第22話 勇者☆カズヤ
少し時が遡る。まだカゼル達が王国に潜入する前の頃。
現代日本のとある場所、ゲームのやりすぎで寝不足気味であった高校生が、トラックに轢殺され、カゼル達の居るアルグ大陸へ召喚された。
「誰か救急……あれ?」
彼の名はカズヤ。先程盛大にトラックに跳ねられて鮮血の海に沈み、血の鉄臭さと、生臭さを存分に鼻腔に吸い込みながら"死んだ"。
その死の経験を持ってこのアルグ大陸へ召喚されたのだ。
彼の召喚と同時に、エルマロット王国及び隣接する国家の一部地域……要するに大陸のほとんどの地域にて雨が降り続く事となる。それは異世界を渡る魂の召喚魔法が発動したことにより、放出された膨大なマナが天候に影響を与えた為だ。
それほど強力な魔法を行使したのは、王国にある神殿に隠れ潜むように暮らしている女神、エルマだ。
「ようこそ、カズヤ様」
厳かながらも親しみのある声で女神はカズヤに挨拶する。
「ここは?」
カズヤは、あまり動揺せぬように己を落ち着かせながら尋ねる。やはり、どんな時でも己のペースを乱すべきではないというのが彼の信条だった。それに、良い男があたふたと慌てるのは見苦しいというものだ。それがたとえ訳も分からず転生した時であっても。
カズヤはそれからアルグ大陸についてエルマから説明を受けた。
ここ、女神の血を引く王族が治めるエルマロット王国がリサール帝国と表面上は和平を結び、交易を行っている事。しかし水面下では小競り合いが多発していること、リサール帝国が王族の末子を遭難中の保護……と称して事実上人質としている事。
要するに大体リサール帝国と帝国軍が悪だと説明を受けた。カズヤは、女神の話は一先ず置いておいて、真偽の程は自分の目で判断することにした。
しかし、エルマロット王族の末子……エーリカ・エルザフォル・エルマロットを救出した暁にはどんな願いでも叶えてくれると聞き、一先ずそれを目標とすることに決める。
カズヤにはこれと言って願いはなかった。それもそうだ、現代日本とは恵みに恵まれた国家である。逆に、この世界で暮らしていく内にいくらでも不足する所を感じる予感はしていた。
元の世界で生き返らせてくれ……なんてのもありなのだろうか。とカズヤは思案する。
一先ず、エルマから炎の魔法が封じ込められたフランベルジュという魔剣、及び着用者の傷を塞ぐよう魔法が掛けられた鎧兜を受け取った。
そして魔法の使い方……マナの回復や管理などについて一通り講習してもらった。
気になった部分を抜粋すると
「リサール人は、私とは異なる神、戦神ルセイルが産み出した種族です。彼等は同胞のオーク、オーガと違って知能が高く、狡猾です。その上彼等に優るとも劣らぬ強靭な肉体を持っています」
エルマは深刻そうに語る。
「どうやって倒すの?そのりさある人って」
カズヤはそう尋ねる。
「……なんとか魔法で倒してください!」
「ええ……」
「以前のリサール人は最高位の攻撃魔法すら気合いでレジストして突撃してくるような者達でした。そこで私はルセイルの産み出したすべての種族に、マナそのものが取り込めぬよう呪いを与えたのです」
「マナに弱いんですね」
「ええ、マナとは私がこの世界にもたらしたエネルギーですから。言い忘れてましたが、私は魔法と自然を司っています」
「す、すごいですね……スケールでかくて良く分からないけど……」
「ちなみに、ルセイルは死と破壊を司っています。私の同期で邪悪なる神……げふんげふん……今のは聞かなかったことに。それと、マナに由来しない魔法も存在しますが、こちらはリサール人には普通程度にしか通用しませんのでご注意を」
エルマは懇切丁寧に説明をしてくれる、人に時間を割いてくれるのはとても有り難いことである。カズヤは努めて礼儀に気を付けた。
「分かりました」
「最後にですが、王国騎士の手練れの者に貴方の護衛を任せるように伝えています。この神殿を出たらその者と同行して下さい。少々頑固ですが、騎士としての腕は確かです」
