3.スイートピー

さて、此の世は三千世界。

其処には二つの国があった。

砂漠の王国ロブリーズと、極寒の帝国メガロポリス。

この二国は、不自由な環境ながら勢力は均衡しており、度々戦争を起こすほど仲が悪かった。

何故なら、その土地環境の通り、国民の性格も大体違ったからだ。

その1つが、

“どっちが好き? お祭りVSお祈り”

である。

《てぇへんな話なんだが、良いか?》

「おう、どしたどした?」

《ヴァスカンダの温室、年末の豪雪でほぼ全滅だ。ちなみに漏れなくウチもアウト…》

「 マ ジ か ?! 」

帝国はお祭り派で、毎月、国民一人一人の得意分野で騒いでいる。

「てコトはよ、ヴァスカンダ区ではす、す、スイートピー祭が開けねぇ!?」

《そうなんだよ。このままじゃマズい、子ども達に花を届けられねぇ事は分かってるが、どうすっかな…》

「無事な温室があったら追い播き!! 無ければ自宅とか、温けぇスペースはねぇか?! あとは他区への提供要請だあぁ!」

《よっしゃ分かったあ!! ありがとよムシキ!》

ちなみに1月の中旬は、スイートピー祭が最も有名である。

元はと言えば、スツェルニー区近隣におわす気難しい方の荒ぶりを収める為に毎年お納めしていたそうだが、辛気くさくて面倒で同じ事は嫌いな彼等の事である(尚、その“近隣”にはリノク府・ヴァスカンダ区も含まれている)。

いつの間にか、スイートピーを愛する農家達が定期生産で施設栽培をフル稼働したついでに、大雪で外遊び出来なくて落ち込んでいる子ども達の為に花束を自宅まで贈る祭となった。最近では、この祭りに感動した某大手企業が、祭用にわざわざスイートピー栽培キットを作製・提供したという。

「色はレッド、ピンク、オレンジ、ホワイト、パープルが基本だな! んで、この前の学会発表では、もうちょいで黄色が出来るかもって話だったな。唯一の欠点は、有毒植物って事なんだが…」

「《良い香り》《ヒラヒラ》《カラフル》《る》!」

「そそ。正に切花の為の植物だぜ。」

しかし此処、帝国とは極寒たる大都市Megalopolisである。

中には豪雪地帯――わりと最近、どっかのバカの所為で気むずかしい方々の一人が大変お怒りになり、キレた拍子に間欠泉の素をカノン砲でブチ抜かれあそばせた結果、温帯が一転して豪雪地帯になってめちゃんこ苦労している区もある…ソレがヴァスカンダ区…――も存在している。帝国の温室はガラス温室だが、そのガラス温室が割れるレベルの豪雪が稀に発生する。

どうやら、今年はそういう意味で当たり年だったらしい。

「《地方》《新聞見た》《温》《室》《全滅》《デジマあぁ》!」

同僚の、何処かで聴いた様な合成音声が、キンキンと室内に響いた。

ムシキは同僚のパソコン画面を見に行くと、豪雪地帯の凄まじさがかかれていた。

「…被害総額1000(いっせん)億ルブレ…」

「《全土》《の75%》《避難指示》《継続》、《2週間経過》。」

「温室でこんなけ出たんだ、家屋もやられるだろうなぁ…くうぅ。」

同僚が見たネット新聞によると、被害に遭った農家には帝国災害保険が適応されるらしい。

それでも、資産の半分を埋められるかどうかが常だったが、今年はもっと悪いかもしれない。

「クリスの植物工場でスイートピー作んの初めてだったけど、マジで作っといて良かった…」

「《連理草》《虫の知らせと》《子ども達》」

ムシキの心は、避難所に居る子ども達に飛んだ。

ヴァスカンダ区のスイートピー祭申込名簿を見る限り、6~15歳の子どもは約500人。豪雪に加えて制限だらけの避難所暮らしは、心身の成長にどんな悪影響が出るか分からない。

「《何故》《スイートピー》? 《あれ》《毒草》。」

そうして“今ここ”から飛んでいったムシキの意識を、同僚は冷ややかな合成音声で連れ戻した。

だがムシキは、諦めない。

だって、スイートピーと子どもが、大好きだから。

「確かにアレは腹の足しにはならねえ。だがその分、初期状態さえ整えれば簡単に育てられるし、色のバリエーションと香りがある。伸ばそうと思えば壁の様に伸びるしな…んでもって綺麗なんだよとにかく。だから子ども達に見せてやりたいのさ。

 花の様に綺麗に生きてりゃ生かされるんだよ。

なんでかは知らねぇから、そこは守護者サマがお好きな花だからって事にしとくけどな…」

ムシキは仕事場で伸びやかに育つスイートピーの蕾を見ながら、コレをどうやって現地の子ども達に届けるかを考えた。

避難所でスイートピー祭開催なんて、勿論初だし、本来悪手だ。

千羽鶴や花束は、現地で管理できないから嫌われるのだ。

実際、そういう“使えない物達”が大量に送られてきて、避難所が違う意味で爆発したとニュースになった事もある位だ。

「電気と水の供給法、現地の転送装置受容器の3つを確立出来れば、転送装置で工場ごと持っていって栽培可能。今ならコマツナの種もセット。」

「そうか、コマツナって寒さに強いし速く育つな! よし!!」

だが、避難所のスイートピー祭は、珍しく合成音声を外した同僚の御陰で実現できそうだ。

「んじゃ発電機は絶対要るな。あと水は…雪を溶かせたら良いけど熱源何処から拾うよ…ああそうだ、現地のダチに連絡しとかねぇと…」


「融雪装置が生きててマジで良かった…」

《《ロードヒーティング》《まじ》《神》。》

それから3日後、有志の活躍により、ヴァスカンダ区でスイートピー祭が決行された。

避難所の中、壁一面には小型植物工場装置が並び、その中には色とりどりのスイートピーが舞い踊っていたという。


追伸:コマツナは避難所のみんなが美味しく頂きました。まる!

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あの見た目、明らかに温かい所育ちなのに、なんで年末の花束に入っているのだろう?それは温室で、温かくして育てたからだよ!豆はマジ有毒なので、食べない様に!

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参考ホームページ

スイートピー

・Wikipedia

・https://hanajikan.jp/article/393

・写真はhttps://photo-room.net/2254/からお借りしました


寒冷地の温室事情

https://koyanagi-satoshi.jp/2017/10/31/1169/

http://yadokari.net/minimal-life/54034/

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcsir/2014/0/2014_49/_pdf

Wikipedia「消雪パイプ」

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CAST

・コモドーレのムシキ

・サルートのクリストフォール

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