第17話 職場
フィリップ様との婚約以来、週に1度はお手紙のやりとりを続けていますが、なかなか会うことはままなりません。
仕方ありません……フィリップ様は魔道具職人でただでさえ上級の方が少ないのですからお忙しいのも無理ありません。と、なかば諦めていたのですが……お父様が嬉しい提案をしてくださいました!
「イレーナも王都について来るか?」
「よろしいんですの?」
「ああ、構わんぞ。イレーナにも関係のあることだしな……」
というのも、昨年のうちに『エタンセルマン』はロベール侯爵家の事業だと正式に発表したのです。元々その噂はあったのですが……やはり、王都に出店するにははっきりさせた方がよいとなったみたいです。特に混乱せず皆様受け入れられたそうです。
すでに『エタンセルマン』の後追いをしているお店もあるそうですが、まずロベール家が開発した金属と同じものが手に入らないそうです。まぁ、当然といえば当然ですわ。だってあの金属は『エタンセルマン』でしか使用していないんですもの。
その方たちはさらに開発し、硬くなった金属しか手に入らないのでしょう。わたくしは可能ですがあの金属は加工が非常に困難だそうなので、全く同じとはいかないようですね……
そして、お父様が今回王都へ行かれるのは本格的に『エタンセルマン』のアクセサリーを魔道具にする計画が動き出したからなのです。
わたくしが作っていることはまだ秘密なので……お父様について、王城にあるというフィリップ様の職場へ向かうこととなりました。
しかも、帰りにはレナルド様とアナベル様のお宅へ行くことになっているのです!
こちらもお手紙をやりとりさせて頂いていますが、会うのは婚約前のあの時以来ですのでとても嬉しく楽しみでもあります。
その前に王都でフィリップ様のお父様とお母様への挨拶がありますので、そちらはすごく緊張いたします。
アナベル様からのお手紙ではどうやら、レナルド様へプレゼントしたブローチをフィリップ様のお父様が羨ましがっていたとお聞きしましたので、フィリップ様のお母様とお父様、お兄様とその奥様と息子さんの分までしっかり用意いたしました!
これぐらいしかできることがないのですけど……気に入っていただけるかしら。
丸2日かけ、馬車で移動し……王都の別邸で体を休めてからお父様とともにフィリップ様のご両親にご挨拶へ行きました。
「ベルナー侯爵、こちらは妻のルシアと娘のイレーナです」
「ごきげんよう」
「初めてお目にかかります。イレーナ・ロベールと申します」
「よく来てくれた」
「あなたがイレーナさんね。いらっしゃい」
フィリップ様のお父様とわたくしのお父様は何かお話があるようで女性4人でのお茶会となりました。
「前回のアクセサリーも素敵でしたが、今回も綺麗ですわ」
「ええ、お義母様。わたくしにもいただけるなんて」
「気に入っていただけたなら何よりですわ」
「ルシア様が身につけたものはあっという間に人気になって手に入らないんですのよ」
「まあ、そうなんですの?」
「ええ、わたくしの年代の方はエミリア様に憧れている方も多いですし……」
やはり、お母様とお姉様の影響力は大きいようですね。そして、お母様が一緒のおかげで話が途切れて気まずくなることもなくあっという間に時間が過ぎていきました。
「あら、お話は済んだのですか?」
「ああ。有意義な時間だった」
「そうですか」
「今日のところはこれでお暇いたしますわ」
「ええ、王都へ来た際はまた寄ってくださいな」
「ありがとうございます」
フィリップ様のお母様やお兄様の奥様はアクセサリーを大変喜んでくださりました。
わたくしとしては、粗相をすることなく過ごせてホッといたしました。
◇ ◇ ◇
翌日……
本日はフィリップ様の職場へお邪魔するということで、いつもより朝早く起き、デボラやお母様にドレスをチェックしてもらい、お父様ともに馬車で城へ向かいます。
豪華絢爛な王城は何度見ても見慣れません。入り口で要件を伝え、騎士の方の案内についていきます。