「ありがとうございました!」
「どうかお気をつけて……」
*
神殿を出てから王都の街を見回すと、建物の背は高く、歴史でならった中世とは全く異なる街並みであった。
特筆するならば、あちらこちらに立った電灯のような設備が、大気中に浮かぶ蛍のような発光体を集めている。あの発光体がマナなのだろう。カズヤは先程のエルマの説明を踏まえてそう判断することにした。
「お初に、勇者カズヤ殿。此度は御身の護衛を命じられました。王国騎士のエリク・ルーベンツです。何卒よろしくお願い致します」
「ああ、えっとご丁寧にどうも!よろしくお願いします!」
カズヤは驚きしどろもどろな挨拶をしてしまった。無理もない、いきなり形式張った挨拶をされては緊張して当たり前だ。
カズヤに同行することを指示された王国騎士の男、エリクは、背丈は180を越え、体格も肩幅が広くがっしりとしている。彼は先程の神殿の紋章の刻まれた鎧を身に纏って、腰には長剣を差している。こちらは、鷹のようなエムブレムが刻まれていた。恐らく王国騎士の紋章だとカズヤは推察した。
エリクはエルマ人にしては大柄だが、顔立ちは非常に整っており、茶髪を短く刈り込んでいる。
カズヤ的に言うならばクールなハリウッドスターのようだった。そして何よりエルマから聞いていたのとは違って、丁寧ながらもフランクな性格をしているようだ。
「はは、どうか緊張されませぬよう。私も固いのは苦手でして……」
エリクはにこやかに笑ってそう言った。
ううむ、イケメンである。カズヤは僅かにライバル心を抱いたが、すぐにそれが下らない対抗心だと自省した。
「とりあえず、エーリカ様を助けに行くのかな?」
とにかく情報を吟味するにしても、そもそもが少なすぎる。
このエリクという王国騎士は筋を通す男の様なので、一つ意見を聞いてみよう。
あの女神が信用出来ない訳では無かったが、彼女の言葉を全て鵜呑みにするつもりもなかった。
「まだ早いでしょう、リサールに行くにしても道中が大変です。国境を跨げば無法地帯ですし、荒野を越えるのは簡単ではありませんから」
神妙な様子でエリクは答えてくれた。
こうした面倒見の良さも騎士達を束ねる隊長を務めた経験からだろう。
「そうなんですね……」
「あっ、エリクさん。あのでっかい人がリサール人ですか?普通に王国にも居るんですね」
大柄な男が通りすぎてからカズヤはエリクへ尋ねた。
「ええ、要件を満たした者の王国への移住は認められていますので」
エリクは静かに答えた。
「凶暴な奴等なんじゃ?」
「……私はリサール人が皆悪い人間だとは思っては居ません、個人として付き合う分には、気の良い者も多い」
エリクは引き続き静かに答えてくれた。
「問題は、帝国騎士をはじめとするリサール帝国軍です。彼等は非常に残忍で、この王国領のみならず各地で虐殺、略奪、亜人に対する民族浄化を行っています」
エリクは、先程の神妙な様子を取り戻して続ける。
「なるほど……」
カズヤは前世の記憶から、とある共産主義国家を思い出した。そこでは一党独裁政治が行われており、その国の軍隊が周辺国に対してそうした破壊行為や政治的工作を行っている。挙げ句の果てには制圧した地域への民族浄化なんてのはザラ。恐ろしいのはこれが21世紀の話であるということだ。
下手をすれば、かの国よりも質が悪いかもしれない。女神から聞いた話によれば、ただでさえ身体能力に優れているリサール人を選抜した軍隊なのだ。カズヤは想像だに恐ろしかった。
*
カズヤがエリクと共に市街を散策していたところ、なんの因果か奴隷商の店に辿り着いてしまう。
奴隷……まあ、中世にはありがちな話である。カズヤとしては、こういう胡散臭い所には立ち寄りたくは無かった。
「如何致しましょうか」
エリクは不愉快そうに、奴隷市場を眺めていた。
「……王国では奴隷制度は禁止されてるんじゃないの?」
先程カズヤは仲間を増やす手段の一つにとりあえず奴隷でも……と、先程女神エルマに話したところ、こういう事だと教えてくれたのだ。
