第5話

コンコンとドアを叩く音がした。下から圭くんのお母さんがお茶と佑仁におもちゃを持ってきてくれた。

佑仁を膝の上で遊ばせながら圭くんに尋ねる。


「圭くん、彼女さんとか大丈夫?なんか、普通に家に来ちゃったけど、誤解とかされない?」


「いないから大丈夫」


ソファーの上でブロックで遊ぶ佑仁を見ながら圭くんは答えた。


「かっこいいのに。もったいない」


ぼそっと呟く。


視線を感じて、顔を上げると圭くんがこっちを見ていた。はぁ、とため息をついて、「ゆあはそういうやつだよね」と言っているのが聞こえた。


失礼なやつだ。どういうことだよ。


「ゆあ、佑仁の保育園があるから最近あの電車使ってるんだよね?前は使ってなかったでしょ?」


「そうそう。全然気にしないでもらっていいんだけど、両親が亡くなったからあと1年で高校卒業だしってことで佑仁と暮らしてる。だから、2ヶ月前から使いだしたんだよ」


「今まで見たこと無かったから。それに制服で子ども背負ってるから結構目立つし」


「だよね。高校と真逆の場所にある保育園しか空いてなくて」


高校は家のある街に進学したから今まで電車を使っていなかったが、保育園に行くためには使わざるを得ない。


「家で佑仁と2人きりで防犯とか大丈夫?」


「今のところは何ともないから大丈夫じゃないかな」


近所で不審者を見かけたという目撃情報もない。鍵は2重ロックで頑丈なはず。


「危ないなぁ」


圭くんはふふっと笑いながらこちらを見ている。


「もっしもーし。お2人の世界を邪魔するようで悪いけど、お姉様が帰ってきたよ〜」


いつの間に帰って来ていたのか、お母さんとそっくりな人がドアに立っていた。足元には佑仁と同じくらいの茶髪のクルクル天パの男の子がいる。悠真くんだろう。


「姉ちゃん、ノックくらいして」


「いやぁー、ごめーん。で、そちらが佑亜ちゃん?」


慌ててソファーから立ち上がりお姉さんに挨拶する。


「はい、柏木佑亜です。こっちは弟の佑仁です。お邪魔しています」


「よろしくね!私は圭仁の姉の朱子あかねっていいます。朱子って呼んでね。こっちが悠真。悠真ね、佑仁くんと遊べるの楽しみにしてたのよ」


とてとてと悠真くんが佑仁に近づいてきた。


「はるま。よおしゅー」


手を佑仁に伸ばしている。圭くんが悠真をソファーに上げた。


佑仁は差し出された手がどういうことか分からないようだが、真似して差し出していた。


非常に可愛い。


「あんた達そうしてると親子見たいねぇ!付き合ってるの?」


ドアのところで傍観していた朱子さんがニヤニヤとこちらを見ている。


「違う。友達」


圭くんがさらっと答えてくれる。


「ふぅーん。まぁ、そういうことにしときますか。じゃ、私ダーリンに電話してくるから悠真も一緒にみといて」


「うん」


朱子さんは言うが早いか、ルンルンとドアを閉めて部屋を出ていった。


「悠真くんはお父さん似なのかな?」


悠真くんの天パを見ながら佑仁を抱っこする。圭くんは悠真くんを抱っこしつつ、冷蔵庫に向かっていった。


「あー。うん。髪色は父親似だけど天パは俺の父さんからだと思う。俺ら兄弟はなんでか天パにならなかったんだよ」


「そうなんだね〜。佑仁はお母さん似だけど私はお父さん似だからな〜」


ふわふわの焦げ茶の髪に焦げ茶の瞳。お父さんに似てしまった。対する佑仁はサラサラのストレートで黒髪、大きな目に長いまつ毛。今のところお母さんに似ている。


「圭くんはどっち似って言われる?」


「俺と姉ちゃんはもっぱら母さんに似てるって言われる。俺もそう思う」


「そうなんだ。お父さん悔しそうだね」


「逆逆。母さんの方が悔しがってるよ。何年経ってもラブラブなんだから」


圭くんが冷蔵庫から取ってきたハムパンマンのジュースを2人にあげる。

2人は零さないように器用に飲んでいる。

飲み終わったら仲良くソファーの下でつみきで遊んでいる。

それすらも可愛くて思わずにやけてしまった。


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