18.カキノキ
俺の家の傍には、カキの木があった。
父と取りに行っては畦一面に干してたっけ。
「完全に渋柿よな…」
「こうすれば渋が抜けて食べられるって、
父さんが言ってた。」
その父も10年前に亡くなり、自分は学生生活と知識的に、母も祖父は体力的に、難しい…と誰も木の手入れをせずに居たら、木の高さが人の3倍になってしまった。これでは収穫も出来ないし、いずれ区役所からも文句を言われてしまう。
そして俺は剪定に挑戦する事にして、保護者に来て貰った。
「これが我を連れてきた理由か?」
「おう。枝がボーボーでひ弱になっちまったから、
今年こそは剪定しようと思ったんだ。」
「なるほどこれはひどい・・・」
保護者は寝起きの帝国参謀――帝国最強のイケメンを名乗る上司の事だ――の如き樹形に呆れていた。
真っ黒な扇子で口元を隠して盛大に溜息を吐いて、ちゃっかり動画屋界隈に転がるネタを踏んだのがその証拠だ。
「第五代皇帝って長いよな。略称ないのか?」
「それが“陛下”ではないのか。」
「おお、そうか。なるほど!」
「・・・。」
変な話だが、色々あってから、親子兼ちょっと遠い上司と部下をしている。今日は偶々陛下も俺も時間があったので、こうして実家で作業する事にした訳だ。勿論、首都からヴァスカンダ区の実家までは最低半日かかるので、その距離は陛下に“キ●グクリムゾ●”して貰った。
「葉がすっかり落ちたな…ところでカツキよ、
剪定鋏だけでどう切るつもりだ。」
「え?
陛下が俺を木の中腹辺りに飛ばして」
「柿は登れぬぞ。折れ易い故。」
「…まじで?」
そう、柿の木には特徴がある。
木材としての柿は、木質緻密で堅いが割れ易い。その性質により、手入れを怠ると自重で折れる枝が出てくるのだ。
「“柿の木から落ちると3年以内に死ぬ”とは聞かぬか?アフクセン殿なら知っておろう。」
「…そう言えばじっちゃん、“柿の木だけは登るな”つってたわ…」
「疾く脚立を持って参れ。そして毎年、機を見て手入れせよ。」
「はーい…」
また、果樹と呼ばれる植物達は、特定の枝にのみ花実を付ける。柿の場合は前年の枝の先端から新しい枝を伸ばし、花実を付けた。
つまり切る枝を間違えれば来年はボウズである。とんでもない話だ…
「脚立持って来た。」
「うむ、随分古い
よしよし
「…?」
「?」
「いや、なんでもない。」
カツキはなんだか氣になってしまったが、陛下は首を傾げて微笑むだけだ。そう言えば陛下は骨董品――中でも文房具が好きだった――事を思い出して、カツキは安心して作業に入った。
持って来た脚立に登り、陛下が扇子で指す枝を切っていく。途中違う枝を切って陛下に叱られる事もあったが、カキの木は枝を透かれてすっきりした。
「1回バッサリ切った方が良くないか?
収穫ゼロ覚悟で。」
「それはこの柿を食む者と相談せよ。
身内が困るであろう。」
「おう。」
それで今夜は実家に泊まり、祖父と母とカキの木の将来について話した。
「陛下って実家(ウチ)に来ると絶対
母さんの手料理要求するよな…」
「うむ、ヒロコの料理上手をよく分かっておられる。」
「何かをして貰ったら対価を支払う必要があるわ。
自分では野菜を作れない商社が、
お金で野菜を作れる農家から買う様に。
陛下なら、尚更でしょう。」
残念ながら陛下は帝国政府からのお呼び出しがあったので、晩ご飯を頂いてお帰りになった。
ちなみに、陛下の好きな“おふくろの味”は味噌汁・ささみの酒蒸しに柚子胡椒・
「…つまみじゃね?」
「つまみじゃのう。」
「次は清酒も用意しましょうか。」
「そうしとくれ。それとカツキ、ほれ、
切った枝は一旦倉庫に片付けるぞ。」
「え。こんなんでも、薪の足しになりそうか?」
「なんでも捨てるのは簡単じゃ。一旦取って
おいて、後は季節が廻ってから考えればよい。」
「おう。」
雪の積もらぬ豪雪地帯の夜は、静かに更けていった。
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柿食えば 鐘が鳴るなり 法隆寺(正岡子規)
昔詠われた風景も騒音扱いで消えてきているとか。音を言の葉の如く理解し、凉を取る感性はいつまでも育んでいきたいものです。
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参考ホームページ
http://chills-lab.com/flower/ka-ka-02/
https://www.niwaki-sentei.com/jiki13.html
https://kikorin.jp/contents/library/koneta/000260.html
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CAST
・ヴァスカンダのカツキ
・第五代皇帝ガルバディア
・ヴァスカンダのアフクセン
・ヴァスカンダのヒロコ
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