デコボコ

藤井太雅

デコボコの、ボコ

 二人、という極めて限定的な人間関係が全てデコボコでできているんだとすれば、僕は間違いなく「ボコ」なんだと思う。

 例えば、二人で食事に行く場面を想像してほしい。

 「何が食べたい?」というデコの質問に、ボコが「うーん、ラーメンとか?」と答える。するとデコは「えー、なんか、ラーメンって気分じゃないんだよなあ。もっとこう、和風のさ、そばとかさ」。デコは「何が食べたい?」と聞くずっと前から、「そばにしよう」と決めていて、「いいよ」とボコが言ってしまうのをちゃんと知っているのだ。

 他にも例はある。

 デコの浮気がボコにバレてしまった。

「ごめん、許して! ほんとにもうしないから!」

 反省の色を示して、デコがボコに謝る。

 ボコは、ほんとうにデコのことが好きだ。別れたくないと思っている。けれど、浮気を一回する奴は、きっと二回も三回もまた同じことを繰り返すだろうということもよく分かっている。まだ好きだという気持ちと、安易に許してはいけないという気持ちがないまぜになりながら、結局自分がデコを許してしまうことなんて、もうずっと前からわかっていたことのような気がする。

 ボコは自分が永遠に「ボコ」にしかなれないことをよくわかっている。

 自分から誰かに話しかけるとか、連絡をとって遊びに誘うとか、告白するとか。そういう働きかけをするのが怖かったり、億劫だったりして、なかなかできないでいる。そういうボコにとって、デコは必要不可欠で、たぶん0を1にするきっかけをくれる存在なんだと思う。そういう奴ってだいたい社交的で明るくて、だから少し憧れもある。自分は紙粘土のようなもので、「デコ」という「抜き型」がなければ、そもそも形を表わせないのだ。

 ボコが持つような憧れを、デコは果たして持っているんだろうか、と思うことがある。

 デコがいなければボコが成り立たないのと同じように、ボコがいなければデコもただの「抜き型」でしかないということを、ちゃんとわかっているんだろうか。

 きっと、そこまで考えていないんだろう。デコは、ボコがいなくなって、きっと初めてそのことに気づくタイプだ。

 全国のボコたちに言いたい。

 きっと、あなたは永遠に「ボコ」だ。どうやったって。理不尽だと思うことだってきっと何度も起きる。

 だけど、僕たちが我慢しているだけ、僕たちは楽をしていて、世界はデコボコたちが上手くハマりあいながら、今日も平和に回っている。そう思うことが、きっと僕たちが平和に生きる道だ。

 

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デコボコ 藤井太雅 @taiga0918

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