、静かにしな」
メイヴァーチルのアイアンクロー。アシュタロトの後頭部を掴んで勢い良く壁に叩き付けた。アシュタロトは大理石と鉄筋の壁を突き破りながら吹き飛んだ。相変わらず、エルフの華奢な身体つきに似合わぬ凄まじい膂力である。
「があァ……メイヴァー……、チル……」
金剛破砕の応用。相当の威力だった、最後までメイヴァーチルを睨み付けながらアシュタロトは気を失った。
「やれやれ、政府運営から"子守り"までやらせてくれるとはね。新鮮な体験が出来て嬉しいよ」
メイヴァーチルは皮肉げにいった。
究極的な政府の役割の一つは、働きたい国民に雇用を創出することだ。その点において、連邦統一政府はそれなりに政府としての役割を果たしていると言えよう。実際の所は魔神帝国の傀儡政権だとしてもだ。
「トップに立って人類を支配したいという貴女の要求は、概ね叶えたつもりですが」
「ま、それもそうだ」
愛の悪魔ベレト。聞けば先代魔神王だというこの女悪魔こそが事の黒幕なのだ。
フェンリルは戦闘能力はピカ一だが、挑発に乗りやすく、また迂闊だ。
この女悪魔についてメイヴァーチルが分かっている事は、アスモデウスよりも前から存在している大魔神である事、重力魔術を操る事、人類の愛が枯渇しており弱体化が著しい事、アイリーンから、カゼルへ伝わり、今はフェンリルが持つ魔剣、
しかし、彼女がいったい何を考えているのかはメイヴァーチルにもつかめない。
「ん……?」
だが待てよ。メイヴァーチルは思い当たる。
フェンリル、べリアル、アスモデウス、魔神帝国の主力三体が
……
しばし考えたのち、やはりやめておくことにした。準備が足りない。
十中八九この二体は倒せるだろう、だが帰って来たフェンリルによって挽き肉にされるのがオチだ。
「また何か良からぬ事を考えていますね?メイヴァーチル」
ベレトはその態度を咎める。
「いやいや、そんなことはないよ」
とはいったものの、メイヴァーチルは残忍な笑みを隠し切る事はしなかった。
*
フェンリルはひとまず転移が成功した事を確認する。目に映る景色は直轄地のそれとは大きく異なった、少なくともアルグ大陸の様な広大な砂漠地帯ではない様だ。
「こちらフェンリルだ。聞こえるかメイヴァーチル」
人工的な"異世界転生"により、侵略者3体が異世界へ降り立った。いずれも劣らぬ凶悪な悪魔達、今は人間の姿に化けている。
「聞こえたよ。人工異世界転移は成功かな」
「ああ、今のところ無事3名とも転移に成功した、予定通り一週間、現地に潜伏し情報を収集するぞ」
「何か変わった事があったら連絡してくれたまえ、
メイヴァーチル。嘘は言っていない、ただ肝心な事を話さないだけだ。
「精々期待しておくんだな」
フェンリルも、嘘は言わない。ただ行動で示すだけだ。
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