「その通りですが、この店は公には人材派遣業者ということになっています。そうやって法律の抜け穴を突いている最低のクズです」
そう言いながら、エリクは固く拳を握り締めている。
「……見過ごせないよエリク、行こう!」
カズヤは腹を括って言い切った。
「今、貴方が勇者で良かったと思いましたよ。御身の無事は私が保証します」
エリクは、カズヤに続いて店の方へ歩き出していく。
「おい、彼女達を解放してやれ」
「いらっしゃい……解放って、アンタ。どこに"商品"を放り出す店があるんですか」
"商品"……たとえ上部だけでも人材派遣を名乗るならそんな言葉は出てこないだろう。
店主とおぼしきエルマ人は、日本人にしては長身のカズヤよりやや小柄、小太りの嫌らしい顔つきの中年の男だ。こちらは、多分にして武器を持たずしても制圧できる筈だとカズヤは推察している。
カズヤの祖父は柔道家であり、カズヤ自身も心得はあるからだ。
「もっとマシな仕事をしたらどうだ。もう少し人道に悖らないような仕事を」
カズヤは精一杯凄んで見せた。
というのも現代日本で真っ当に暮らしているのなら、他人へ脅しを掛ける必要性はまず存在しない。
「十分に人道的だと思いますがね。私等は王国で働きたいという亜人種に仕事を紹介して、そこから手数料を貰ってるだけです」
こんなペットショップさながらの店を構え、檻にその王国では働きたいと言う亜人種をぶち込み、値札を張り付けておいてよくもまあ言えたものである。カズヤは急速に怒りがこみ上げてきた。
「うるっせぇな店長ォ、また国から指導ですか?」
その時、店の奥から野太い声が響く。
「いいや、噂の勇者様のようだ。うちの商売が気に入らないんだとよ」
「ケッ、何様のつもりなんだか……」
のそりと店の奥から姿を現したリサール人の男は、カズヤが思わず息を飲むほど大柄だった。先程の通りすがった大男とはまるで別物。顔には凄絶な向かい傷が刻まれており、目はぎょろりと瞳孔が開いている。明らかに堅気の雰囲気ではない。
カズヤは、かなり萎縮しそうになったが、その時エリクがカズヤを庇うように前に立った。
やはり中世というだけあって、行政が行き届いていない事をカズヤは実感する。
カズヤが通りすがりで人材派遣の看板を掲げる奴隷商人を叩き潰そうとするのは、紛れもなく正義感からだ。
しかし、正義とは立場によって根底から変わるもの。この場合、商品とされている亜人の者達からはこの上ない善と見なされるかもしれない、しかし商売をしているエルマ人の男、それに雇われているリサール人の用心棒、そしてこの店の客からは悪と見なされるだろう。
それを理解した上でカズヤは彼等を懲らしめる事にした。勝手に与えられた勇者という肩書きだが、案外いざやり始めると人はその役割を果たそうとするものである。
何よりも、徒に弱者から搾取する者を見過ごしては勇者とは言えまい。
「何故こんなことをする?」
問題は、このリサール人の用心棒だ。
エリクよりも一回りも二回りも大柄で、毛が生えてない熊ではないかと思うような強靭な筋肉に覆われた肉体。そしてその鋭い目付きは人間というより獣を思わせる。
しかし意外なことに用心棒の男は、理性的なエルマ語でカズヤに語りかけて来た。エルマロット王国に移住して長いのか、それとも見た目とは裏腹に言語能力が高いのだろうか。
少なくとも、ただ暴れるだけが用心棒というわけではないようだ。
「アンタが噂の勇者か。何故ってそんなもん需要があるからに決まってんだろ」
この男はカズヤが召喚された勇者だということを知っていた。
この世界では大規模な魔法を発動すると、天候が変わる。それによってカズヤは呼び出された訳であるが、当の本人は知る由もなかった。
このリサール人の男は己の言葉通り郷に従った上で裏稼業をやっているわけだ。王国も一概に治安が良いとは言えないらしい。
「王国では奴隷売買は禁止されている、お前等はただ取り締まられてないだけだろう」
