第2話 スキル判明 〜side ウィルソン・ロベール〜
愛娘イレーナが生まれてからというもの日々、アンドレを通じ何かが壊れたという報告を執務室で受け、その度に怪我人が出ていないことに安堵し、魔道具の減りの早さに頭を悩ませる。それが日常に加わった。
ただ、イレーナの顔を見るとそんな苦労は吹き飛んでしまうんだがな。
「やはり、シモーヌに頼むか……」
ひと月後には愛娘イレーナの1歳の誕生日だ。誕生日を祝うと言う名のイレーナのお披露目パーティーの招待状の手配をアドルフに指示した。
「アドルフ、抜かりなく頼むぞ」
「かしこまりました」
アドルフが部屋から出ていくのを横目に考えるのは……シモーヌの旦那のことだ。
「……問題はシモーヌの旦那が過保護なことだが……なにかやらかさなければいいんだが……」
はあ……こればかりは考えても仕方ないか……あいつに関しては成り行きに任せるしかないだろう……
大きなため息をひとつつき、また書類仕事へと戻るのであった……
◇ ◇ ◇
今日は愛娘のイレーナの1歳の誕生日だ。
散々、妻のルシアに言われていたので今日は何も仕事をしなくていいよう全て昨日のうちに終わらせておいた。
イレーナの誕生日を祝うといっても、侯爵家ともなると下手なパーティを開くわけにはいかない。
お披露目も兼ねたパーティーはルシアや使用人たちがかなり力を入れているので問題は起こらないと思いたいが……目下の不安は衆目の前でイレーナが騒ぎや噂になるようなことをしないか、だな。
他の子供たちに関してはエバンが若干不安要素だが、エミリアとギルバートが上手く立ち回ってくれるだろう。
「イレーナには誕生日のプレゼントとして、今までよりも効果の高い魔道具を渡したが、あれがいつまで持つことやら……」
「旦那様、ご安心ください。何が起きても対応できるよう使用人の準備は万全です」
「ねぇ、あなた。今は心配するよりもイレーナの誕生日を祝ってあげましょう」
「ああ、そうだな」
もし、何か起きても私がすべて解決すればいい。
思考を切り替え、妻を伴い貴族たちの探りあいの場へ赴くのであった。
心配したようなことは何も起こらずパーティは無事終了した。イレーナも終始ご機嫌で、その可愛さに陥落された者も多かった。まぁ、当然の結果だがな。
ただひとつ……問題が起きたといえば身の程知らずのどこかの貴族が妻のルシアを口説こうとしたことぐらいだ。
まぁ、ルシアが美しいのは事実だが、やはり気にくわない。あの男爵はしばらく苦労するだろうが私の知ったことではない。
ただひとつ確実なのは男爵が当主のうちはもう2度とうちの主催のパーティーに招待されることはないだろう。これでも甘いくらいだが、あまりやりすぎるとルシアが気にするからな。これくらいにしておこう。
◇ ◇ ◇
パーティが終わり出席者が帰った後も侯爵家へ残ったのは数えるほど。応接室へ案内されたのは私の妹のシモーヌと旦那で私の幼なじみでもあるケンダル・ミラー男爵とその息子のアランだ。
あとは信用の厚い使用人が数人と私とルシアそれぞれの両親だ。
彼らは既に隠居の身で孫たちにメロメロなので何かあれば問題なく手を貸してくれるだろう。子供たちも含めると応接室がかなり手狭な印象を受けるが仕方ない。
その他の使用人は今頃パーティの後片付けに奔走しているはずだ。
「さて、早速で悪いが……シモーヌ頼めるか」
「ええ、兄さん。イレーナちゃんをこちらへお願い」
イレーナの世話係を務めるデボラがシモーヌの前へ連れてくる。
「シモーヌ様、イレーナお嬢様に触れるときはお気をつけください。突然触れると手を掴まれてしまいますので……くれぐれもご注意ください」
「ええ、わかったわ。ゆっくり、そーっと触れればいいのね?」
「はい」
愛娘に対する説明ではないが、それが事実だから仕方あるまい。
イレーナは急に目の前に現れたものを掴むということが今までの生活でわかっている。それを防ぐためにはゆっくり慎重に近づき触れるとなぜか上手くいくのだ。
説明を怠ったせいでシモーヌが怪我でもすれば一生グチグチ言われ続ける。旦那のケンダルは爵位とかそういうところまるっと無視するからな。
シモーヌは元々体が弱く、本人は嫁の貰い手がないかもしれないと心配して教会に身を寄せようと考えていたようだが、周囲は全く心配していなかった。ケンダルは外堀を着実に埋めていたからな……爵位など関係ないとばかりに。まぁ、私の両親もケンダルを気に入っていたからこそ上手くいったという経緯もあるが……気づいていないのはシモーヌだけで気付いた時には婚約が整っていたのも懐かしい。
