トラッシュシティ①
廃墟から東へ数キロ歩くと、20mほどの高さの壁が見えてきた。
『あーーーー。あちぃ…やっと壁見えた。』
砂漠化した大地の日に打たれ、だるそうに歩くエンジ。
『おい、お前らこの暑さ、平気なのかぁ?』
すると、少し前でルストと歩くハクが呆れた顔をしてエンジに話しかける。
「お前のベスト壊れてんのか?てか、数十分ぐらいで暑さにやられんなよ。」
ルストは軽く咳払いをした後で、待ってましたと言わんばかりに話始める。
「俺が生まれるもっと前は、高温となってしまった気温で世界の果てにある巨大な氷が全て溶けてしまい、陸のほとんどは水に沈んでいた。」
『はじまった…。あれだろ…あーー、ちきゅうオンナ化だろ。』
「温暖化な。」
すかさず、ハクが修正する。
『ちっ。』
タイミングを見て、ルストは話を続ける。
「人口爆発とは裏腹に陸が沈み、人が住める土地が無くなったことで、ついに領土の取り合いとなり…。」
『テンションが暴発!』
「戦争が勃発な。“テンションが暴発”してんのはお前だ。」
すかさず、ハクは突っ込んでいく。
『ちぃっ。』
エンジはさっきよりも強い舌打ちをした。
「あぁーーー、いいかぁ?…爆弾や細菌、ウイルスなど兵器が世界中から打ち上げられ人類はもとより地球が蝕まれていった…。」
『その時!地球は最後の力を使い、世界を蝕むものを消し去ってくれた。そして、生き残った俺たちができることは地球を元に戻し…。』
「地球に恩を返すこと。」
「でも、戦争の後遺症は残ってしまい、ある細菌兵器がさっきのような怪物たちを生み出してしまったといわれている。」
『その“デンショーキ”だっけか?何回も聞いたって。』
「なら間違えんな。」
『ちっ!…あーー、あれだ、“耳ネコ”‼』
「“耳タコ”な。これはタコの方が賢いんじゃ…」
『あ゛あ゛ぁー?!』
「はーい。やめやめー、“トラッシュシティ”ついたから。」
―トラッシュシティ―
人類最後の大都市、巨大な塔を中心に3つの街が円形に形成されており、壁で都市全体を囲っている。
高くそびえ立つ壁に、ポツンと5m程の高さを持つ門が見えてきた。3人はわちゃわちゃと騒ぎ立てながら門に近づいていくと、門のすぐ上の壁から頭を出しているに物見やぐらから守衛が話しかける。
「ルストさん、久しいですね。」
「おうよ。すまんね、坊主どもが騒がしくて。」
「いや、そのおかげでルストさん達だ、ってすぐにわかりましたよ。おーーい!開門してくれ!」
門の裏手ではガシャガシャと巨大な錠が幾重にも音を立てている。しばらくしてやっと2mの厚みを持った門が動き始めた。
『何回見ても、かっけぇ、でっけぇ。』
まじまじと門を見上げるエンジ。
開いた門を進むとさっき話しかけてくれた守衛が門の入り口で待っていた。
「ご苦労様です。」
「いいよ、そんなに改まらないで。」
遠慮がちにルストは答えた。
「いいえ、お子さんを含めたみなさんが
「まぁまぁ、外回ってるついでだから、最近
「最近ですか…、少数ですがハウンドの群れをよく見かけます。」
守衛は心配そうな面持ちで話す。
「そうかぁ、実は俺たちも今さっきハウンドと戦ってきたところなんだ。出発は北門から出て、大きく回って西へ。んで、そのついでにエンジの受けた依頼を完遂しようとしたら、そこがハウンドにヤられてた。ここから数キロ先だよ。」
「なんと!各門の守衛たちにも報告しておきます。」
「ああ、頼む。北側は特に異常はなかったなぁ。最近
「承知いたしました。ありがとうございます!あと、変なことと言えばここ最近、トラッシュシティ南東部で人さらいの事件が多いみたいです。」
エンジは頭の中で都市の地図を思い浮かべた。
『南東…。シティの塔を中心と考えて、、“ディープシー”と“グラスタウン”の間くらいか。』
「治安の悪いところだ。」
ハクは冷静に答えた。
「そうかぁ、ちょうどそっちに用事あるから様子見てくるよ。んじゃ、ご苦労さん。」
「はい。お疲れのところすいません、有難うございます、では。」
守衛は3人に深々と頭を下げる。
『じゃーなー。』
守衛に手を振るエンジと、軽く頭を下げるハク。
門の外形で真四角に掘られた真っ直ぐなトンネルを10m進むと、その先には活気ある商店街が広がっていた。
『くぁーー、1週間ぶりの“バナブルタウン”だぜぇー。』
凝り固まった身体や張り詰めた神経をほぐすようにエンジは思いっきり蹴伸びをした。
―バナブルタウン―
都市の60%を形成している街、都市人口のほとんどはこの街に住んでいる活気ある街だ。
「まずは依頼の精算だ。」
「そうだな。よぉし、手分けするかぁ。」
ルストは背負っていた大きなリュックから巾着を取り出し、エンジとハクに渡した。それには外で調達した物資を素材ごとに小分けしてある。
「エンジはここで野草系の精算を、ハクはディープシーで燃料系を精算してきてくれぇ、終わったらグラスタウンの“アロハ商店”に集合な。俺はさっきの件で直接グラスタウンへ向かうわぁ。」
