(テレパシーだ!)

 と、ミレーが他の二人にテレパシーで呼びかけた。

(いいか、敵のテレパシーが俺たちにこんなにも苦痛を与えるんだ。俺たちのテレパシーも敵にとって苦痛になるかも知れない。だから俺たち三人のテレパシーを集中させて敵に送れば、これは武器になるかもしれないぞ)

(そうだ。そのとおりだ)

(よし、やってみよう)

 敵の銃口が、近づいて来る。もうひとりの異星人が、右手をあげる。それがふりおろされたら、引き金がひかれるだろう。

(向って右から瞬間ずつ!)

 ミレーが相図の右足を踏み鳴らした。

 三人のテレパシーは、束となって銃を持つ右端の敵へ飛んで行った。

 銃を放り出した敵は、頭をかかえて仰向けに倒れ、動かなくなった。

 何ごとかと察するひまもなく、他の敵も次々に倒れていく。

「さあ、飛び降りるんだ」

「えッ。下へ? 足を折ってしまうよ」

 さわぐラシャルタに、ミレーは顔を向けた。

「ばか。ここは地上じゃないんだぞ」

「あ、そうか」

 三人とも腰のベルトの、人工重力対応装置のスイッチをオフにした。

 彼らはふわりと宙に浮き、自分たちの宇宙船に向って空中を飛行した。

 すぐに中へ乗り込むと、三人は急いで宇宙マスクをとった。

「さあ、早くここを出よう。やつらがいつ、俺たちのテレパシー集中作戦に気づかないともかぎらない。俺たちがあれを受けたら、ひとたまりもないぞ」

 ラシャルタは騒ぎながら、宇宙船の中をただ歩きまわっている。

「しかし、どうやってだ。この磁場の中では、俺たちの宇宙船は飛べないんだぞ」

「そんなこと、分かってるよ」

「方法としては、」

 ミレーがゆっくり口をひらいた。

「この敵の母艦のエネルギー機関を破壊することだ」

「そいつは無理だ」

 ラシャルタは、興奮しまくっている。

「再び宇宙船からは出られない。だいいち、俺たちには敵の機関を破壊できる武器がない」

「じゃ、どうするんだ。ここにこうしていても、袋のねずみじゃないか。やつらは俺たちをたおせる武器を持って、ここを包囲するだろう」

 アウルラームがそう言っている間に、ミレーは瞬間エゴムライズの装置の前へ、歩いて行った。

「どうする気だ? 君ひとりで、出て行くのか?」

 アウルラームを手で制し、ミレーは、

「違うよ」

 と、言った。

「この瞬間エゴムライズの装置は、定位置に立っている人や物体にエネルギーを注ぎ、光子体に変えてしまうのだったな」

「そう。だから、瞬間に物体を別の場所へ移動させることができる」

「そうだ、アウルラーム。ところで、そのエネルギーが放出されるのは、ここからだ」

 スイッチの少し上の、円形の窓のようなガラスの部分を、ミレーは指さした。

「ここからエネルギーは、装置の外へ放出される。しかし、回路を組み変えて、エネルギーを逆に内側へ向けたら、どうなるだろう」

「あッ!」

 アウルラームの顔が、一瞬輝いた。

「うまく行けば、宇宙船まるごとを、エゴムライズすることができるかも知れない」

「まさか!」

 と、ラシャルタが口をはさんだ。

「そんなの、うまくいくかよ。回路を組み変えるなど、めちゃくちゃだ。それに、たとえうまく行ったとしても、恒星系内でワープするのと同様、危険すぎる。どこの空間へ出るか、分からないんだぞ」