しばらく歩き、お城の端の方でしょうか……この棟全てが魔道具職人専用なんだそうで、進むごとに内部もどちらかといえば豪華ではなく実用的な造りになっていきます。
部屋へ入るとみなさん一心に作業に打ち込んでいます。全部で10人ぐらいでしょうか。
フィリップ様とその上司の方が出迎えてくださり仕切られた奥のスペースへ案内されました。
フィリップ様が入れてくださったお茶に感動しながら、お父様とフィリップ様とその上司の方が話し合うのをおとなしく聞いています。
この階にいるのは上級魔道具職人ばかりで、待遇も違うようです……魔道具職人の方は数も多いので他の階に分かれているそうです。
上級魔道具職人は貴族出身と庶民出身の方がだいたい6:4の割合らしいのですが、ここでは身分など関係ないようです。
というのも上級魔道具職人ともなれば国に数十人しかおらず、平民でも貴族と同じ扱いをされるほど……
職人として続けていれば下級貴族並みの生活は保証され、庶民出身でも爵位を下賜されることもあると勉強したからです。
「うわぁ、まじかよ……『鑑定の魔道具』壊れたんだけど」
「はっ、お前それ今日納品だろ? 見分けつくのか?」
「えー、無理っすよ……鑑定持ちも今日は来る日じゃないし」
「まずいぞ? どうする……」
声しか聞こえませんが、何かお困りの様子。
鑑定持ちは教会から派遣されていると勉強しました……どうしましょう?
わたくし手伝うべきでしょうか?
「お父様……よろしいですか」
「……うむ。イレーナの好きにしなさい……フィリップくんも構わんかね」
「ええ、構いません」
「ありがとうございます」
フィリップ様が少し気がかりでしたが、構わないとのお返事をいただいたので……席を立ち、頭を抱えている職人さんの元へ向かいます。
「あの、わたくしが鑑定いたしましょうか?」
「えっ!あなたは……」
「わたくし、イレーナ・ロベールと申します。その……フィリップ様の婚約者です」
「「「えっ、フィリップの?」」」
あら、みなさまそんなに驚くことでしょうか? やはり不釣り合いなのでしょうか……振り返るとフィリップ様がこちらを見ていたような気がします。
「いや、ありえねー」
「なぁ、なんだよこの差は」
「うらやまけしからんな、まったく」
「しかも、しれっと牽制して来やがって」
「だなー。心配ならこっちくればいいのにさ」
「いやー、そこは素直になれない男の心情ってやつを考えてやれよ」
よくわかりませんが、仲が良さそうです。
「あの……」
「あっ、すいません……イレーナ様は鑑定持ちなんですか」
「ええ」
「いやー、助かるっす!できればこの山をスキル別に仕分けしてほしいっす」
「わかりました」
集中して慎重に慎重に魔道具を仕分けしていきます……鑑定する時間よりも魔道具を分ける作業に時間がかかってしまいました。壊してしまったら一大事ですから。
お父様達も話し合いがヒートアップしているようなので、まだ時間がかかりそうです。
焦らずゆっくりさせていただきましょう。
「うわー、早くね」
「……おう。普段の鑑定持ちの倍ぐらい早いな」
「フィリップめ……」
ふう……ようやく最後のひとつまで鑑定が終わりましたわ。
「いやー、ほんとに助かったっす。ありがとうございました!」
「いえ、お役に立ててなによりですわ」
「あの、イレーナ様……こちらもお願いしてもよろしいでしょうか」
「あっ、ずるいぞ! イレーナ様、俺もあるんですけどっ」
あら、皆さまお困りのようですわ……ちらりとお父様を見ると渋々ながら頷いてくださったので
「ええ、わたくしでよければ……」
「「「おおっ、女神が見えるぞ」」」
なんとかひとつも壊すことなく鑑定でき、色々な魔道具に触れることができて有意義な時間を過ごすことができました。
お父様達の話し合いもうまく行ったようでなによりです……フィリップ様とあまり会話ができなかったことが心残りですが、お仕事中ですもの……仕方ありませんわ。
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