第11話 関係の変化
時刻は放課後。今日の授業の全日程が終了し、荷物をカバンに詰めた僕は最上級生がいる校舎に向かう。
生徒の人数が騎士育成科や経済経営科、その他にもいくつかの学科があるせいで、この学園はかなり規模が大きい。
校舎は同学年の生徒で交流しやすいように学年別に分けられているので、姉様に会いに行くには時間がかかるのがもどかしい。
年齢が一つ違うだけで色んな不都合があった。
学園祭や林間学校は別々だし、同じ授業を受けながら雑談とかできなかった。
リア充が学園生活でするイベントはことごとく楽しめなかったことになるんだよね。
まぁ、その代わりに一生の思い出に残るダンスパーティーでは姉様と一緒に踊れて幸せだった。
写真部に頼んで二人で踊ってる写真をもらったけど、額縁に入れて自室に飾ってある。白いドレスに身を包んだ姉様と黒のタキシードの僕。お揃いでこそなかったが、コントラストがあって様になっていたと思う。
「そこの方ぁ、廊下は走らないでくれませんか〜」
おっと、騎士科の教師から注意されてしまった。「すいませんでした」と謝罪して、ギリギリ走ってるようにみえない早歩きで進む。
中庭を突っ切って、一番豪華な校舎に入り、見るからに高そうな調度品が所々に置いてある階段を上がればすぐ姉様のいる教室に、
「おい、貴様。ここでなにをしている」
誰だよ。僕の邪魔するやつ。オコだからな?至福の姉様タイムを寸前でお預けされて、普段はニコニコしてる顔が引きつってるからね僕。
「って、なんだ。もう軟禁は解除されたんですかルークス」
「ルークス?俺はこの国の王子だ。様をつけろ様を」
「僕とあなたの仲じゃないですか。アイン叔父さんと呼んでくれても構わないんですよ」
「誰が貴様を叔父などと呼ぶか!」
逆ギレされたんですけど。どうしたらいいんですかね。
それにしても、銀髪イケメンのバカ王子は今日から学園に復帰していたのか。オヤジに頼んで、国王にはルークスが泣いて謝るまで城から出すなって伝えてたんだけど、ここにいるってことは泣いたんだな。
僕の実父でルークスの祖父である前王のせいで、僕らの関係は複雑なものだ。
どういうカラクリかは知らないが、今のところの僕の立場は王位継承順位が第二位になっている。つまり、目の前のルークスに何か不慮の事故が発生して死んでしまったら僕が次期国王に内定してしまうわけだ。
絶対に嫌だけどね。大体、今まで僕の存在をひた隠しにして闇に葬ろうとかしてた連中が、公表した直後に手のひらを返したんだ。
前王の不祥事は今や国中に広まり、僕は『隠された王子』とか『悲劇の少年』なんて呼ばれているらしい。
ただ、姉様と幸せに暮らしたいだけなのに。どこの世界もゴシップネタは人気あるよね。
「もういいですか? 僕はステラを迎えに行かないといけないんで」
「貴様、自分が王族の人間だとわかった途端に俺様にその態度……はっ⁉︎ まさか、王の座を狙っているのか!」
指突きつけるな。唾飛ばすな。大声だすな。まったく、周りが注目してるでしょうが。
「国王陛下にも伝えてありますが、王位継承権は手放します。僕としては公爵家に婿入りするだけで満足なので。なので、そんな心配は無用ですよ」
「ふっ、俺には分かるぞ。貴様はそう言って俺や父上を騙し、寝首を掻いて国王になるつもりだな。野心家のフォールド家が考えそうなことだ。俺は騙されんぞ。いつか、貴様たちの真の企みを暴いてみせよう」
だめだこいつ。この間の一件のせいで疑心暗鬼になってますますバカになってる。
ゲームを作った時には思慮深い強気な王子様って設定にしてたはずなんだけどな。でも、途中から主人公や悪役令嬢の設定作りに夢中になりすぎて後輩に任せたんだった。
それに、現在のこの流れは僕には読めなくなっている。僕が作ったゲームではダンスパーティーでリリアとルークスが悪役令嬢にザマァをして、誓いのキスをするところでエンディングに入るんだよな。
今まではゲーム知識でどうにかこうにかしていた点が大きかったけど、これからは周囲の状況をより広く観察しておかないといけないな。
「アイン。そこでなにしてるの?」
あーあ、いつもすぐに迎えにくる僕が中々来ないから姉様の方から来ちゃったじゃないか。
「ステラ……」
「あら、ルークス王子。わたくしの婚約者に何かご用ですか? よければわたくしもお話を聞きますけど」
「いや、話というのは別にステラには」
「ならもういいですわよね? わたくしたち、今後の二人の在り方や婚約について色々としないといけない準備がありますの。まぁ、お久しぶりに登校されたルークス王子様にはまったくご関係の無い話なんですけどね」
ニッコリと微笑む姉様。ただ、目が笑ってない。何かドス黒いオーラのようなものが見え隠れしているし、ルークスからルークス王子様に呼び方変わってるし。
「それに、フォールド家とのお約束をお忘れにでもなさいましたか?」
「ま、まさか。忘れるわけがないだろ。そうだ! 俺はリリアと待ち合わせをしていたんだった。早く行かないとな。では、さらば」
約束という言葉に反応して、ルークスは冷や汗を垂らしながら安っぽい誤魔化しして去っていった。逃げ足は速いな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます