終章

ある けつまつ のはなし

 ——真璃はあの日、中庭で目を閉じた後、再び目を開ける事は無かった。

 その後何日か意識を失ったままでいたが、そのまま眠るように息を引き取ったのだ。

 私はあの日の事を、そして真璃と過ごしたあの一年を、一生忘れる事は無い。


 そんな日々も、もう十年以上も前の事になる。

 今や私は大学で知り合った男性と結婚し、幼稚園生の子どもまで出来ていた。

 現在は神社の裏にある実家に、お父さんも合わせて四人で暮らしている。

 

 最初は真璃以外の人となんて、とも思ったが、このまま神社の血を途絶えさせるのも、少し後ろめたさがあって。

 そんな思いから始めた交際だったけど。

 でも、夫も娘も、ちゃんと愛せている。……と思う。

 

 自分で情けない話だとは思うが、たまに自信が無くなるのだ。

 だって、私の心にいるのは、いつだって真璃だから。

 本当に今の家族を心から愛せていると言っていいのか、分からなくなる時がある。


 こうやって不安になると、私はいつも真璃の写真を見る。

 春に萌姉に撮ってもらった、桜の木の下の私と真璃のツーショット。

 

 私は午後の日差しで明るいリビングのソファに座り、写真の中の真璃の顔を見た。

 ……ああ。本当に。私は、真璃の事が大好きだった。


 すると、リビングのテーブルでお絵かきをしていた娘が、こちらに顔を向けてきた。

 私の持つ写真に興味を持ったのか、近寄ってくる。


 そして私の膝の上に乗ってくると、不思議そうに口を開いた。


「ねぇ、ママ。この写真の人、だれ?」


 私は、娘の頭を撫でながら答える。

 慈しむように、心を込めて。



「この人はね、————ママの大切な人だよ」

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