今日はチョコレートが通貨です。
@blanetnoir
この国では、年に一度、1日だけ通貨が変わる日がある。
その通貨でやり取りされるのは人の魅力や恩恵の評価。
そしてその日のために通貨を各々が入念に準備する。
「本命」
「義理」
「友」
その言葉でモザイクをかけた向こう側にあるのは、容赦のない“他者からの関心度と好感度”
日が暮れるまでに、
せめてひとつくらいを与えられたくて。
動悸と冷や汗を掌に握り消して
そしらぬ顔して人の間を縫い歩く。
真面目に生きていれば
ある程度の信頼を得ることはできるだろう。
でもそれを形にして表してもらえるかどうかはまた別の問題だってことを、
成人してから嫌という程その差の大きさを感じた。
義理ですら、渡すには渡される側に愛嬌と気安さが必要だって、
皆どこで学んだっていうんだろう。
それに自力で気づいた時には、
その能力を身につけるリミットがとっくに切れているタイミングだなんて。
“おかえり。
他の人からバレンタインのチョコは貰えた?
そう、これは私からね。”
そう行って何気ない笑顔をくれた切り札もいない家に、
灯りも夕食も自分の手で整えるために、
浅く息をつきながら、カバンの中に目をやる。
「あ、今日の分の資金用意、忘れてた。」
今日は全てがチョコレートで支払わなければならないのに。
これじゃあ夕食の買い出しもできないと、ため息を吐いた。
夕闇を背景に目の前を電車が眩く走り去った。
今日はチョコレートが通貨です。 @blanetnoir
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます