第21話 決着。事件の首謀者
夜。草木も眠った静かな頃、僕は学園内のとある場所に来ていた。
その場所は生徒全員が公平に扱われれ学園で唯一、特権階級の人間が使用できる場所。王族専用のサロンだ。
姉様たちはサトウ先生と助っ人のバカと近衛騎士団を向かわせているからまず大丈夫だろう。原作ゲームでサトウ先生が死んだのは後先考えずに一人で敵のアジトに乗り込んだせいだ。相手方には腕の立つ用心棒がいるはずだけど、一騎当千と呼ばれた最強の剣士には勝てない。
本来なら僕自身も彼らと一緒に突入して、気丈に振る舞いながらも内心号泣している姉様を抱きしめてあげたい。
………けど、それを断腸の思いで諦めてここにきた理由がある。
「で、君はイナリに接触してステラたちを隣国に誘拐、もしくは殺害するように依頼した。間違いないね?」
リリア・ルルリア。今回の一件の首謀者が目の前にいる。
原作ではリリアは姉様と一緒に攫われてしまう。どうしてそんな彼女が首謀者なのか。
それは、イベントが関係している。ゲーム開始時にプレイヤーはリリアが学園内で入る部活を選択する。それによって選べるルートが絞られたりする仕様だ。
このリリアは演劇部に所属している。学園の演劇部は年に一回、王都の劇場で発表会を行う。イナリはそのときにリリアと接触する。
原作ではリリアを攫うために暗躍するイナリだが、どうやら時期やあり得ないはずの僕の登場でシナリオがねじ曲がったようだ。
「リリアはそんなことしてません! それに、そのイナリって人なんか知りません」
そう言ってリリアは否定する。まぁ、今のところは証拠が無いからね。
サトウ先生がイナリたちを捕まえて事実を吐かせないといけないし。
「時間の問題だよ。自白するのとあとから逮捕されるのじゃあ、刑罰に差があるからね。これは僕からの温情でもあるんだ」
「……リ、リリアは」
その態度が事実を認めているようなものだけどな。
「リリアは………………選ばれた子なの」
突如、蒼白な顔色で俯いていたリリアは立ち上がった。
「リリアは可愛いの。リリアはみんなから愛されてるのよ。何もしなくても誰かが手伝ってくれる。みんなリリアを心配してくれるの。リリアはお芝居が上手で女優さんになるの。リリアはこの国の女王様になるの。リリアが一番、一番なの‼︎ なのに、どうしてみんなあの女を褒めるの? 生まれが良くて、育ちが良くて、なんでも完璧できて。あんなの普通じゃないの! 頭の中おかしいんじゃないの⁉︎ 学園の女王? みんなに怖がられてるだけじゃん!権力を振りかざしてるだけじゃん! あんなのの何処がいいの⁉︎ ルークス様はリリアを選んでくれた。なら、アイン様もリリアを選ぶべきなの。あの女は惨めに誰からも相手にされずにリリアに頭を下げるべきなのよ‼︎」
吠えるように話す彼女の言葉を僕は受け止める。
僕にはその義務がある。この世界が僕の作ったゲームならば、彼女の運命を乱したのは不確定要素の僕だから。自分の幸せのために身勝手にザマァ返しを選んだのだから。
泣きながら崩れ落ちる
お互いに無言のまま、しばらく時間が経つとサロンの外が騒がしくなってきた。
どうやらイナリたちの方が片付いたようだ。
あとは彼らに任せよう。
「リリアさん……君に会うことはもうないかもしれない。ただ、これだけは言わせて欲しい。……ステラ・フォールドは君と同じ普通の女の子だよ。ステラは最初から凄かったんじゃない。好きな誰かに振り向いてもらうためにただ一生懸命なだけだったんだよ」
僕がサロンから出てくると、鎧を着た騎士たちがサロン内に入って行った。
さて、気分は晴れやかとはいかないけどステラのところにいかないとね。
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