「今は、それしかないじゃないか」

 アウルラームのひとことが、ラシャルタの言葉をさえぎった。

「さあ、アウルラーム。君ならできるだろう。やってくれ。すべてのエネルギーの誘導線の正と負を逆にするんだ」

「分かった」

「急いだ方がいい。もうすっかり囲まれてるぞ」

 スクリーンの外を見ると、たしかに宇宙船は完全に敵に包囲されている。

「できた」

 と、わりと早くに、アウルラームは叫んだ。

「よし。スイッチ、オン!」

「了解。ミレー」

 アウルラームの手でスイッチが押され、スクリーンの外の光景は、瞬時にして星が無数に輝く宇宙空間となった。

「やった。成功だ」

「レーダーに敵艦隊の反応。すごい速度で追ってくる」

 計機の前の椅子にすわったラシャルタが、丸いレーダーをのぞきこみながら、言った。

 スクリーンにも、敵の赤いハマキ型戦闘艦が十機ばかり、こちらへ向って来るのが見える。

「アウルラーム、航行は可能か?」

「大丈夫だ。敵艦隊の空間からは、かなり離れている」

「ラシャルタ。現在位置を計算してくれ」

「OK」

「よし、アウルラーム。発進だ。行く先は、カルナール」

「え?」

 怪訝そうな顔を、ラシャルタもアウルラームも、ミレーへ向けた。

「ツイサニアへ、帰るのではないのか?」

「ツイサニア基地は、我われ用の武器を持った敵に包囲されている。そんなところへのこのこ帰っても、死にに行くようなものだ。こちらには、やつらに対抗する武器はない」

「そうなんだ。それさえあれば、ツイサニアを攻撃している敵の背後をつくこともできるのだが」

 アウルラームが力なくつぶやいている間に、ラシャルタがスクリーンの外を見た。

「つべこべ言ってるうちに、お客さんがもうそこまで来てるぜ。あれだって、俺たち用の武器を持っているだろう」

「だから、早くカルナールへ逃げこむんだ。二つの大都市の磁場が変えられていても、それがカルナール全体へ広がるまでは、やつらはカルナールの大気圏へ入れない」

 宇宙船は急加速で、発進した。

 敵はもう、すぐ後ろまで来ている。

 砲撃が開始された。これが命中したら、宇宙船は木葉みじんだ。

 アウルラームがうまくそれをかわしながら全速力で宇宙船を手動操縦し、カルナールへ向った。

 やがてカルナールの青地に白の不規則な紋様の入った球体が眼前にぽっかり浮かび、みるみる大きくなっていく。

「大気圏、突入!」

 青い大地が、次第に平らになる。

 三人とも、ほっとため息をついた。アウルラームなど、計機に手をついたまま、放心状態だ。

 適当な空中に、宇宙船は停止した。

 しばらくの沈黙のあと、

「さあ、ツイサニア基地と交信だ。むこうの情況も知りたい。カルナールの都市の想念磁場の急変についても、報告しなければならないしな」

 と、ミレーが言った。アウルラームも、顔をあげた。

「そうだ。カルナール全体の磁場が変わってしまうまで、あと三回カルナールが自転するまでの時間しかない。そうなったら、こんどはこっちがカルナールで、宇宙船を飛ばすことができなくなる」

「早く、基地の指示を仰ごう」

 ミレーが交信機の前に座り、スイッチを押した。

「ツイサニア基地。応答願います。こちら、カルナール調査班」

 ――こちら、ツイサニア基地――

「カルナールの二つの都市の想念磁場の急変について、すべてが判明しました」

 ――こちらは今、それどころじゃないんだ。正体不明の敵の攻撃を受け、壊滅寸前で――

 基地の通信士の声も、かなりあせっている。

「そのことは知っている。敵はサーマン・ミグだ。実は我われは今まで、サーマン・ミグの母艦内に捕獲されていたんだ」

 ミレーは手短かに、サーマン・ミグがツイサニア基地を叩きつぶしてカルナールを手に入れようとしていること、カルナールの都市が狂ったのもやつらのせいで、カルナール時間のあと三日で磁場の急変はカルナール全体に及ぶこと、自分たちの武器は敵に通用しないことなどを、説明した。

 ――わかった。そのことは至急上層部へ報告して指示を仰ぐ。しばらくカルナールにて待機されたし――

 交信は一時中断した。

 スクリーンの外には青い海が一面に広がり、やはり青く輝く空を反映している。空には白い雲がところどころに浮かび、恒星ラーの燦然たる光が、すべてのものに明るく降り注いでいる。アウルラームは、そんな景色に目を細めた。

「こう見ているかぎりは、のどかで平和な星だ」

「ああ。カルナールほど、外見も降りてみてながめる景色も美しい星は、宇宙どこ探しても他にはないだろう」

「だが、この星でとてつもなく恐しいことが、これから起ころうとしているんだ」

 ラシャルタはそう言い放ってから、落ち着かないようにフロアの上を歩きまわった。

 ――カルナール調査班、応答せよ――

 三人とも先を競い、交信機の前へ駆け寄った。ミレーが代表して、マイクを握った。

「こちら、カルナール調査班」

 ――たった今、カルナールの都市の処置についてドルジャー会議の指示が下りました。『カルナールの狂った都市は、ただちに破壊する。不本意ながらやむを得ぬ。カルナール全星を救うには、これしか方法はない。諸君はそれらの都市からできるだけ離れたカルナール内で、待機せよ。破壊はそれらの都市が、次に恒星ラーの反対側に来た時に行う』以上、メッセージをお伝えします――

「了解」

 交信は終った。

 しばらくフロアに、沈黙がただよった。それを破るかのように、ラシャルタが、

「何が了解だよ。冗談じゃないよ」

 と、叫んだ。

「たとえ、いかなる事態であろうとも、俺たちが保護し守らなきゃならないカルナールの都市を、我われの側で破壊するなど許されることじゃない」

「そうだ。ドルジャー会議に抗議だ!」

「まあ、待て」

「何が、待て、だ!」

 ラシャルタは、ミレーにくってかかった。

「君は我われの手で、カルナールの都市を破壊してもいいと言うのか」

「そうじゃない。でも最も不本意なことだけど、さっきのメッセージどおりやむを得ないじゃないか。ドルジャー会議とて、好んでそんな指令を下すか。本当に、そうするしかないんだよ」

 ミレーは二人に背を向け壁に右手をついて体重を乗せ、うつむいた。

「あの町を破壊しなきゃ、あと三日でカルナール全体の磁場が狂い、想念波動も狂ってしまう。そうなったら、サーマン・ミグの思うつぼじゃないか」

 ミレーの言葉とかさなって、

「あッ」

 と、アウルラームが叫んだ。

「エイブとの約束がある」

「あ、そうだ。あの都市に住むエイブの甥の家族を救うという約束だった。」

 二人はミレーを見た。ミレーも顔をあげた。そのそばへ、アウルラームは歩み寄った。

「黙って待機はしていられない。救出しに行こう」

「もちろんだ。だが、あの都市に宇宙船は入れない。上空で飛行不能になる」

「だから、町の外で降りて、歩いて行くしかないんだろう、ミレー」

「そうだな。だが、時間がないぞ。急ごう。もし、もたもたして遅れたら、俺たちもあの都市とともにおだぶつだ」

「よし、行こう」

 アウルラームは、宇宙船を発進させた。

 すぐに陸地が見えて来た。土色と緑色に覆われた大地だ。

 恒星ラーは、後方の地平線に傾きかけている。この計算だと、あの都市はすでに昼と夜との境界線にあるだろう。そして恒星ラーと反対側の位置に都市が来るまでカルナールが自転したら、あの都市は亡ぼされる。

 時間がない。

 三人とも気持ちばかりあせり、何度もスクリーンの外を見た。

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