第4話 まんじゅうこわい。うなぎもこわい


 正三にまんじゅうをまんまと食べられてしまった、熊吉、八五郎、三助。なんとか正三をこんどこそとっちめてやろうと相談しているところにやって来たのは長屋のご隠居さん。


「これこれ若いもんが昼間っから集まってどうしたんだい」


「いえね、ご隠居さん、これこれこういう訳で、正三の奴をとっちめてやりてえんでさ」


「なあるほど、騙されるほうが悪いとはいえ、お前さんたちの気持ちもわかる。どれどれ、こういうのはどうだい。かくかくしかじか。これで、一度正三をとっちめたらまんじゅうのことは水に流してみんなでなかよくやんなよ」



 ご隠居さんからなにやら策を授けられた熊吉、八五郎、三助の3人。ほくほく顔で正三を呼び出します。



「正三、お前の本当に怖いもんは丸いもんじゃなくて長いもんじゃないか」


「よくわかったな。実はおれが一番こえーのは、あのぬるぬるのうなぎなんだ。あれにたれつけて食べる奴の気がしれねー」


「そうか、そうか、俺たちもそうだと思ってたぜ、せいぜいうなぎにたたられないように用心しときなよ」


 3人と別れた正三。今度はうなぎが食べられるのかと思い、笑いをこらえて長屋に帰ります。



 一方の熊吉、八五郎、三助の三人。近所のうなぎ屋によって3人分のうなぎのかば焼きを正三の長屋に届けるように頼んだあと、正三の長屋の中の様子を確かめにいきます。



「おー怖い、おー怖い。うなぎが来たらどーしよ」


「正三さーん、うなぎ屋でーす。うなぎかば焼き3人前、お待ち―」


 うなぎ屋の出前が、うなぎのかば焼きを正三に届けに来ました。


「なんだ、うなぎのかば焼きじゃねーか。誰がこんなおっそろしいものを。おー怖い」ニヤニヤしながら正三がかば焼きの入った入れ物の蓋を取ります。


「たれの甘い匂いとうなぎの脂の香ばしい匂いで、くっく苦しー。厚切りのかば焼きにかかった山椒の風味がたまらん。このままじゃ俺はうなぎにとり殺されてしまう。こいつらに取り殺される前に怖いけど俺がこいつらをみんな食ってやる」



ひえー、こえーよー。覚悟しろ、俺が食ってやる! うっうめこえーよー。長屋の中から悲鳴なのかなんなのか、何だかよくわからない声がします。



「まーた正三のやつ一人芝居してるよ」


 正三がうなぎを3人前食べ終わったのを見計らい、3人が長屋の戸をあけて、


「正三、おめーは吸い物が本当は怖いんだろ、知ってるよ、ほらよ、吸い物だ。怖いだろー」


「ひえー。吸い物も怖いー」


「そうだろう。そうだろう。そう言うと思ったぜ。3人前のうなぎの勘定ちゃんと払っとけよ。ほらよ」


 そういって、うなぎの代金を書いた書付を渡された正三。


「うなぎがやっぱり1番こわい」


 おあとが宜しいようで

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る