第2話 誤解されてしまった!
家への道を空と二人で進みながら、俺は空の顔を何度も何度も、
気づかれないように見ていた。
それほどに可愛らしく、それに対応するかの如く、
男子制服を着ていることに違和感を感じた。
(どうしてこの娘は女子の制服を着ないんだろう。
というかもし着ていたら完全に優そのものか・・・。本当にかわいい)
そんな邪なことを考えながら、歩いていると突然、
空の表情に焦りなようなものが浮かぶ。
最初は見間違えかなとも思ったものの、見るたび見るたびに切羽詰まった表情に
変わっていき、まだ暑くない時期なのにおでこ周辺から汗が滴り落ちている。
さらには歩幅もなぜか、狭まっていて、さっきから全然進んでいない。
「どうした?体調でも悪いのか??」
さすがに心配になった俺は空の顔を見ながら問いかける。
「・・・。」
空は少しの間ためらいのようなものを見せたものの、観念して口を少しずつ開いた
「ト、トイレに行きたいの。学校を出る前に行くはずだったのに忘れてて・・・。も、漏れちゃいそう」
今にも泣きそうな表情で言葉にされた内容はまさかのトイレだったが、
このままでは本当に漏らしそうな空を見て、ある行動をすることにした。
俺は勢い良く、しゃがみ込むと背中を軽くたたきながら言った。
「乗れ!!俺の家までもうすぐだからお前を背負って走るから。急げ!!」」
その申し出に空は驚き、大丈夫と言いかけようとするのだったが、
やはりもう我慢も限界だったようで、少し恥ずかしそうにしながらも
おとなしく乗ってくれた。
「頑張ってしがみついといてくれよ。飛ばすから」
言葉の通り、俺は今までの記録を破るかのような速度で走った。
この時ほど漠然と陸上をして鍛えていた足によさを感じたことはなかった
いつもなら靴を脱いでから玄関を上がるところだが、
それでは間に合わないと判断した俺は、土足のまま家に入る。
そして、トイレの扉を開けて空を背中から下ろす。
よほど、切羽詰まっていたのかそのまま空はトイレに入ると、
ドアをバタンと勢いよく閉めた。
俺が玄関についた汚れを拭いていると、トイレの中から水を流す声が聞こえてくる。空はトイレから出てきたのだが、その顔はなぜかどんよりしている。
「あ、あのすごく恥ずかしいんだけどちょっとだけ漏れちゃってて、
ど、どうしよう。今日は体育がなかったから体操着とか持ってないのに、
やばい。うっうっ」
今にも泣きそうな表情と声だった。
しかし、不謹慎なことに可愛さを覚えてしまう自分もいて・・・。。
ただこのまま放っておくのはかわいそうだなと思い、一つ提案をする。
「それなら俺の昔の服でも貸そうか?サイズ的に大丈夫だと思うし」
俺が空に手渡したのは、2年前まで着ていたジャージだった。
空はかわいらしい笑顔を浮かべ、着替えるためにまたトイレに入っていった。
(やっぱり空は女子に違いないな。これは。
だって男子ならそんな隠れて着替えなんてしないだろうからな。
ただ、それならどうしてだ?どうして空は男子制服を!?)
