第4話

快晴の土曜日がやってきた。


昨日の夜にレインを送ったところ、圭くんから返信が来た。圭くんが乗る駅の東口で10時30分に待ち合わせをしている。


昨日の夜にパウンドケーキの準備をして朝作ったのでそれを持っていく。


佑仁の準備を終え、私も動きやすい黒のパンツにレースのついたシャツを来た。夏が近づいて来ているため、日中は暑くなり始めていた。佑仁もすぐ脱げるようにフードにクマさんの耳がついたパーカーを羽織らせた。パーカーのフードを被せるとすぐ脱げてしまうのでお出かけ用の帽子も被せる。


余裕を持って家を出る。佑仁は例外なくおんぶ紐で背負う。ベビーカーでも良いけど、場所を取るのでいつもおんぶ紐を使っている。


電車に乗り東口に行くと、女の子たちに遠巻きで見られている圭くんを見つけた。スマホを見て視線を気にしていないようだ。


黒髪にくっきり二重の切れ長の目、健康的な白い肌、すらっと長い手足からも圭くんはイケメンだ。


「圭くん」


話しかけないことには始まらないので、仕方なく圭くんに近寄った。電車を降りたら歩きたくなったのか手を繋いで歩いていた佑仁も「けーく!」と言った。


「ゆあ、おはよう。佑仁、歩いてきたのか?」


佑仁の前でしゃがみ話しかける圭くん。その表情に周りの女の子たちはきゃーきゃー言っているのが聞こえる。


圭くんも佑仁も周りを気にせず話しているので、1人周りを気にしている私が馬鹿らしくなり、圭くんと佑仁の会話を楽しんだ。佑仁は返事をしつつ手を叩きながら話している。一通り話し終わって満足したのか、圭くんが佑仁を抱き上げた。


「良し、行こう」


その声に肩にかけたカバンを持ち直して隣を歩く。


「そういえばゆあ何歳?」


「随分唐突だね。ふふ。17歳、高校3年ですよ〜」


あまりの唐突さに思わず笑ってしまった。


「あ、じゃ一緒だ。遊びに誘ったけど、勉強とか大丈夫?」


「私は就職するから。圭くんこそ進学でしょ?大丈夫?」


「今のところは。模試ではA判定もらってる」


なんと!やっぱり頭が良いようだ。


「どこ受けるの?」


「T大の経済学部」


「すごいなぁ、もう決めてるんだね」


「父さんの跡を継ぐ予定だからね」


そんな話をしながら段々と高級住宅街に入っていく。


「道、合ってる?」


「合ってるよ」


不安になって聞いてしまうほどそこは豪邸しか建っていない。曲がってすぐの大きな一軒家の門前で止まった。


「え、ここ?でかすぎない?」


佑仁を抱っこしながら歩いてくれた圭くんがインターフォンを押すとガガガと門が開いた。そのまま中へと入っていく。玄関まで来ると勢い良くドアが開いた。


「あらあらまあまあ!」


若い女の人が出てきた。圭くんのお姉さんだろうか。


「母さん、静かにして。佑仁起きる」


圭くんの口から出たのは母さんという言葉。


「え、お母さんですか?お姉さんかと思いました」


「お世辞が上手いわね〜。圭仁の母の碧依あおいです。あなたが佑亜ちゃんでこの子が佑仁くんね!よろしくね〜」


「はい、柏木佑亜です。よろしくお願いします。こちら粗末なものですが、今朝作ったパウンドケーキです」


カバンから袋に入ったパウンドケーキを、取り出す。


「あら〜気を使わなくても良かったのに〜。せっかくだし、ありがたく頂くわね!」


「はい、貰ってもらえると嬉しいです」


「母さんいい加減家にあげて。母さんがうるさいから佑仁起きた」


圭くんの腕にはこっちを見ている佑仁がいた。


「佑仁、こんにちわは?」


「こんちゃあ」


「はーい、こんにちわ」


玄関から中に入ると廊下を抜けた先に天井が吹き抜けになっているようで日差しが程よく入ってきていた。


「姉ちゃんは?」


「今悠真連れて買い出しに出ちゃったのよ〜。圭くんの部屋で休んでて。来たら呼ぶわね〜」


圭くんに連れられて2階の奥の部屋に入る。中は私の家のリビング並に広かった。机とベッドと本棚の他にテレビにソファー、冷蔵庫までついている。


「圭くんって、お金持ちだったのね……」


「父さんが頑張ってるから」


圭くんはソファーに佑仁をおろした。ちょこんと大人しく座りながら首を左右に動かしている。


「ゆあも座って」


圭くんに手招きされ、佑仁の横に腰をおろした。

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