6 雪が降る街
クリスマスイブ。
僕の家で彼女と、かなり久しぶりのパーティーをした。
彼女が来る前に宅配のピザが届いて、四種類の味が一枚になっているピザだからそれぞれ一切れつまみ食いした。彼女がやってきて蓋をぱかっと開けたら驚かそうと思ったのだ。案の定口を大きく開けて、フライングしたでしょ、と苦笑していた。最初からこのデザインだったんだよ、と言って二人で笑い合った。奮発して買ったボジョレーヌーヴォーを開けて、グラスで乾杯した。
「去年のこと思い出した?」
彼女が失踪したわけを改めて聞きたいと思った。
「あんまり」
やはりまだ思い出せないそうだ。真実は神のみぞ知る、ってやつか。
「でもね」
彼女がケーキを食べながら言った。
「ぼんやりとしか分からないんだけど、何か、男の人のお尻に……思いっきり噛み付いた気がするの。あと、雨の中待たされたり、変な魚を食べてお腹壊したりとか、不思議な記憶があるんだけど。なんなんだろうね」
テーブルに頬杖をついて聞いていたがずっこけてしまい、僕と彼女はお互いに笑い合った。本当のことは分からない方が良いのかもしれない。その方が面白い。夢もあるし、希望も持てる。
「ミケは、どうしてるんだろうね」
彼女が言った。
「さあ……きっと、どこかで元気に誰かがくれた飯でも食ってるんじゃないかな」
僕はそう答えた。
外はもう雪が降っている。空の月はきっと澄みわたった瞳で僕らを見つめている。
部屋の中はステレオから流れるスガシカオの音楽が満ちている。本棚の上に置かれた額縁の中の写真には僕と海を見つめているミケが、静かに微笑み続けていた。
猫になりたい2009 66号線 @Lily_Ripple3373
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
答え合わせ/66号線
★9 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます