第16話 女の子たちのお出かけ
「だから、あたしはこっちの方が似合うと思うわけよ」
「いや……流石にこれは短くないか?」
「そんなんだからいつまでも彼氏と進展しないのよ。ねぇ、ステラさん」
「えぇ。そうですね……」
わたしの目の前に突き出されているのは、可愛らしいフリルのついたミニスカートです。少し短いような気もしますが、ストッキングなどと合わせれば問題ないでしょう。
「しかしだな……」
「キャロルさん。わたしが言うのはなんですが、こういうのは今までの固定観念などを捨てて思いきってみることが大切ですよ」
「ほら。ステラさんもこう言ってるんだし買っちゃいなよ」
「ステラ様にそこまで言われては……くっ、これをくれ」
まるで殺してくれと言わんばかりの表情でキャロルさんが店員さんに駆け寄っていきました。
「いや〜、キャロルっていっつも同じような服しか買わないのよね。オススメしても絶対に買ってくれなかったから、今日はステラさんがいてくれて助かったわ」
うんうん、と腕を組んで頷くのは同じクラスのアヤメさんです。
あらかじめ約束していたアインとの外出は、都合によりキャンセルになってしまいました。今頃はお父様と二人で楽しくお話しているのではないでしょうか。
なので、わたしはアヤメさんとそのご友人のキャロルさんの三人でショッピングにきています。
キャロルさんはわたしたちとは違う学科で、女性では物凄く珍しい騎士育成科に在籍されています。将来は国のため、民のために身体を張ったお仕事をなさるので、日頃は訓練に明け暮れているそうです。
体力作りのために身体を鍛えているおかげか、キャロルさんのウエストはくびれができていてわたし的にはちょっと羨ましいです。ひとつに結びになさっているサファイアブルーの髪は宝石のような艶を放っていて、騎士育成科の男性からは密かな人気があるそうで。
「アヤメさんは何も買わなくていいんですの?」
「あたしはねぇ……こういうお店で服を買ったりする金銭的な余裕はないのよ。だから、気に入ったデザインがあれば似たような服を古着屋で探してみるわ」
「ふふふ。アヤメさんらしいですね」
「いや。貴族の令嬢様じゃあるまいし。平民の家の子としては普通だと思うよ」
アヤメさんは学園の特待生として入学された普通のお方です。栗色の髪をサイドテールにして眼鏡をかけてらっしゃいます。
「もう、あれから一年が経つんですね」
「あぁ。そういえばそうだったわね。時間が経つのって早いね」
一年前、初めて同じクラスになったアヤメさんはそのサッパリとした性格から、一部の貴族の女の子たちとよく衝突をされていました。
その女の子というのがわたしの昔からの知り合いたちで、当時はよく行動を一緒にしていました。
『生意気よ』『平民のくせに』と言う陰口も何回か聞きました。
アヤメさんはそんなこと関係ないと言わんばかりに堂々となさっていました。
少し度が過ぎた行動を女の子たちがしたとには流石にわたしも注意をして、彼女たちに謝罪をさせました。
ルークスが言っていたのはこのことだったのでしょうか。
「あの子ら、今でもあの時の話したら顔が青くなるけど、ステラさんなんて言ったの?」
「わたしは別に何もしてないですよ。ただ……ねぇ?」
「ごめん。目が笑ってないステラさんとかマジ無理。余計なこといってすいませんでした!」
「もう、他の方も見てますから顔をあげてください!」
だいたいこの流れがいつものお約束です。今ではかなり親しくして頂いている友人です。さん付けして呼び合っているのは親しき中にも礼儀あり、といったところです。
「なんだか、二人で楽しそうだな」
「なーに? もしかしてキャロルったら妬いちゃったの」
「すまないが、私には婚約者がいるのでアヤメとステラ様に嫉妬するとかいうのはない」
「真面目かっ‼︎」
普段は人をからったりするアヤメさんがツッコミに回るなんて新鮮ですね。
プライベートで寮が相部屋の二人ならではの距離感でしょうか。
「いーよもう。キャロルなんて知らない! あたしにはステラさんがいるんだから」
「ごめんなさいアヤメさん。わたしにも婚約者がいるので、アヤメさんとはお付き合いできません」
「……なに? この国の貴族は婚約者がいないとダメなの? あたしみたいな一般家庭の地味な娘には彼氏ができないって言いたいのか‼︎ よしわかった。ちょっと向かいの喫茶店で詳しい話を聞かせてもらおうじゃないの」
顔を真っ赤にしてムキー、と憤慨するアヤメさんを見て、わたしとキャロルさんは笑い合いました。
そろそろお昼過ぎなので、喫茶店では軽い食事でもとりましょうか。
たまには女の子同士でお出かけするのもいいものですね。
ただ、このまま無事に一日が過ぎればよかったのですけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます