第21話 捜索 〜side フィリップ〜

 

 現場に駆けつけエバンや他の騎士とともに御者と侍女の話を聞く……


 「はやくっ、どうか一刻もはやくお嬢様たちをお助けくださいっ」

 「わかっている!それにはまず落ち着いて話してくれ」

 「わ、わかりました……」


 どうやら馬車を倒し、道を変更させるなどして誘拐しやすい場所まで誘導し、護衛とうまく引き離されたようだ。その後も侍女は泣き崩れ一刻も早くお嬢様達を見つけてほしいと懇願していた……


 護衛が引き離されたことに気付き、追いかけて到着した時にはイレーナとエバンの婚約者や人攫いの姿はなかったといい、すぐにエバンに連絡をしたようだ。


 自分よりも苛立ち、不安そうなエバンを見るといくらか冷静になれた。


 「きっと、大丈夫だ……」

 「あ、ああ……リーリアは無事なはずだつ。イレーナがついてるから……だ、大丈夫だ」

 「ああっ」


 御者や侍女とも怪我はしていたが命に別状はなかった。彼女たちが連れていかれた大体の方向は掴めたもののそれ以外は空振りだった。


 「くそっ、早くしなければ日がくれちまうぞっ」

 「隊長!こちらには何もありません」

 「そんなはずはない!目を凝らして探すんだ」

 「「「「「はいっ!」」」」」


 次第に日が暮れていき焦る気持ちを抑え……もう1度現場に戻り些細なことを見逃さないようランプを高く掲げると……何かが反射し光った。


 「あれは……なんだ?」

 「あっ、これ! リーリアに俺があげた髪飾りの……それにこのドレスの色……」

 「……これはイレーナのブローチか?」


 たしかにそのシリーズのブローチをよく付けていたと思う……地面をよくよく見るとそれらは点々と続いているようだ。


 「エバンっ……」

 「ああ!これはふたりからのメッセージだ!隊長!」

 「なんだ!……これは……よし、すぐに行動を開始するぞ!」

 「「「「「はい!」」」」」


 すぐに騎士達とともに点々と続く道しるべを見逃さないよう慎重にたどっていく。もちろん1番前は自分とエバンだ。


 ほとんど手がかりをつかめず難航していた捜査だが、道しるべをしばらくたどって行くと……アジトへたどり着くことが出来たようだ……

 


 「おい……ここって」

 「……ああ、どうやら貴族が絡んでいるようだな」

 「それで巡回を避けることができたのか……」

 「しかし、邸宅に連れてくるとは……無謀なのか自信があるのか……」


 たどり着いたその場所は王都の中心部に建つとある貴族の邸宅だった。前当主は清廉潔白で有名で私を捨て公に尽くす方だと聞いた。

 病気で亡くなるまで贅沢はせず質素堅実を実践し、私財を投げ打って孤児院の設備を建て直したり寄付にも熱心だったとか……

 その反動なのか、現当主はお金に執着し強欲ばりだとか、前当主とは正反対だとか噂には聞いていたが……まさかここまでとは。


 「エバン……確かに敷地内に道しるべは続いているようだな」

 「ああ、早くリーリアを助けなくてはっ」


 今にも飛び出していきそうなエバンを隊長が抑え指示を出す。


 「いいか、さらわれた人の無事が最優先だ。他はなるべく生かしておけよ!なるべく静かに素早く済ませろ!」

 「「「「「はいっ!」」」」」


 準備を整え屋敷に踏み込むと、まさに取引の真っ最中だったのか現当主と人攫いグループのまとめ役らしき男、そしてその買い手までもが机を囲んでいた。

 よほど捕まらない自信があると見える……今でさえ誤魔化そうとしそれが無駄だと悟ると金で買収しようしている。


 「残念ながら、金には困っていないんでね」

 「な、なんだとっ」

 「それにあんたは犯罪者だ。すぐに地位も名誉も金すら無くなるだろうな?」


 隊長が挑発すると現当主は殴りかかった。


 「おっと、騎士に対する暴行は犯罪だぞ?ますます罪が重くなるなぁ?」

 「……ひっ」

 「隊長、早くっ」

 「わかってる、エバン」

 「さぁて、どうしてくれようか……」


 隊長は凶悪な笑みを浮かべた後、捕縛された現当主や使用人達を締め上げたところ……やつらはあっけないほど簡単に口を割り、屋敷の地下に行方不明者が隠されているとわかり急いで向かう。やはり、美人や美少女ばかりを攫っていたようだ。


