第2話
翌日、電車で乗り過ごしそうになった所を起こしてくれたお礼を言いたくて私はあの男の子を待っていた。
保育園の2駅前で乗ってきた男の子に小さく見えるように手を振った。
それだけだと伝わらなそうなので、手招きする。
やっと伝わったのか男の子は隣に座ってくれた。
「昨日は本当にありがとう!」
「いいや。むしろ降りる駅分かられてるの気持ち悪いよね。なんか、ごめん」
なんていい人なんや!
「私もあなたが乗る駅知ってるしおあいこだね」
「そうだね。……俺、
「私は柏木佑亜。人偏に右と亜人の亜でゆあ。この子は佑仁。私の同じ佑にあなたの仁でゆうとっていうよ」
「珍しい。ととも読むんだな」
圭仁は事情を詳しくは聞こうとしなかった。
「圭くん。……………そう呼んでも良い?」
「好きなように呼んで。俺もゆあって呼ぶから」
「うん!」
「けーく!」
今日は起きて膝の上にいた佑仁も私の真似をして圭くんの名前を呼んだ。
可愛すぎて思わず抱きしめてしまった。
「佑仁可愛いな」
圭くんの黒髪の隙間から見える切れ長の綺麗な目が微笑むと同時に目尻が下がり途端に優しい印象になった。
普段冷たいように見えるのに、微笑んだ時の破壊力が佑仁並にあって私の心臓は早鐘を打った。
「ちょっ、圭くん笑っちゃダメ!」
「え、なんで」
突然のダメ出しに圭くんはキョトンとした顔でこっちを見た。
「それは卑怯すぎるから」
「何が卑怯なの」
少し口角を上げながら聞くのも意地が悪い。
「かっこいいから。他の子に見られると大変だよ…。不意打ちは禁止」
上手い誤魔化し方が見つからず、結局素直に答えた。
圭くんはしたり顔でこっちを見ていたかと思いきや佑仁に視線を移した。
少しの沈黙の後電車が保育園の駅の名前をアナウンスする。
昨日までは佑仁と2人だけだったはずなのに、圭くんと離れることが寂しく感じた。
佑仁は必死に圭くんに手を伸ばしている。
「じゃ、そろそろ着くから降りないと」
「けーく!けーく!」
佑仁は覚えたての言葉を話している。
「佑仁、圭くんにバイバイしてね。じゃ、また」
「また」
圭くんは手を少し上げて佑仁の伸ばしていた手に手を合わせた。
「佑仁もまたな」
開いたドアからホームに出る。ここから保育園までも結構かかるので急がないといけない。
ちらっと後ろを見て、窓から見えた圭くんに手を振って保育園へと向かった。
保育園の門にいた佐々木先生にまた佑仁を預ける。
もう慣れたものなのか、佑仁が泣くことはない。
「佑仁、いい子にしててね!佐々木先生お願いします」
「はい、行ってらっしゃい。佑仁くんもお姉ちゃんにバイバイしようね」
佑仁に手を振りながら高校へ足を向けた。
高校が終わると急いでバイトに向かう。両親の保険金に貯金が残っているとはいえ贅沢はできない。
ただ、家のローンが払い終えていることが救いだった。
スーパーではレジ打ちをしている。
高校のある街で8時までやってから電車に乗って保育園に向かった。
8時30分頃の電車は帰宅時間でもあるのか結構混んでいる。つり革に捕まってもあまりバランスが取れないので、棒に捕まる。
保育園まで後3駅というところでおしりを誰かに触られている気がした。
今までこういう事がなかっただけにどうすればいいのか分からない。そっと下を向く。
「おっさん、離せ」
聞きなれた声が聞こえた後に痴漢が止んだ。声の方を振り返ると朝見たばかりの圭くんがいた。
「圭くん…」
「大丈夫?佑仁は?」
圭くんは電車が混んでいる中、隣に来てくれて話し相手になってくれると同時に壁になってくれた。
「ありがとう、圭くん。佑仁を迎えに行くとこだったの」
「送ってくよ」
「え?」
「だから、家まで送っていくよ」
あまりにサラッと言うから理解ができず、聞き返したが答えは変わらなかった。
「いやいやいやいや!それは圭くんに申し訳なさすぎる!それに、圭くんがそこまでしてくれる理由ないし!」
「………俺が心配だからって理由じゃだめ?」
圭くんの方が私よりも身長がばか高いのに、この言い方に上目遣いをしてこちらを見ている圭くんが容易に想像できる。
いや、可愛いかよ。
「い、いよ」
だからかな……。
その姿に断れなかったのは。
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