エリクも毅然とした態度で二人を咎める。
「ああ?お前王国騎士か、そんなに凄まれたらびびっちまうぜ」
リサール人の男はそれを聞いて、明らかにエリクを嘲るような態度を見せる。話の流れで痛いところを突かれたなら、即座に相手の人格や立場を侮辱する方向へシフトしたのもある。
絶対に弱味を見せない、掴ませない事はアウトローとして生きる上で基本中の基本だ。
「俺を愚弄する気か?」
エリクは存外直情的なようだった。
この場合、頭が堅いとも言える。挑発に乗っては相手の思う壺だ。
「てめえ等王国騎士が俺の故郷でなんて呼ばれてるか教えてやろうか?弱過ぎてガキの騎士ごっこだって呼ばれてんだ。怪我しねえ内に消えな」
リサール人の用心棒はエリクに詰め寄ると、真正面から彼を見下ろして恫喝した。エリクもエルマ人にしては大柄で鍛えられた体つきであるが、それでも人と熊程の体格差がある。
この用心棒の男は背丈は2mを優に越え、体重は140kg程だろうか。うっすらと体に脂肪を蓄えながらも、やはり筋肉質な体つきだ。その豪腕は下手な丸太よりも太い。
「そういうことだ。うちは人材派遣業。妙な言い掛かりを付けるのは止めてもらおう」
エルマ人の店主は用心棒を盾に安全圏からそんな事を口にした、嘲るように含み笑いを溢しながら。
「……良いだろう、おままごとかどうか、お前らが人材派遣かどうか証明してやる」
侮り倒す二人の態度に、エリクの堪忍袋の緒が切れたようだ。彼は剣に手を掛けた。
リサール人の男は、それを見てすかさずエリクに前蹴りを叩き込む。そして腰に差していた大鉈を振りかざし機先を制してエリクへ振り下ろした。
肩書き以上にエリクは強かった。
奴隷商の用心棒の攻撃を受け止めるでもなく、ごく冷静に体を反らしてかわす。そのまま肉薄して男に一太刀を喰らわせた。
「こいつ……!」
用心棒の男は、左腕の付け根の動脈を切り裂かれた。おびただしい出血を見せる傷口を手で抑える。
「止血したければ、降参して奴隷を解放しろ。殺すつもりはない」
エリクは厳然とした口調で告げる。
「チッ、使えない奴め……!」
店主の男はエリクを狙ってボウガンを構えた。
それを見てカズヤは、側面から接近して咄嗟に店主の足を払い、腕を掴んで地面に叩き付ける。初歩的な投げ技だが、地面が石畳であるため下手をすると殺しかねない。
カズヤは努めて加速しないよう店主の腕を持ったまま投げ落とす。それはボウガンを撃たせない為でもあった。
カズヤは店主を制圧すると、とりあえずボウガンを放り投げた。
「カズヤ殿、助かりまし……」
カズヤが店主を倒して援護してくれた事を見てエリクはそちらに気取られる。
迂闊にも背後の用心棒に対して完全に隙を晒してしまった。
「エリクさん、危ない!」
カズヤは叫んだ。
「俺は騎士が嫌いなんだよ、死ぬ程なあ!」
用心棒はエリクへ背後から襲い掛かり鉈の柄で兜ごと後頭部を殴り付ける。体が大きい分、失血で倒れるまで時間がかかるのだろう。
そのまま倒れ込んだエリクの背中に馬乗りになり、鉈の柄でエリクの頭を殴り付けている。
カズヤはボウガンを投げ捨てた事を後悔したが、腰に差した剣の存在を思い出し、咄嗟に剣に手をやる。比較的小型の剣であった為、割とすぐに抜くことができた。
カズヤは先刻エルマに教わった要領を思い出し、受け取った剣にマナを込めた。
余裕はなく、失敗は許されない。だからこそ冷静に実行した。
俺はあの女神に魔法を使えるようにしてもらったのだから出来る筈だ。
カズヤはそう自分に言い聞かせた。
イメージし終えるよりも先に鈍い光と共に、刀身に炎が迸り、用心棒の体を捉えた。
「おわあああぁ!!!?」
それは序の口だった。燃え移った炎が爆発を起こすイメージが術者のカズヤに伝わる。
カズヤは殺すのは不味いと思い、咄嗟にその爆発点の照準を用心棒の体から付近の空中へ逸らした。
炸裂音。用心棒の男は自分の体のすぐ近くで起きた爆発に吹き飛ばされて店の壁へ叩き付けられた。出血も相俟って完全に意識を失ったようだ。
