第13話 秘密のサロン
「おのれ……!どいつもこいつも俺を馬鹿にした目で見下して」
フォールド家の二人と別れた後、俺は学園内にある王族専用のサロンにいた。
この場所なら他の誰からも干渉を受けない。今の俺にとっては気が休まる場所だ。
「大丈夫ですよルークス様。リリアだけはルークス様の味方ですから」
そう言って、膝枕されている俺の頭を撫でてくれる。
リリアは強いな。こういう彼女の人のことなんて気にしない性格が羨ましく思える。
「二人とも、俺を哀れみの目で見てきた。たかが公爵家の娘と爺さんと妾の子の分際で」
アインのあの振る舞い。あれは完全に俺を小馬鹿していた。生意気な男だ。
俺は生まれつき王族の子として、国王になる男としての教育を受けてきたエリートだ。学業も、武術だって一般人とは違う。選ばれた人間だ。
それを、死んだ爺さんと血が繋がっているからという理由で王族と認められ、周囲の注目を集めている。
生前は賢王として名を残した爺さんらしいが、俺からしてみれば後世に余計な火種を残した愚王だ。
「ねぇ、ルークス様。アイン様については悪い人じゃないとリリアは思うんです」
「なに?君まであの男の味方をするのか‼︎」
起き上がろうとした俺を、リリアは
「だって、可哀想だとは思いませんか? いきなり自分は王族の子どもで、前王様の妾の子だって言われて。リリアだったら周りの反応が怖くなっちゃいます」
「あ、あぁ」
……冷静になると、それも一理あるか。生まれつき王の資質を持った俺とは違い、アインはステラの母方の男爵家の養子として今まで過ごしてきた。それも、元々は平民だった家系らしい。
貴族の中でも最底辺の家の人間から王族になるか……。普通の人間なら畏れ多くて虚勢を張ってしまうか。
「そうか。あいつのあの態度。あれは自分の弱さを隠すための強がりか」
「リリアもそう思うんです。それにそれに、隣にいるのがあのステラ様ですよ。弱っているところなんて見せられないじゃないですか」
「フォールド公爵家に脅されて利用されているということか」
ふっ、あいつの方こそ哀れな男ではないか。自由を奪われ、義理の家族に人形のように操られる。
所詮は公爵家が王族との関係を持っているというアピールのための駒か。
「リリアの言う通りに可哀想なやつだな」
「そうなんですよ。だから、リリアが思うに一番悪いのはステラ様とフォールド公爵家だって思うんです」
やはりか。
ステラ。フォールド家。この二つは俺の人生に暗雲をもたらした元凶だ。
王城を出る前に侍女たちが話しているのを聞いたが、なんでもフォールド家当主のドランプ公爵が護衛の兵士を殴り飛ばして国王たる父に剣を向けて脅迫をしたという内容だった。
父にはあとから事情を話すように言ったが、『お前は何も知らなくていい。ただ、条件だけを守っていればいい』とだけ言われた。国家反逆罪としてフォールド家を取り潰せる絶好の機会ではなかったかのか。
何故なんだ。何故、これからという時に上手くいかないんだ。
「リリア……俺はどうすればいいんだ。どうすればステラに、フォールド家に怯えなく過ごせるんだ……」
「大丈夫ですよルークス様! リリアの知り合いにとっても頭が良くて交友関係が広いオジ様がいるんですよ。この間やった劇を観に来てくださった方でーーー」
蠱惑的な笑みを浮かべながら話すリリアの言葉を聞きながら、俺は思考を投げ捨てていった。
もう、俺の手には彼女しか残っていない。
ーリリアー
しばらくお話をしていると、よほど疲れきっていたのかルークス様は寝てしまわれたわ。
やっと、
教室で同じ授業を受けたとき、ステラ様はいつもルークス様に熱い視線を向けていたわ。影ではリリアにべったりなことを知らないのが可笑しくって、楽しかった。
それなのに、久々にルークス様と会ったステラ様はまったく興味もない様子で、会釈しただけ。
目の前でリリアがルークス様に抱きついても、知らんぷり。何かを思い出したかのように赤い顔をして下級生のいる校舎の方を見つめていたのよ。
あの日、ダンスパーティーの日にリリアの目の前で泣きながら崩れ落ちるはずだったのに。余計なことをするから。
国王様からルークス様に出された条件はこっそり教えてもらったの。
ルークス様はステラ様に近づけないし、直接何かを仕掛けることはできない。
でも、
だったら、リリアはリリアの幸せのためにできることをするの。まずは、今度のお休みの日にオジ様に会いに行かなくっちゃ。
「ルークス様も、アイン様も、この国も、全部。ぜーんぶリリアが幸せにしてあげるんだからね★」
「………んんっ。リリア?」
「はーい。ルークス様の大好きなリリアですよ?」
とりあえず、リリアは寝惚けているルークス様を支えて、王族専用サロンの奥にある仮眠部屋に行きましょう。
リフレッシュするには、快感に身を委ねるのが一番だから。
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