第22話 サトウ無双

 

 さてさて、アインくんの教えてくれた倉庫に突入したわけなんですが……


「皆殺しにしても問題ありやせんか?」


 屈強な男が寄ってたかって女の子を取り囲んでいるじゃありゃせんか。

 突入する前に聞こえたステラ嬢の言葉。かっこいいじゃあないですか。今時の男でもあんなことは言えやしませんで。


 あそこまで言われたら、死ぬ気で頑張ろうじゃないですか。


「おどれら‼︎ あの男をぶっ殺さんかい!」


 糸目の闇商人、イナリの合図でゴロツキどもが襲いかかってきます。どいつもこいつも物騒なモノを持ってまさぁ。


「「「うおおおおおおおおおおっ」」」


 ただ、これくらいじゃあ ぼかぁ、止められないんですわ。


 腰から抜き出すのは、昔から命を預けているカタナと呼ばれる剣。この国では滅多にお目にかかれないモノでしょう。

 一人、二人、三人て次々と斬り伏せます。もちろん、彼らには後から犯罪の証人になってもらわないといけないんで、峰打ちで勘弁してやりましょうや。


 ぼかぁ、イナリを捕縛するために雑魚どもを蹴散らしますけど、流石に全員を相手にして女の子らを守り抜けやしません。

 なので、彼女たちの守りは助っ人さんにしてもらいましょう。


「さて、全滅も時間の問題でさぁ。そろそろ降参された方が身のためだと思うんですか?」


「……それはできない」


 徐々に逃げ場のない方へと追い詰められていたイナリの前に立ちはだかる男。


「お前が黒騎士のサトウ・タナカスズキだな。噂は聞いている」


「へぇ、そりゃどうも。こっちも、あんたのことは知ってまさぁ。コロシアムの次期チャンピオンって評判じゃあないですか」


「……俺は、歴代最短でチャンピオンになったお前を倒して最強であることを証明するっ‼︎」


 グルムンクは嬉々とした表情でこちらへ突撃してくる。筋骨隆々の見た目とは裏腹に、素早い動きで迫ってくる。

 相当な修羅場を、場数を踏んだ動き。洗練された剣技は並の人間の首をいとも簡単に刎ね飛ばすはずだった。


「うちのキャロルが泣いてるでしょうがっ‼︎」


「ぶべらっ⁉︎」


 所詮は一流止まりの武芸者。これでもぼかぁ、騎士団最強の称号を頂いてます。倒したければ化け物の領域に踏み込むくらいじゃないと……って、気絶してますか。

 やれやれ、久々に強敵と戦えるかと思えばこのザマか。


「さーて、残りの方々。ご覧の通り憂さ晴らしもできなくて消化不良なんでさぁ。ちょっとは楽しませてくださいね?」


 直後、サトウの姿が掻き消えた。










 ーアヤメー





 正直に言う。キャロルの婚約者は人間じゃないわー。

 十分と経たないうちに武装したゴロツキどもが全滅してるんだもん。いかに凄いかって惚気話はいつも聞いていたけど、実際に目の前で見たら「スゲー」ってしかいえないわね。


 今はサトウさんがイナリとか言われてた糸目の男をボッコボッコに殴り飛ばして色々吐かせている。

 なんでも、うちの学園のリリア・ルルリアがステラ様の誘拐を依頼したらしい。私とキャロルはそれに巻き込まれたらしい。


 今頃はステラ様の婚約者であるアイン様がリリアの身柄を確保しているらしい。

 どうしてこの場所がわかったのか?

 アイン様がどうしてリリアが事件の首謀者だと気付いたのか?


 いくつか疑問点があるけど、とりあえず今はみんな無事でよかった。


「あー、安心したら腰抜けちゃった」


「貴様、大丈夫か? よければ手を貸すぞ」


 そう言ってあたしを引き上げて立たせてくれたのは、顔が見えないタイプの甲冑を着た騎士だった。サトウさんが突入してきた後に、この人はあたしたちを守ってくれた。

 サトウさん程じゃなかったけど、たった一人であそこまで戦えるのは十分にカッコイイと思う。


「……まさか、こんなことになるなんて」


 甲冑の彼は後から来た騎士団の人たちに連行されていくゴロツキたちをただじっと見つめていた。

 その背後……後頭部から銀髪の髪が見えたのはきっと気のせいだと思う。


「俺はこれからどうすれば……」





 そこからはあっという間に時間が過ぎた。

 騎士団の本部まで連れていかて事情聴取をされた。怪我はないか? 怖くなかった? 何をされたか? 相手が女性の騎士だったし、襲われたのも未遂だったから、特に取り乱すことなくスラスラ話せた。

 その後は迎えに来た両親にこっ酷く叱られて抱きしめられた。


 キャロルは事後処理の済んだサトウさんに抱きついて人目も気にしないで号泣するし、ステラ様はドランプ公爵とアイン様の二人から泣きつかれて困った顔を浮かべていらっしゃった。でも、その目尻に流れる雫を私は見逃さなかった。


 学園に戻ってからは質問攻めにあった。

 色んな新聞社の記者が取材にきたりしたけど、アイン様の黒い笑顔とサトウさんの睨みつけるのコンボですごすごと退散していった。


 卒業式がある頃には騒ぎはひと段落して、別の話題で持ちきりになったりした。


 リリア・ルルリアは事件以降、学園には来なかった。風の噂では僻地の山奥にある修道院に入れられたとか。最低限の生活しかできない女性しかいない場所で彼女は何を思って過ごしているのか……


 グルムンクとイナリたちは捜査を進めると次から次へと悪事が出てきて、裁判の後に死刑が執行された。
















 ーーーそして、五年が経った。

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