予想を遥かに上回る破壊力にカズヤは驚愕する。爆炎魔法が封じ込められていると言っていたが、まさかここまでとは。
「それがその剣の力ですか……!何とも凄まじい。カズヤ殿、助かりました」
エリクは危ういところを救ってもらい感謝の言葉を伝える。
「エリクさんこそ、怪我が無くて良かったです。すみません俺が無茶言ったせいで……」
「いえいえ、とりあえず鍵を見つけて奴隷にされている者達を解放しましょうか」
「はい」
カズヤとエリクは片っ端から奴隷達の檻を開け、枷を解いていく。
「ありがとうございます!あ、あの……私も連れていってくれませんか?」
狐のような耳を生やした亜人の少女はカズヤの顔を見てそう言った。真正面から目を合わせてきて、少々カズヤは照れ臭かった。
「えっ?いいけど……」
「私はマルティナって言います、気配を隠すのが得意ですよ!」
「よろしく」
カズヤは素っ気なく言うが、マルティナはぴこぴこと狐の耳をぱたぱたさせていた。
*
エリクとマルティナが立ち去ってから、カズヤは懐から取り出した傷薬を火傷まみれの用心棒に、特に動脈の切れた腕の付け根にぶち撒けた。
カズヤは彼を放置しては出血で死に至ると考えたのだ。
いくら悪人でもかけがえの無い命。いたずらな殺生は、それも女神から借りた剣で間接的に人を殺すというのは些か寝覚めが悪かった。
「う……ぐ……」
用心棒は意識を取り戻し掛けているのだろう。カズヤはそそくさと走り去った。
*
今日のカズヤは、冒険者ギルドで依頼を受けることにした。資金不足の為でもあるし、エリクに勧められたという事もある。
カズヤは、何の疑いも無しに依頼を受注しようとする。
その警戒心の欠片もない行動は、平和ボケした現代日本に蔓延る和製ファンタジーの弊害と言えるだろう。当然、その依頼自体が罠であることなど知る由もない。
受付のお姉さんはエルフだろうか、かなりの美人でカズヤは目を引かれる。
受付のお姉さんの顔にはどこか翳りのあったが、そこがまた魅力的だった。
「とりあえず、報酬が高額な依頼を……」
「冒険者のランクが低いので高額報酬はまだ難しいですね、申し訳ありません」
「あらら」
「……そうですね、夜間の依頼になりますけど、こちらでしたら報酬が高額になりますよ」
受付のエルフのお姉さんことジナは、"アイゼル"の仕込み通りにカズヤに偽装依頼を勧める。
「それでお願いします!賊をやっつけたらいいんですよね、任せておいてください」
「……道中は暗いので松明なんかを持っていった方がいいです」
妹を人質に取られ背に腹は変えられぬジナはカゼルに協力するしかない。夜間、カゼル達の潜む森林で松明を持ってのこのこ歩いていれば間違いなく発見され、殺されるだろう。
しかしカズヤは楽観的であった。
王都で本物のアウトローのリサール人を倒したのだから、ろくに食事も取れぬであろう賊など女神エルマ様からもらったこのチート剣フランベルジュで吹き飛ばせば良いと考えていた。
その威力は実証済みである。
着用する鎧もリジェネ付きの勇者専用品。
問題はないだろう、この装備なら負ける方が難しいのではないか。
カズヤは、ついでにこのギルドで仲間を募り、魔法が使える二人と、エルフの女弓手の三人を仲間にした。
「エリクさん強いしまあ余裕でしょ」
「カズヤ殿、油断はいけません」
「……あの……!いえ、何でもありません。どうかお気をつけて」
ジナは後ろ髪引かれる思いでカズヤを見送った。
*
夜まで宿を取ってからカズヤ達は偽装依頼に示された森林の地点を目指す、自ら狼の顎の中へへ歩を進めているとも知らずに。
「私が先行して偵察にいってきます、すぐ戻りますから!」
「うん、気を付けてね」
マルティナは愛おしそうにカズヤに頬擦りをしてから、森へ走り出し姿を消した。
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