シモーヌがゆっくりと慎重にイレーナに触れ、スキルを鑑定しているのをジッと見守る。ケンダルの圧力が凄いのはいつものことだからスルーする。シモーヌに関することは敏感だからな……
子供たちですら大人しく見守っている。いや、ケンダルの圧力を前に固まっているだけか? アランですら固まっているから判断に迷うところだな。
イレーナはシモーヌに触れられてもにぱぁっと笑った以外じっとしていた……その笑顔にここにいた大半のハートが撃ち抜かれたのは言うまでもない。というか、ケンダル以外は撃ち抜かれたと言って問題ない……ケンダルすら少し動揺したからな。さすが私の愛娘だ。
【鑑定】というのはシモーヌの持つスキルで、対象に触れることで物や人のスキルや情報を調べることができるというものだ。
シモーヌに頼むことで外部にスキルの内容や秘密が漏れる心配はない。貴族としては身内にいるとありがたい存在だな。
さて……本来、スキルは5歳で教会にて確認するのが通例だ。
教会では無料で鑑定してもらえるが、鑑定のスキル持ちに依頼する場合はお礼に金を要求され、スキル内容が漏れる可能性もあるので身内に鑑定スキル持ちがいない限り、ほとんどは教会で鑑定を受ける。
教会としても鑑定スキル持ちの子どもが入れば早々に引き込みたいという思惑があるだろう。教会で鑑定を受ければ表向きはスキルは漏れないとなっているが100%ではないはずだ……寄付という名の情報料を積めば漏れ伝わることもある。珍しくスキルならば尚更のこと。
本来、5歳まではスキルが安定して表示されないというのもひとつだが、だいたい5歳までにスキルが発現するというようで、人によって発現の時期が異なることや、5歳未満では正確性に欠けるという理由もあり5歳が通例なのだ。
ただ、イレーナの場合は明らかにスキルが関係していると思われるため、まずはスキルを確認するという事が最優先だ。
今後の対策のためには調べないという選択肢はない。家族に鑑定スキル持ちがいるからできることでもあるがな……
「ふぅ、わかったわ」
「そうか……結果は?」
「ええ……イレーナちゃんのスキルは4つあります」
「「「おおっ」」」「「「まあっ」」」
人のスキルは最低でも1つはあるとされており、過去に多い人では5つもあったらしい。これは滅多にいないことで、最近は多くても3つか4つだ。
我が家でも私とギルバートは3つ、ルシア、エミリア、エバンは2つである。
「スキルは何でしたか?」
「はい、お義姉様……イレーナちゃんのスキルは……【健康、幸運、鑑定】、そして……【怪力】です」
「……怪、力……ですの」
ルシアはショックを受けソファに倒れこんだ。
「アドルフ、ルシアを部屋へ」
「いいえ、平気ですわ。愛する娘のことですもの、わたくしがいなくては……」
「わかった。しかし、よりによって怪力か……」
いや、予想通りというべきだろうか……
今までのことを考えれば納得の結果だが、愛娘イレーナは侯爵家の令嬢。
息子であったならそれを活かす道も見出せたかもしれぬが、娘となると将来困りかねない。
【怪力】スキル自体はさして珍しくないスキルだが、ほとんどの場合は人の倍の力を持つ程度なはず。
赤ん坊の時点でここまで力が強いなどと聞いたことがない。
ちなみに
【健康】スキル持ちはかなり多く、5人に1人はいる。
なくても困らないが、あれば風邪をひきにくくなるとか、突き指や捻挫、擦り傷など軽傷がすぐに治るなど回復力の強いイメージだ。
【幸運】は少し珍しくあったら嬉しい。
効果はそのままでいいことが起きたり、的中率が高くなるなど。
きっと最初の1回(私)以外、人に怪我をさせるようなことが起きなかったのは幸運のおかげかもしれないな。
【鑑定】は珍しい部類に入る。それがあれば生活に困らないほどには。まず、教会へ行けば生きていけるからな。親族から2人も鑑定持ちが出るなど滅多にないため内心驚いている。
ここからロベール侯爵家の怪力を使いこなす為の工夫と挫折の日々が始まった。
といっても、まだ1歳のイレーナにできることはほぼない。
「まずは家の改築もとい構造強化から開始するか……」
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