 「リーリア!待ってろよ!今行くからな」

 「エバン!待てって……」


 エバンとともに立ち向かってくる輩をなぎ倒しながら地下へ続く扉を開け中に飛び込むと……


 今、まさに自身の婚約者が頭らしき人物を絞め落とす姿が……


 「……フィリップ様」

 「イレーナ……無事か?」

 「リーリア!リーリア怪我は?痛いところは?ああ、こんなにドレスが破れて……ああっ!こんなところにかすり傷がてきてるじゃないか!……あいつら、許さん……」

 「ええ、わたくしは無事ですから安心なさって……ドレスはイレーナの仕業ですわ。ご心配なく……それよりもあの子を」


 イレーナとリーリアの後ろには数人の女性が怯えつつ固まっていた。彼女たちも誘拐された被害者のようだ。騎士だと分かると安心して座り込んでいる。その中心には意識のない女の子が守られるようにして連れられていた。


 「隊長! あの子を頼みます! オレはリーリアを!医者にみせないとっ……傷が化膿してあとでも残ったら大変だ!」

 「エバン様?……血も出てないかすり傷ですのよ、医者など必要ありませんわ」

 「……おう。お前らさっさと片付けろ! 女性に見せるようなもんは残すなよ」

 「「「「「はいっ」」」」」

 「さあ、その子をこちらへ……他に怪我などなさった方は?」

 「ありがとうございます。みな無事ですわ」

 「隊長!片付けました!」

 「わかった。では皆様こちらへ」

 「「「……ええ」」」


 ものの数分でさっきまで転がっていた男たちが消えた……見えないところに移動させたようだ。かすかに呻き声は聞こえるが姿が見えないだけ幾分かマシだろう。

 イレーナたちは地下のさらに奥にある扉の先の牢に監禁されていたようで半分開いた扉から牢が確認でき……ん?おかしいな、牢が歪んで見えるんだが……


 「あ、あの……フィリップ様? 先ほどの見ましたか?」


 先ほどの?……あぁ、そういうことだったのか……自分は勘違いをしていたんだな。

 どうりですれ違うわけだ……祖父母は分かってて放置していたようだな。それも面白がって。

 今思えば色々と腑に落ちる……

 イレーナの持つカップが歪んで見え、もう1度見た時には何事もなかったり、握られた腕が痛かったり……緊張で力が入っているのかと思っていたが……違ったんだな。



 「イレーナ、すまない……見てしまった」

 「そ、そうですの……」


 イレーナの瞳が瞬く間に潤んでしまう……


 「俺は、特に気にしないぞ?……早く打ち明けてくれればよかったのに」

 「ですが、迷惑ばかりかけてしまいますもの……魔道具もすぐ壊してしまいますし」


 ああ、それで自分の贈った魔道具をつけてくれないのか……自惚れてもいいだろうか。大切だから、壊したくなくて魔道具をつけないのだと……


 「魔道具なんて俺がたくさん作るから問題ない……今はとにかくここを出よう」

 「はい……わたくしもお話したいことが沢山ございますの」

 「また後日、ゆっくり話そうか」

 「ええ、わかりました」


 地下に捕まっていた女性は全部で9人……いずれもここ数日のうちに攫われたようだ。

 貴族令嬢としては誘拐されるとほぼ傷物になったという認識(実際は無傷でも)をされ、噂があっという間に広がるので内密に処理することに決まり、騎士達にも厳重な口止めがなされた。

 これにはロベール侯爵家を筆頭にベルナー侯爵家、サルマンディ伯爵家、フォーベル公爵家など数多くの貴族の協力のもと、果てには王家までが乗り出し尽力した……有力貴族からの圧力があったとかなかったとか……


 今回、人身売買に関わった現当主は他にも罪が明らかになり爵位は剥奪、処分された。どうやら、前当主が病気で死亡したというのも怪しい点が浮かび上がってきたらしい。

 そして、後の捜査で人身売買の闇ルートが明らかになったおかげでかなりの人数が捕まり、多くの人が助け出されたらしい。

 売買の書類なども見つかっているため、誘拐された人々の捜索、追跡はこれからも続けるという。

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