『おっけー。』「わかった。」
お客や店の喧騒の中から子どもの声が聞こえた。
「あ!エンジ兄ちゃんだ!」「エンジ兄ちゃん!」
色々な歳の子どもたちがエンジの元へ嬉しそうに走ってくる。
『おおおお!リュート!みんな元気してたか!?』
「今回はなんか持って帰ってくれたか?」
キラキラした目でエンジに胸膨らませているこの少年はリュート。バナブルタウンの孤児院に住んでおり、エンジにとっては弟のような存在である。
『今回はなぁ…。』
エンジは自分の肩に掛けているウエストバックを正面に持ってくると、チャックを開けて舌を少し出しながら中身を漁りだした。それから何かを見つけたような明るい表情をすると、子どもたちも連れて表情を変える。
『…これ!!七色に光る鉱石だ!!』
「うぉーーーー!」「かっけぇ!」
子どもたちのテンションはMAXだ。
「おい、いつの間にあんなもん。」
呆れた表情でルストが言う。
「最初に行った北の渓谷で拾ってた、丁度あの子どもたちみたいな顔してな。」
ハクが答える。
「はぁーぁ、エンジぃ、できるだけ早く集合しろよぉ。」
『おうよ!これ、全員分あるからやるよ!』
「いぇーい!」
『しかも、北には日の光で輝きだす黄金の−。』
エンジは子どもたちを連れて都市の北側へ向かっていった。
「どっちも嬉しそうな顔してやがる。」
「どっちが子どもなのやら。」
楽しそうな姿を見て少し口を緩める二人は都市の南側へ向かい始めた。
バナブルタウンをしばらく南に行くと、商店街を抜け、農村地帯が現れる。その広大な畑のあぜ道をルストとハクは歩いていた。
「ふぅ…。ここは静かでいい。」
小さなため息を吐きながらハクが言う。
「確かに、お前には商店街よりもこっちの方が合ってんなぁ。」
「あ!ハクちゃん!」
広大な麦畑のどこかからか声がする。
「ん?バーリィおばさん?どこだ?」
ハクは声で誰かは分かったが、その姿が見当たらない。
「ここよ!」
ルストの足元で手を大きく振ったり飛び跳ねたりして主張するが、
「どこ。」
二人は分かっていながら遠くを見る振りをする。
「ここよ〜。」
ルストの足元に小人のような小さいおばさんが立っていた。
「うわぁ。」
棒読みで驚くルスト。
「毎回やるわよね、これ。失礼しちゃうわ。」
バーリィおばさんはぷんぷん怒っている。
「いやぁ、珍しくハクも探すところまでノリノリでやってくれるもんだから。」
後ろ頭を右手で掻きながらニヤニヤ笑って誤魔化すルスト。
「まぁ、イケメンのハクちゃんに免じて許すわ。あと、この前ハクちゃんが納屋の整頓を手伝ってくれた、そのお礼を渡したいの。」
「いえ、散歩してたら、目に入っただけで。」
「いいのよ~。こっちがお礼したいの。」
「はあ。」
「ライさん!用意してたお礼持ってきて!」
近くの小屋の扉が開くと、背の高い麦よりも一回り大きなおじさんがズシズシと歩いてきた。身長はルストよりも少し大きい。
「よぉ、相変わらずでけぇな、ライさん元気してたかぁ?」
「おかげさまでな。」
優しくゆったりとした低音の声だ。
「ほれ、みんなで食べとくれ。ばあさんと作ったクッキーだ。」
大きな手からクッキーの入った小さな袋をハクに渡すと、3人分にしては大きめの袋になった。
「日持ちできそうな物って考えたらこれが浮かんだのよ。」
「大量だなぁ、ありがたくいただいとくよ。」
ルストはクッキーをリュックに入れた。
「有難う。いただきます。」
深くお辞儀をするハク。
「いいのよ。またね。」
バーリィおばさんは、つま先で立ちながらハクの頭をポンポンと二回なでた。
ハクは頭を上げると、満面の笑みのおばさんとおじさんにつられ、にっこりと笑った。
―時同じくして、バナブルタウンの北部。
エンジは野草の精算が済み、リュートと二人で街を歩くいていた。
『あの依頼してきた爺さんどこにも居なかったなぁ、どこ行った。』
辺りを見回しながらエンジは歩いていると、
「おいっ!!」
という声と共に、リュートは思いっきりエンジを突き飛ばした。あまりにも急であったため、びっくりして態勢を崩したエンジは、店の壁に激突し、穴が開いた。
『痛ってぇなぁ、、おい!なにすんだよ!』
「おい!うちの店壊しやがって!」
怒るエンジと店主。
周辺の住民も騒めき始めている。
「お…。とけっ…。」
リュートは下を向きながらプルプル震え、何かを言おうとしている。
『あ゛ぁ?なんて?』
すると、グイっとエンジの胸ぐらを掴み、顔を近づけたかと思うと、
「俺と結婚しろ!!」
とエンジを睨みながら叫んだ。
『…へ?』
『〈ええええええええええええええええええええ…。〉』
その時、エンジと住民は、血の気が引きすぎて、周辺の気温を3℃程下げたという。
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