第10話

「あの魔物は、光に惹かれる習性でもあるのか光晶石の周辺にしか現れないの。硝子のような身体は、見た目よりも固いわ。体から生えている薄い刃も、そこらの安物の剣よりも切れ味がいいし、 近づくと先程みたいに刃を飛ばして攻撃してくるわ。だけど、例えこちらを感知していても、光晶石の照らす範囲の外には移動しない。だから、一定の距離を保ちつつ遠距離攻撃で仕留めていくってわけなんだけど、ちょっとアンタ聞いてるの」


「あーはいはい、聞いてる聞いてる……」


「何かすごいやる気のない顔してるわね……」


「いや、だってさあ」


 圭太は、カチャリと《聖剣》を目の間に掲げた。


「近距離攻撃しか手がないのに、遠距離攻撃だもんな」


『正確に言えば、ここで使える遠距離攻撃がない、と表現すべきです』


「ああ、前に使った《剣技》か。そういや、あれは超凄い威力だったな」


『はい、ここで使えば恐らく迷宮が崩壊してしまうでしょう。ただでさえ、今のケイタでは《剣技》を制御できないのですから。威力を抑えて使うことも不可能です』


「だよなあ」


 以前使ったときの事を思い出して、圭太は頷く。


「さっきみたいに、弾きつつ近づいてサクっていう手を使う冒険者もいるわよ?」


「それは、俺が先に相手にサクってされる未来しか見えない」


 遠ざかりながらでもいっぱいいっぱいだったので、アリスティアの提案は却下する。


「私の光魔法も、相性の問題で効きにくいわ。光を吸収しちゃうのよね」


 試しにと、一発撃ってもらうが、魔物の体に届いた瞬間溶けるように消えてしまう。


「うーん。アリスからの荷物に弓矢は無かったよな……」


「通じるかしらね? それに、あってもアンタ使えるの?」


「無理だな」


 思わず考え込んでしまう圭太。くるくる指を回して、魔法の明かりを出しているアリスティアを見つめる。


「でも、アリスティアには何か手があるんだろ? そうでなきゃ、依頼は受けてこないだろうし」


「そりゃね。私は、この依頼は別に何の問題もないわ。攻撃だって、いくらでも手はあるし。光が駄目なら、他の精霊魔法ってね。簡単なとこだと、こんな感じ」


 話しながら壁に手を当て、そしてその手を振りかざす。その動きに合わせて、壁から鋭い棘のような石が飛び出した。圭太達の目の前の床に突き刺さる。


「土魔法は、迷宮内では割と人気の魔法ね。攻撃にも防御にも使えるから」


「なるほど、これで遠距離から攻撃するのか」


 確かにアリスティアならあっという間に戦闘が終わってしまいそうだ。


「じゃあ、お前のこれで仕留めてもらうとするか」


「え? 私、戦わないわよ?」


 きょとんとするアリスティア。


「え?」


「え? じゃないわよ、アンタが倒すに決まってるじゃない」


「え、おいおい、どうしてそうなるんだよ」


「だって、ねえゲイル」


『はい、アリスティア』


「さっきケイタ、言ってたものね」


『はい、私も聞きました』


「――まずは、この手で」


『ぶっ潰す』


 《魔杖》を目の前でぎゅっと握りこんだりなんかしたりするアリスティアに、ゲイルものりのりで後追いする。


「お前ら、本当に勘弁しろよ! 泣くぞっ!?」


 精神値がマイナスになりながら圭太が叫ぶ。


「まあ、そんな感じでケイタがやる気になったんだから、私は後ろで観戦することにするわ。大丈夫大丈夫、危なくなったら、補助するから」


 ポンポンと気楽に背中を叩いてくるアリスティアが恨めしい。


「倒せって言っても、近づけねーし、手は出せないし……」


 曲がり角の壁には、先程の魔物の攻撃で何本もの刃が突き刺さっている。中には、突き刺さった刃に、さらに刃が食い込んでいるのもあった。

 もしも、そんな感じで次々と刃が自分の体に突き刺さったらと思うと、思わず背中に冷たいものが流れる。


「いかんいかん、余計なことは考えないようにしないと。他に何か手はないか……」


 ゲイルに預けた荷物に使えるものは無かったか思い出す。……荷物。……使った木の棒。……ゲイルの元々の能力の利用。


「……あ」


 ゲイルに、一つ確認する。


「ゲイル、荷物の中に食料あったよな? あれをあいつ等のどれでもいいから、真上からぶつけられるか?」


『……食料ですか? もったいないと思いますが……こんな感じでいかがでしょう?』


 恐る恐る曲がり角から、そっと顔を出すと、ドサリと一匹の魔物の上に食料が落ちてきた。


「おお、どんぴしゃり」


「何してんのよ、あの魔物は食料なんかにはつられないわよ?」


「まあ、ちょっとな」


 口に手を当てて、しばし思考。


「なあ、二人ともちょっと聞きたいんだけどさ」


 とりあえず、自分の思いついた策を話す。


『まあ、可能性はあるかと思いますが……』


「また、変な事思いつくわね。勝算はあるの?」


「ある、と思う。まあ、ゲイルにおんぶに抱っこな感じだけどさ」


 苦笑する。


「これが、今の俺ができる事だと思うんだけど……どうかな?」


「ゲイルはどうかしら?」


『正直、ケイタの思い付きなので、経験はありませんが……私は協力したいと思います』


「なら、決まりね」


 アリスティアが、パンと手を叩く。


「ケイタ、さっきも言ったけど、危なくなったら私が助けるから。しっかりやりなさい、失敗を恐れちゃ駄目よ!」


「おう、わかってる!」


「あ、でも、ここでの失敗は死んじゃうかもね。やっぱり、失敗はしちゃ駄目よ、気を付けて!」


「お、おう」



◇◇◇◇◇◇



 曲がり角の手前で、一度立ち止まる。

 先ほど目にした、壁に突き刺さった刃が目に留まる。


『ケイタ』


「……ああ、心配すんな、ゲイル。覚悟は決めた」


 ぶんぶんと弱気を振り払うように、《聖剣》を振るう。


「ゲイル。俺の案は、お前任せだ。色々頼む」


『任されました。しかし、持つ者がいなければ私はただの剣です。これからの戦闘は、ケイタがいなければ始まりませんよ?』


「そうだな……俺も頑張る。お前も頑張れ」


『はい』


「じゃあ、行ってくる!」


 アリスティアに振り返り一声かけると、圭太は返事も待たずに飛び出す。

 

 その途端。


 先程と同じく、光の刃が飛んできた。

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