第18話 イレーナ 17歳

 

 フィリップ様と婚約してはや4ヶ月が経過しました……

 本日日はレナルド様とアナベル様の邸宅にお邪魔しています。

 最近ではレナルド様とアナベル様の邸宅で会うのが習慣になっています……というのも王都からもロベール家の領地からもちょうど真ん中あたりにあるのでお忙しいフィリップ様にも都合が良いとのことです。


 「ここでなら私たちも会えて一石二鳥じゃない」

 「そうだぞ。わしらは楽しみにしておるんじゃからな」


 と言ってくださって、わたくしも領地に何とか日帰りできる距離なのでおふたりのお言葉に甘えさせていただいております。


 そして、前侯爵のライナス様と前侯爵夫人のアナベル様はわたくしの怪力をご存知なので多少の失敗も笑ってくださいます……これがどんなにありがたいか。出来る限り失敗しないようにしていても長時間一緒にいればやはり何かとしでかしてしまいますから……


 そして、おふたりはとても博識で社交界のことや立ち振る舞いについてなど色々なことを勉強させていただき感謝しかありません。


 以前、わたくしの持って行ったティーカップも気に入ってくださったようです。


 「このカップいいわね……」

 「うむ、わしらには作れんセンスじゃな」

 「そんなっ、おふたりのカップも素敵ですわ」

 「ふふ、そうかしら」

 「うむ、わしらからもイレーナちゃんにもプレゼントしよう。用意させるから持っておかえり」

 「ですが……」

 「前にも言ったでしょう?わたくし達のカップは割ってもいいのよ?」

 「そうじゃ!割ってくれたらたくさん作る言い訳になるぞ!」

 「まぁ!それはいいわ。息子たちにもプレゼントしすぎて受け取ってもらえなくなってきたもの」

 「そのような理由でよろしいのですか?」

 「ええ、いいのよ」

 「ありがとうございます」


 このカップらどんなに力を入れても壊れないから安心なんですの。多少、歪みはしますけれど……頂いても壊してしまうのが怖くて飾ってしまいそうですわ。


 そんなお話をしていると、フィリップ様がやって来たようです。


 「お祖父様、お祖母様、イレーナ……遅くなりました」

 「あら、もっと遅くてもよかったのよ?」

 「そうじゃな。わしらがイレーナちゃんと楽しく過ごせるからな」

 「もう、おふたりったら……」


 その会話のうちに使用人の方がフィリップ様のお茶の用意をすませていました。すごく優秀な方のようですね。

 わたくしの持ち込んだカップを初めてご覧になったフィリップ様は


 「なぁ、このカップ……」

 「いいでしょう?それイレーナちゃんのプレゼントなのよ」

 「ええ、これは『エタンセルマン』の試作品なんですの……」


 思わずそう言っていました……本当に商品化を考えなければいけませんね……ですが、これ需要あるのかしら……


 「そうか……なぁ、これも魔道具の一種じゃないか?」

 「そんなはずありませんわ……」

 「いや、しかし……このティーカップを作った職人に会わせてくれないか」

 「……それは」

 「あら、フィリップ。あなたも知っているでしょう。『エタンセルマン』のデザイナーは謎だって」


 アナベル様がフォローしてくださり、ライナス様がこちらをちらりと見た後


 「うむ、あそこのデザイナーは未だ謎のベールに包まれたままだからな……フィリップがロベール侯爵に尋ねてみては?」

 「機会があれば……そうしよう」

 「……いずれわたくしからお話しますわ」


 だから、もう少しだけ待っていてくださいませ……


 レナルド様とアナベル様は薄っすら勘付いておられるはずですが、見守ってくださるようです。ありがとうございます。


 「わかった。イレーナ、これを鑑定してみてくれないか?」

 「ええ、わかりましたわ」


 鑑定してみますが……そんな大したことは出ないと思います。


 ***


 名称:『エタンセルマン』のティーカップとソーサー

 品質:良


 特殊な金属製で壊れにくく、全体に精霊石が塗り込んであり、温度を最適に保つ機能がある。


 ***


 あら、きちんと『エタンセルマン』のティーカップとソーサーとなっていますね……


 「フィリップ様、どこにも魔道具とは書いてありませんけれど……」

 「鑑定ではなんと?」

 「はい、名称が『エタンセルマン』のティーカップとソーサー、品質は良。あとは特殊な金属製で壊れにくく、精霊石が塗り込んであるため温度を最適に保つ機能があると書かれています」