空が女子だという確信を掴んでいると、彼女はトイレから出てきた。
ちょうどぴったりだったのだろう。
漫画などでよく見るぶかぶかな男の服を着て、
少し恥じらっている少女という図は見れなかったものの、その姿に満足してしまう。
それほどに俺が昔着ていた服を着た空は似合っていた。
「かわいい」
思わず、そんな言葉までもが出てしまうほどだった。
その言葉を聞いた彼女は顔から火が出るのではないかと言うほどに
頬を紅潮させ、ゆでだこのように顔を赤くしていた。
「か、かわいいなんて///恥ずかしいからやめてよ~。
と、というか僕、男だよ?男にかわいいなんて、そんなのあんまりだよ~」
狼狽えながらも男性だと主張してくる空。
しかしその仕草や表情などはもう完全に女子のもので、
女子だという確信が深まるばかりだ。
空のことを女子だという風に認識してしまったからだろうか。
さっきまでの行動や今置かれている状況に対して、
何とも言えない後ろめたさを感じ始める。
(俺、よくよく考えたら、すごいことばかりしてないか。
だってさっきまでは何も感じなかったけど、女の子を負ぶって家に連れ込み、
自分の衣服を貸すとか、普通はあり得ない。
と言うかものすごくラッキーだけど・・・これ、常識的に大丈夫なのか。
見ず知らずの女の子を家に連れ込んで、
こんなところを親や妹なんかに見られた日には・・・)
ガシャ
その音に思わず、身体が硬直してしまう。
(うん?まだ未亜も母さんも帰ってこないはずだけど、
なんか今鍵が開いたような・・・)
いつもであれば、この時間に家族はいない。
妹の未亜は友達と夕方近くまで遊んでいることがほとんどだし、
母親はまだ仕事中のはず。
そういった状況が今日も訪れるという確信しかなかったため、
空を家に招いたのだが・・・。
。
ドアが開けられた瞬間に裏切られた
まだ帰ってこないはずの母さんと未亜が家に入ってきたのだ。
「え、えっ、なんで二人とも帰ってきたの!?」
あまりの驚きに思わず裏声になりながら、そんな非常識な質問をしてしまう。
「なんでって、ここ私の家じゃない!!今日はいつもよりも早く上がれる日だったから、家でゆっくりしようと思ってたのに、ひどいわね!!」
「そうだよ!!私も今日は早樹と亜里砂が補修で、私だけ暇だったから早く帰ってきたって言うのにさ。お兄ちゃん、その言い草、ひどくない!?」
母さんも未亜も怒りを露わにする。
それは至極まっとうな当然の意見だ。
しかし、二人からの猛烈な批判を受けながらも、焦りが前面に出てしまう。
(やばい。やばい!!このままでは家族がいないことを理由に
女の子を連れ込んだという最悪なレッテルを貼られてしまう。)
(と、どうにかしてこの状況を回避せねば)
そう思ったときにはすでに遅かった。
「どうしたの?そんな、大声で慌てて・・・」
背後で隠れるようにお願いしていた空はひょっこりと顔を出して、
こちらに問いかけてきたのだ。
目を丸くする母親と妹。
困惑しているような驚いているような。
しかし、その視線はすぐに軽蔑のまなざしへと変わる。
(こ、こえぇ)
母さんと未亜は空の存在を認識し、俺のことを一瞬だけ睨みつけるが、
すぐに余所行きの表情に二人揃ってなる。
「あらあら。かわいらしいお嬢さんね。武瑠。
えーと、名前はなんていうのかしら?」
母さんはこれでもかというほどに満面の笑みで空に尋ねかけた。
「え、え~と、木内空って言います。いきなり押しかけてしまってすいません。
あ、あとトイレの方も勝手に使わせていただいてしまって・・・
でもちょっと、濡れてしまって」
空はいきなりそんなことを尋ねられたためか、少し緊張気味に名前を名乗ると、
礼儀正しく頭を下げる。
そこまでは良かった。
しかし・・・。
後になって気付いたが後半は完全にまずかった。
誤解を招いてしまう事は不回避で。
案の定、母さんと未亜は変な方向の勘違いをしてしまった。
視線が定まっていない。いつのまにか表情筋も死んでいる。
「あ、あなたたち、そ、そういう関係なの!?
ってよく見たら、その服武瑠あんたの昔の服じゃ・・・。
そ、そうよね!!武瑠ももう大人なんだもんね///」
(は?)
母さんはいつもよりも早口ですっとんきょんな質問をしてくる。
俺には母さんの言葉の意図が全く分からない。
しかし母さんは何やら一人で理解し、一人で納得したのだろう。
唖然として母さんの質問の意味をどうにか解釈しようとする俺を他所に、
母さんは買ってきたであろう食材や生活品を玄関に置くと、未亜の手を取った。
「それじゃあね~。」
母と妹は脱兎の如く、その場から姿を消した。
まるで俺と空に気を遣うかのように。
俺と空は顔を見合わせる。
(いったい、母さんはどこへ行ったのだろうか。
未亜を連れて。それもあんなにも慌てて・・・)
何か大きな勘違いをしていたような気もしなくはない
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます