バレンタインSS

 

「え、なに?バレンタイン……あぁ」


 突如、後輩の女生徒から手渡しされた箱には可愛らしいリボンが付いていた。


「その……気持ちはありがたいけど」


「わかってます。でも、先輩に受け取ってもらえるだけでいいんです!」


 そう言い残して彼女は背を向けて走り去っていった。




 〜〜〜






「まぁ、似たようなことが朝から何度もあったんだけど」


「爆発しろリア充。自慢か? 自分はモテますってか? はぁ?」


 目の前の学友がこれでもかというくらいに睨みつけてくる。目が血走っててコエーよ。


「もしかして僕って人気ある感じ?」


「自覚なかったのかよアイン……」


 姉様もといステラが卒業してから一年。学園で過ごす最後の年。周囲の僕を見る目が変わった。

 どこのクラスにでもいそうな男子が実は王家の隠し子だった! ということで話題になった。


「物珍しいのはわかるけど、なんか見せ物にされてる気分なんだよね」


 銀髪っていうのは王族だけだし、バカ王子が行方不明になってもしかしたら王位が回ってくるかも……って噂が出回っている。

 僕が王様? それだけは絶対に拒否してやる。

 今は次期公爵家の後を継ぐための勉強やら立ち振る舞いの練習で忙しいんだ。


「それも、今年になってから益々人が集まってくるし」


「それもそうだろ。女王様がいないんだからよ」


「ステラがいるいないでそんなに変わる?」


「……何言ってんの? 今まではお前にチョッカイ出す=女王に戦線布告するって意味だったんだぞ」


 あー。そういう受け取り方もできるわけね。一部の人たちはステラを理解してくれているけど、大半の人は誤解してるよな。


「けどさ、貰ったチョコレートがどれも義理にしては良くできてるのはどういうこと?」


「義理にしてはね……。そいつは本命代わりだろうよ。女王からお前を略奪なんて無理だってみんなが理解してんだよ。だから、せめてイベントに乗じて今までの秘めた思いを伝えて諦めようってことだな」


 なんでこいつは乙女心わかりますよみたいな感じなのにモテないのか? やっぱりガツガツいくタイプだから?


「あと、別にお前がイケメンだとか貴族だからってのはあんまし関係ないぜ。『家族として姉に恋心を隠し通そうとしていた姿に感動した』『普段の気遣いできるのがいい』『実はこっそりトレーニングして細マッチョ』『面倒後を率先して引き受けてくれる』『困ったことがあれば相談に乗ってくれる』などなど……。人柄とかを評価してくれる奴らも大勢いるってことだよ」


「それは嬉しい知らせだね。僕はただ、ステラの真似をしてただけなのに」


「あの人を真似できるってのは大したことだと思うぜ! じゃ、俺は部活があるから先行くぜ」


「じゃあねビッケン。タルトさんからチョコレート貰えるといいな」


「うっせー! テメェには関係ないだろうが。べ、別にあいつは関係ない……(ゴニョゴニョ)」


 ビッケンは赤面させながら下を向いて怒鳴りながら教室を出て行った。器用なことをするな彼は。

 でも、僕だって知っているんだぞ? お前が同級生で同じ部活の女の子に気があるってこと。その子もビッケンが気になっていること。



「バレンタインねぇ。昔はあっちでもこっちでもいい思い出が無かったけど、これから良いことを積み重ねていけたらいいな」


 その日、貰ったチョコを持ち帰るのに馬車を一台用意しなくちゃならなかったのはいい思い出だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る