17.クズ(葛)

夏秋の頃、人が行き交う其の横で、緑色の蔓が伸びる。

茶色い毛を生やした逞しい蔓だ。

蔓は掌大の葉と赤紫色の花の塔を付けて、川を、道路を、人の居る場所を侵食していく。

古の人は怒濤の如く伸びていくこの蔓を採っては川に浸し、木槌で叩いて繊維を取ったという。

「この世界にはまともな監視者が居ないのよ。」

その頃、エアコンをガンガンに効かせて、巨大な装置とコードの束に囲まれて引き籠もった研究者が居た。

真っ暗な部屋の中で、ディスプレイと人の顔だけが爛々と光る。

「監視者みたいな存在ものは確かに居るわ…でも、わたしが知っているのは老害でしかない輩だったし、そもそも監視者という業は己の物差しだけで出来ることかしら?」

研究者は規則的なベースの合間から、誰にともなく呟く。

「だからもう1つ、死なない物差しを作ろうと思ったのよ…鉱物の様に鋭く、葛の様にしなやかで強い、新たな監視者…」

「それで朝から晩までプログラミングしてらっしゃるのですね。」

そこに、声が掛かった。

「速く完成させたい氣持ちは分かりますが、御飯とお風呂、どちらにされます?」

「…“あなた”って言ったらくれるのかしら?」

「天ぷらが冷めてよければ。」

研究者の熱っぽい冗談に、相方の涼しいバリトンが重なる。

「それ“ごはん”一択しかないじゃない…」

「そう…ですね。」

女は保存とシャットダウンを済ませてからディスプレイを離れ、椅子と共にテーブルにやって来た。

テーブルには箸と玄米茶碗と湯飲みが2セット、柴漬けと汁と塩の入った器が1つずつ、そして中央には野菜たっぷりの天ぷら大盛り。

「あら、お花まで天ぷらにしちゃったの?」

「葛というそうです。ユリが採ってきちゃいましたけど、陛下が“食べられない事もない”と仰ったので食材入りしました。」

「そう…後で陛下に何か持ってって頂戴。」

「承知しました。」

研究者は早速天ぷらにかぶりついた。

最初は塩味、つゆは後で。その方が素材の味が分かるから。

「…溜息ついて、どうしたの?」

「天ぷらと言えばキスですよ、あぁあキスが食べたい…」

「あなた本当にお魚好きね、可愛いわ。」

「…今の何処に“かわいい”要素ありました?…」

「存在が可愛いんだから仕方ないじゃない。」

さくさく香ばしい衣の中に、少し苦みを伴う味がする。

これが葛だろうか。

「沢山たべる物ではないわね。」

「そうですね。」

「ごちそうさま、美味しかったわ。」

「ありがとうございます。」

食事を終えた後、研究者は再びディスプレイと向き合った。

相方は持ち込んだ盆に食器を載せていく。

「お風呂いつ入ろうかしら…一緒に入らない?」

「…では、片付けてきますね。」

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堤防、高速道路、何処かの空き地…何処にでもいる、葛。利用出来れば地下資源ゼロも夢じゃない?


ところで風水では、お風呂は御飯食べる前に入る方が良いそうです。外から持ち込んだ邪気を除いてから食べる方が、余計な物を摂取しなくて良いですね。

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参考ホームページ

・葛布(小崎葛布工芸株式会社)http://ozaki-kuzufu.jp/

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CAST

・「帝国謹製第二種機密事案により秘匿」

・「帝国謹製第二種機密事案により秘匿」

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