第4話 イレーナ 14歳

 かなり年齢が飛びます。その間の出来事などは番外編にて書く予定です。よろしくお願いします。


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 つついただけで木に穴を開けてしまったり、握っただけで扉の取っ手が歪んでしまったり……

 数えきれないほど服のボタンを千切ってしまいリボンが裂け、飾りが飛び散り……おふとんを破ってしまったり……寝台に穴が開いたり脚が折れたり、便箋に穴があいたと思ったら机にもあいていたり、ペンが折れたり、部屋に置いてあった盾を曲げてしまったり、お父様の本を破ってしまうこともありました。

 挙げ出せばきりがないほど毎日何か壊してしまいました。

 1番困るのは『制御の魔道具』が壊れてしまうことです。普段、あまり使わないようにしているとはいえ、魔道具が壊れれば今まで以上に他のものを壊してしまうのは確実ですから……


 毎日何かが壊れる……そんな日々がいつからか日常となり、今では何があっても家の者は誰ひとり驚きません。

 周囲に愛情深く見守ってもらい、すくすくと成長いたしました。


 

 ◇ ◇ ◇



 王立学院でも色々と大変でしたが、エバン兄様やリーリアの協力のおかげでなんとか卒業することができました。

 学院を卒業したわたくしはこの先の人生を1人でどうやって生きていくかを真剣に考えました。というのも怪力スキルがあってはそうそう嫁の貰い手はないだろうと思っているからです。


 第1候補は教会に入ることです。

 【鑑定】スキルがあるので受け入れてくれる教会はあるはずです。

 それを使って教会でお仕事がしたかったのですが……受け入れられたとしても、この怪力スキルを使いこなせないままではすぐに追い出されてしまうでしょう。よくない噂とともに……

 教会に入れないのなら、個人で【鑑定】スキルを使って生活することも視野に入れていますがそれには色々と準備が必要です。


 第2候補は商人になることです。

 これにはお父様やお母様に協力してもらわねばなりませんが……スキルを活かすことができれば商人としては鑑定もできて力も強いし、力加減を気をつけさえすれば荷物も壊さず運べて、力加減を気をつけさえすれば盗賊など返り討ちで殺さずに済むし護衛も要らず……天職かもしれません。

 全てに気をつけさえすればと付くのは仕方ありません……気をつけなければ商品を壊しかねませんし、気をつけなければ命を奪ってしまえる力があるのです。細心の注意を払い気絶させなければなりません。

 さっそく両親に相談してみたのですが……それは最終手段にしなさいと何度も言い含められてしまいました。いい案だと思ったのに。

 ですがその言葉を重く受け止めた両親が、信用できる【頑強】【超回復】スキル持ちの家庭教師の方を雇ってくださり、どうすれば殺さずに済むかという力加減の勉強をさせていただきました。

 帰り際「生きているのが不思議な気分です。今なら何にでも挑戦できる気がします!」とおっしゃっていたのですがどういう意味でしょうか……何か決意を新たに帰られていきました。

 本来そういう勉強は貴族令嬢のすることではないはずですが……相手を出来るだけ傷つけずに無効化することは覚えておいて損はないと思われます。

 その後、少しだけ【怪力】スキルの使い方をマスターできたような気がします!



  将来を考えていた時、ふと思い出したのです。

  学院で魔道具の概要を勉強した時に、ロベール家の領地からも精霊石が取れるということを。あの時はわたくしの魔道具にも使われているかもしれないと感動したものです。

 精霊石を加工する上でわたくしにも出来そうなことを思い出し、それならばわたくしも役に立てるはずだと。まずは出来ることからやってみようと思い、お父様にある事をお願いいたしました。


 「デボラ、今日もやりますわよ」

 「はい、お嬢様」


 学院を卒業してからはや1年。

 ほぼ日課になりつつある離れの小屋へと向かいます。

 服装は汚れてもいいようお仕着せ姿です。

 お父様はわたくしがお仕着せを身にまとうことにだいぶ渋っておられたけど、この小屋にフリフリドレスで出入りすれば目立つ上作業効率が悪いし、すぐにドレスがダメになってしまうと訴えたことによりなんとか許可を得ることができました。