 「……そうか、そんな機能があるのか」

 「ええ、わたくしも驚きました……それでいつまで経っても冷めずに美味しくいただけたのですね」


 まさか、わたくしが作ったティーカップにこんな効果があるなんて……


 「それって、わしの作ったカップでもできるのかの?」

 「まぁ、わたくしのカップも?」

 「お祖父様、お祖母様落ち着いてください。いえ、まずカップの素材自体に精霊石との親和性が高くなければそんな効果は得られないと思います。それに作り手の魔力が青はなければ厳しいかと……」

 「そうか……残念じゃの」

 「ええ、まったくだわ」


 まぁ、フィリップ様の真剣なお顔もとっても素敵ですわ……あらっ、知らぬ間に持っていたカップが歪んでいますわ。慌てて形を整えます。

 レナルド様とアナベル様にはしっかり見られてしまいましたが、フィリップ様は考え込んでおられたようで見られずに済みました。



 「そういえば、イレーナちゃん来月お誕生日よね?」

 「ええ、来月で17になります」

 「おお、そうかの……」


 なぜかレナルド様がフィリップ様を肘で押しています……どうされたのでしょう?


 「……イレーナ、誕生日のプレゼントの希望はあるか?」

 「えーっと……そうですわっ! わたくしと一緒に寝てくれませんかっ?」

 「……は?」

 「あらあら」


 あ、間違えてしまいましたわ。手を繋いでお昼寝してくださるだけでいいのに。ちょっと無効化スキルについて確認させてほしかっただけですのに……


 「イレーナ、ちなみ子供がどうやって出来るか知っているか」

 「え、子供ですか? 精霊様が授けてくださるのではないのでしょうか?」


 なぜ、いまそんな話をなさるのでしょう?


 「あー……うん、そうか。まぁ後々わかるだろう」


 なんでライナス様とアナベル様はくすくす笑っていらっしゃるのでしょうか。

 フィリップ様も難しい表情をしていますし……


 「イレーナ、そういうことは他では言わないほうがいい」

 「ええ、もちろんです!フィリップ様にしか言いませんわ」


 ライナス様とアナベル様の笑い声が大きくなり、フィリップ様も黙り込んでしまいました……そんなに変なことを言ってしまったのでしょうか?


 仕方ありません、お昼寝は諦めることにします。




 ◇ ◇ ◇



 本日はわたくしの17歳の誕生日を祝うパーティです。


 わたくしの希望でこじんまりとしたパーティでしたがフィリップ様もいらしてくださり、『エタンセルマン』の魔道具をプレゼントしてくださいました。

 フィリップ様の瞳の色の空色の石が入ったブレスレットです。そういえば、お父様から直々に作るように言われたものと似ている気がします……あの時、わたくしもいつかフィリップ様の瞳の色アクセサリーを身につけたいと少し羨ましく思いながら作ったのでよく覚えています。


 最近、『エタンセルマン』の店舗でも扱うようになった魔道具の売れ行きは好調でフィリップ様も大変忙しくしているとお聞きしましたのに。

 わざわざわたくしのために作ってくださるなんて嬉しいです。


 「イレーナ、誕生日おめでとう。魔道具の効果は制御にしてある……」

「まぁ、嬉しいです。ありがとうこざいます」


 毎日、飾って眺めることにしましょう……だってフィリップ様からのプレゼントを壊したくはありませんもの……


 レナルド様とアナベル様からはお手紙とともにとても綺麗なショールをいただきました。

 お手紙には破いてもよいから気にせず使ってほしいとあり、わたくしが破らないように仕舞い込むことを見越していたようです。さすがですわ。


 エバン兄様とリーリアからは王都で人気のお菓子と紅茶をいただき、お父様とお母様からは新しいドレスをデボラたち使用人からは沢山の花が刺繍されたお仕着せをいただきました。とっても素敵です。

 残念ながらギルバート兄様は王都でお父様の代行をしておられますので参加できませんでしたが………大好きな人達に囲まれてとても嬉しい誕生日をでした。

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