6時間目「孤独」

わたしが探している部屋の条件は次の二つ。


1.なるべく狭い部屋。できれば椅子が置いてあるといい。


2.先客がいない部屋。先に誰かが入っていると、その部屋には入れないから。


とはいえ、ここは学校。


大人数が勉強する場所だから、どこも広い部屋ばかりだった。



「たしかここ、数年前に廃校になったところって言っていたっけ。


わたしが元いた学校よりは狭いけど、6人の生徒で使うにはもったいないわね。」



図工室、視聴覚室、体育館、コンピュータールーム…


いろいろな教室があったが、条件に合うところはなかなか見つからなかった。



「まずい、こうしている間にもわたしだけが残されていく…。


っていうか、みんなどこにいるのよ。


ここまでうろうろしているのに、誰とも会わないんだけど…。」



不安が募った。


一人しかいないと思う孤独感もその原因の一つだったのだろう。


とはいえ、誰かと会ったら会ったで気まずいだけだったかもしれない。


あきらめて適当な部屋に入ろうかと思ったときに、


目の前に教材準備室の教室表示が見えた。



「教材準備室…。


だれもいないわね。


部屋自体はほどほどの広さだけど、


ものがたくさん置いてあるから、


狭く感じられるわね。


それにこの薄暗い感じはトイレに近いかも…。


ここなら。」



そう思ったわたしは、部屋の隅に立てかけてあったパイプ椅子を一つだけとって、


部屋の真ん中に設置して、そこに座った。



「いい、


ここはトイレ。


トイレの個室の中、


だからおしっこをしても何の不自然でもない、


そう、わたしは今トイレでおしっこをしようとしているだけ。


だから…おしっこ…出そう。」



自分に言いきかせながら、必死にトイレでおしっこをするイメージを作る。


そうしているうちに5分、10分、20分と時間が経っていく。


気付いたら開始から55分経過していた。



「ああ、もうだめ!


ぜんぜんおもらしできない!


こんなに頑張っているのに…!


もうみんなクリアしちゃったのかな…


残っているのはわたしだけなのかな…。」



涙が出てきた。


出したいのはそっちじゃないというツッコミを入れる心の余裕はなかった。


そうやってあきらめかけていた時に、部屋の外から声が聞こえた。



「あと、5分切っちゃった…。


もうどうすればいいの…。」



どうやらまだおもらしできない生徒が他にもいたようだった。


わたしは、これまでの孤独感と焦りから解放されるような喜びを感じた。


どうせ後で先生からひどい辱めを受けるのだろう、


だからせめて残りの時間だけでも、残っている生徒とその悲しみを共有しようと思った。


わたしは、パイプ椅子から立ち、部屋の扉を開けた。



「あなたもまだ残っているの!?わたしもま…。」



(ショワー…)



気を緩めたからだろうか。


気の緩みとともに、わたしのおしっこを止めていた栓も緩んだようだった。


わたしは、


おもらしをしてしまった。


まだ自己紹介もしていない同じクラスメイトの前で、


しかも、少しだけでいいと思っていたのに、とてつもない量のおしっこを…。



「あ、あなたも残っているの?」



きっと今まさにおもらし真っ最中であることに最初は気付いていなかったのだと思う。


おむつはこれだけの量のおしっこをすべて吸収してくれたし、


本人以外にはおしっこをしている音が分からないようにしてくれていた。


しかし、わたしの羞恥心があふれ出ることを、防いではくれなかった。




「ん、え…ええっと、い、今終わったところ。」

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