 わたくしのわがままでお父さまにお願いした庭の片隅に建てられたわたくし専用のこの小屋は色々と頑丈に作られています。

 この小屋の一室で行うのは、魔道具に使用されるという精霊石を砕く作業です。これがわたくしに出来ることです。

 魔道具はわたくしに体の1部といっても過言でないほど、お世話になっています。

 通常、精霊石を砕くのには水車の力を利用して粉にしますが私には必要ありません。


 工程としては、精霊石を握り怪力で大まかに砕き、あとは指ですり潰していきます。簡単な作業ですね。

 小屋には粉が舞うので鼻と口、頭を覆う布は必需品です。

 髪の毛に入り込むと後々が大変なんですの……



「デボラ、外で待っててもいいんですのよ」

「いえ、お嬢様が頑張っていらっしゃるのですから、わたくしも少しでも力になりとうございます」

 「そう」


 デボラは細かい作業や繊細な作業、砕いた粉を瓶に詰める作業などを手伝ってくれます。    

 デボラは私が生まれたときから世話をしてくれて助けてもらってばかりです。

 早くに旦那さんを亡くしたデボラ。

 息子のディックはすでに成人しており、将来的にギルバート兄様の補佐を務めるため日々勉強中だそうです。優しいお兄さんといった感じでしょうか。

 デボラはギルバート兄様の乳母も務めていたため、乳兄弟のふたりはとても息が合っています。

 実は使用人のなかでもデボラはかなりの権力を持っていて、両親や兄姉もデボラの言葉は一考します。故に何度も協力してもらっています。本当にありがたい存在です。

 色々やらかすわたくしに対応できるだけの度量も持ち合わせている優秀な侍女なのです。


 「ふう……今日はこれくらいにしましょう」

 「はい、お嬢さま」


 毎日、瓶が3個ほど出来上がったら終わりにしています。この瓶はロベール家の領地の特産として代々魔道具職人に売られていたとか。今は7割ほどを国が買いとりそこからお抱えの魔道具職人に。残りの3割はその他の魔道具職人の元へ。

 それらのツテで私の魔道具もたくさん手に入れることができているようです。


 わたしくしは刺繍も編み物も満足にできませんし、手紙を書くこともひと苦労です。ですが、シモーヌ叔母様へお手紙を出すという練習のおかげで学院での授業で大いに役立ちました。

 こうして自分に出来ることがあり、それがお父様の役に立っていると実感できればのめり込んでしまうのも無理はないと思います。



 その後は昼食を食べ、少し休憩してからリーリアへ手紙の返信を時間をかけて書きあげた後(時間さえかければ便箋を破ったりペンを折ることがなくなりました!)、小屋にあるもうひとつの部屋へーー


 部屋にはインゴットがいくつか置いてあります。このインゴットはわたくしがスプーンやフォーク、扉の取手などを曲げずに済むようお父様が開発しているものです。

 わたくしは開発された色々な金属をこの部屋で試しお父様に報告するのです。

 開発された金属は鉱山で取れたなんとかとなんとかとかいう金属を合わせたもので……すいません、説明を聞いてもよくわかりませんでした。とにかく、今までの金属よりも硬く頑丈なんだそうです。



「重さは……軽いですね。指先でつまんで持てるくらいですわ。え?デボラこれ重いんですの?」

「お嬢様とてもつまんで持てるようなものでは……」

「あら、そうですの」


 デボラのようにインゴットをガシッと掴むと……あら不思議、握った跡がついてインゴットがへこんでしまいましたわ……まあ、仕方ありません。これを何かに利用してみましょう。

 うーん……うまく行きませんわ。そのインゴットを粘土のようにこねてみたのですけど……あ、もちろん手の上でですわ、テーブルでこねたらテーブルが壊れてしまいますもの。

 お父様にこの金属なら力を入れなければ使えそうだと報告しませんと。


 そのまま続けることしばらく……次第に力加減を覚え細かい作業など上手く扱えるようになってきました。

 どうしましょう……金属といえばナイフやフォークですけど、それでは芸がありませんし……あっ、そうですわ!デボラに日頃の苦労をねぎらってこれでブローチをプレゼントいたしましょう!

  ええ、見られているのでデボラ用だとバレないよう気をつけなければ……なんといってもプレゼントといえばサプライズですもの!


 庭に咲いていたチューリップやガーベラなどを頭に思い浮かべ参考にしたブローチを作っていきます。

 花のお世話はしたことありません、というかさせてもらえませんけど眺めるのは好きなので実物がなくても思い描けます。

 わたくしに【器用】や【細工】といったスキルがあればもう少し綺麗に出来上がりますのに……と無い物ねだりをしつつ、インゴットを細く長くしていきます。

 最初は両手で、だんだんと細くなってきたら指先で転がしつつ型を整えていきます。

 当初は形にもなりませんでしたが、だんだんと思うように作れてきたのでもう少し……針の形に尖らせる部分がようやくでき、不格好ながら形になったガーベラのブローチ。


 「デボラ、不格好ですけどこれ。いつもそばで助けてくれてありがとう」

 「そんな……お嬢様。私なんかがいただいてもよろしいのですか?」

 「ええ、デボラのために作ったのだけど……それともこんなの要らないかしら……」

 「いいえっ、大変嬉しゅうございます」


 デボラは泣いて喜んでくれました。もっと練習していいものをあげたいです。

 お父様にもう少しインゴットを分けてもらえるよう相談してみましょう……

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