第74話 悪夢の同盟

 冒険者ギルドの主な仕事は非常に多岐に渡り、その内の一つに討伐依頼がある。人里どころか都市部にまで出没、人類を攻撃する程に活発化した魔獣などの討伐が主だ。この手の依頼はここ数年飛躍的に急増し、それにより戦闘系の魔法使いや、戦士など傭兵系の求人需要が増加した。これらを一手に取り仕切るのが基本的に冒険者ギルドである。


 そして討伐依頼は仕事自体の利益率が高いことから、一定の人気がある。

 単純に人間に害をなす事や、人命の危険から手当が付く他、冒険者ギルドから支払われる基本討伐報酬も高額だ。


 何故か魔物が滅亡したリサール帝国の純金貨などをもっている事が多く、死骸を解体すれば骨や角、皮などの他に魔石が採取できる、これを冒険者ギルド管轄の魔法研究所に売却することで追加報酬を得ることも可能だ。


 その魔物が増えた原因の一つには、たとえばフェンリルの様な魔神が我が物顔で地上を跋扈している事が挙げられる。今、その相反する筈の二勢力の長が死闘の末、手を結ばんとしている。それは人類にとって悪夢のような同盟と言えよう。


*


「悪かったなメイヴァーチル。お前の研究所に大穴を開けちまって」


 ギルド本部の執務室に戻って来た二人と一体。フェンリルは我が物顔で来客用の高級ソファに腰を落とし葉巻を吸っている。


「気にしなくていい、ただの"事故"だよ」


「これについては我々魔神帝国として補填させて貰う、後日こちらの王国口座より支払いたいので冒険者ギルド本部の取引口座も契約書に書いてくれ」


「あー、めんどいからロズやっといて」


「はい。ちなみに、どこから振り込まれるんですか」


「あすもん商会ってトコだ」


「げぇ……やっぱりアイツか」


 あすもん商会にアスモデウスの影を見て、メイヴァーチルは露骨に嫌そうな顔をした。


「それから、他にも書いてもらう書類が色々ある」


「……意外と細かいね、魔神王」


「七面倒なのはいい、ボク達冒険者ギルドとキミの魔神帝国は、対等な立場で同盟を結ぶ」


 メイヴァーチルはフェンリルに向かって拳を差し出した。フェンリルも待っていたとばかりに、これに応じた。


「これでいいんだろ、魔神王」


「ああ、よろしくな。ウチの本部は此処にある、いつでも訪ねて来い」


 フェンリルは、自身の外骨格に魔神帝国への情報を記し、メイヴァーチルに手渡した。メイヴァーチルは、その外骨格が本体から離れてからも禍々しい闇のオーラを纏っている事に眉を潜めながら受け取った。


魔神帝国おれたちと冒険者ギルドの記念すべき同盟成立の日に酒の席でも用意したいところだが、生憎俺達は人手不足でな……俺は北部に行かにゃならん。また会おう、メイヴァーチルにローゼンベルグ」


「ああ、また会おう。魔神王」


 フェンリルは勢い良く右腕の外骨格から憎悪マスティマを抜刀し、切り裂いた空間の狭間へ消えて行った。


「……次は殺す、必ずね」


 復讐を誓う言葉と共に、メイヴァーチルはフェンリルを見送った。


「ボス、とりあえず表向きは同盟の体で、連中についての情報を集めましょうか」


 ローゼンベルグはメイヴァーチルに提言する。


「……ああ、そうだね」


 だがローゼンベルグはぞくりとした、これ程までに邪悪に嗤うメイヴァーチルを見たのは初めてだったからだ。フェンリルの言葉通り、メイヴァーチルの心から退屈は微塵も消え去った。

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